第4章 グローバルリング

 ────まもなく大晦日の慌ただしい日を迎えてゆく。


 クリスマスを迎えると東京へガイドブックを頼りにひとりでやって来る。なにぶん初めて訪れる都会の街、やること為すことに興味津々である。

 恥ずかしくも、新幹線の座席で母親の持たせてくれる握り飯を頬ばっていた。もうひとつ手にするのは志す大学案内である。


 東京の街かどにある池袋駅。慌ただしく大勢の人が乗り降りしている。


 やっぱり、東京はすげぇや。


 まるで別世界に見えてくる。故郷の漁村とは違う。キョロキョロしながら、ため息をつく。駅の中がショッピングセンターとなり、煌びやかな光景に酔いしれてゆく。


 通勤客らしい人波を縫うように進み、コンコースを過ぎて西口への階段を上がると、全く異なる世界が見えてくる。もう一度、ガイドブックを覗いてみた。


 ビルの谷間には音楽コンサートや演劇が開催される野外劇場があるはず。『グローバルリング』で有名なところだ。やっぱり、大勢の若者が集い、中にはカップルまでいる。耳を澄ますと、ときめきを感じるラブソングが届いてきた。


 ランタンに火が灯されてゆく。大切な人への想いを繋ぐらしい。現代の丸い鳥居と呼ばれ、かって、この地域にあった『丸池』をモチーフにしており、過去・現代を未来へとつなぐかけ橋とも書かれている。


 いま、劇場からは大好きな音楽「若人を時とアオハルの風の中へ」のメロディーが届いてくる。光輝くリングの傍にはクリスマスの夜景が綺麗であり、つたの絡まるチャペルや夕陽に映える時計台のレンガ校舎で有名な学校があると聞いていた。


 名前は、『立明大学りつめいだいがく』という。


 学校方針は「愛することに自由であれ」

 英訳すると、Be free to love。


 百年の歴史があるにも関わらず、方針は、昔から変わっていないという。来春の受験で目指す第一希望の大学である。


 今日は12月24日、クリスマスイブ。時刻は、まもなく夜の六時二十分となる。のんびりしている暇はなかった。


 

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