第177話・作戦開始

 翌日サミラス皇子は動いた。名目は宰相が南方総督を呼び出したという物だ。


 そもそも南方総督とは、広大な帝国の領土を区分けした一つの南方地区のトップになる。


 南方地区の行政長官と軍の司令官の上役になるらしい。


 とはいえ行政面では宰相が更に上位に居て、軍は皇帝の命令がなくば動かせる物ではないので、事実上のお飾りというのが現状みたい。


「そのお飾りの皇子様に南方軍が従ってるの?」


「皇帝陛下の命令書がありますから。ただ南方軍の高官はすでに計画を理解して、バルバドス皇子の排除の為に動いてますので、命令書は大義名分でしかないのでしょうが」


 この日オレはエル達やクリスとミリー達ばかりかマルク君とも一緒に、帝都郊外にて小型の戦闘艦で待機していた。


 状況次第では介入しなくてはならないし、情報をリアルタイムできちんと把握するには、それなりの設備の整った艦が必要なんだ。


 肝心のバルバドス皇子はこの日も帝都を離れて、ダークエルフの自治区の付近や、獣人などの他の亜人の領域をしらみ潰しに捜索してるらしい。


「で? これがオレ達の大義名分か」


「何事も備えは必要ですから」


 ちなみにオレ達は、皇帝と宰相のサインがしてある依頼書を持ってる。


 バルバドス皇子の捕縛に協力を依頼する内容で、その際に発生した損害や問題に関して、全て責任を問わないというお墨付きだ。


 元々はジョニーさんが貰った依頼書なんだけどね。勇者とその仲間に向けた依頼書なんで、オレ達が預かってる。


「まあ、いいか。ジュリアにやり過ぎないように連絡して」


「了解しました」


 ああ、今日はいつも居るジュリアはこの場に居ない。ジョニーさんや死神さんと、呼び寄せた戦闘型アンドロイドのみんなと一緒に帝都内に残ってる。


 無いとは思うけど何かしらの罠とか、噂の魔族とかが現れたらどうなるか分からないからね。


 それに皇宮内の制圧は、サミラス皇子が到着する前にこちらで済ませた方が良さげなんだよな。


 皇帝とミリーのお母さんが危なくなりそうだからさ。




「凄いわね。大艦隊じゃない!」


 サミラス皇子が率いた南方軍の空中船は五十隻になる。戦闘船は半分程で残りの半分は兵員輸送の船みたいだけど。


 クリスお嬢様は何故か興奮気味に、サミラス皇子の艦隊の映像を見てる。それがこの惑星の人の反応なのか。


 サミラス皇子の艦隊の上空にも護衛する艦を、数隻大気圏外に配置したから大丈夫だと思うけど、クリスお嬢様の発言がフラグになるとかないよね?


「司令。バルバドス殿下の艦隊が急遽反転しました。進路はサミラス殿下の艦隊かもしれません」


「やっぱり罠なの? ジョニーさんの勘って当たるね」


「情報が漏れるのは想定の範囲内です」


「サミラス殿下に知らせたいとこだけど、通信機もないんだっけ?」


「はい。残念ながら。魔物を使った伝書鳩のような仕組みは、あるようなのですが」


「仕方ない。オレ達で行くか。帝都は中央司令室とジョニーさん達に任せよう」


 やっぱりフラグになっちゃったじゃないか。今度彼女にはフラグの大切さを教えないと。


 ジョニーさんは皇帝達の近くから動かせないし、サミラス皇子の方はオレ達で行くしかないね。


 後々ややこしいことになりそうな気もするけど、後始末は全部勇者様の活躍にして丸投げしよう。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る