第152話・帝都と海竜
「おい! なんだあれは!?」
「まさか、また勇者様が?」
「あっ、はい。家の作業場まで運ぶので、船のまま街に入る許可を頂きたいのですが」
「あー。ちょっと待ってろ。上に確認してみる」
帝都は到着早々に騒動になっていた。
そりゃ数時間前に出掛けた勇者が、竜を船からぶら下げて帰れば騒ぎにもなるわな。
基本的に帝都の上空は飛行禁止区域らしく、通常は町外れの空中船の停泊場に停めなくてはならないんだとか。
ただ竜は重いからね。
このままイースター商会の作業場に運びたいみたい。
冒険者ギルド? オレ達冒険者じゃないしね。行かないよ。
「特別に許可が降りたが、変なとこに落としたりしたら被害は弁償してもらうがいいか?」
「はい。ありがとうございました」
許可が降りたのは三十分後だった。
一体誰が最終的に判断したか知らないけど、次々と集まってくる野次馬は貴族平民問わず、唖然として海竜とぶら下げてる船を見てるよ。
これ勇者とマルク君の家の名前がないと、騒動で済まなかったんだろうね。
「坊っちゃん。これは一体……」
「海竜です。解体をお願いします」
「かっ、海竜!? すっ、すぐに人を集めて来ます!」
イースター商会は帝都の郊外に、魔物の解体場と倉庫が一体となった作業場があるらしい。
よくファンタジーの物語では魔物の素材はギルドに売ってるが、リアルファンタジーであるここの人達は、普通に商会に売りに来るみたい。
まあ中間にギルドを挟むと手数料を取られるので、普通に高く売るために直接商会や職人に持ち込む人は珍しくないんだそうな。
「改めて見ると大きいわね。ロボ、ブランカおいで。大丈夫よ」
作業場の建物の外の荷物置き場の真ん中に海竜を下ろして、オレ達も輸送機を降りたが、流石のイースター商会の人達も海竜に軽いパニックになってる。
流石に生で見ると迫力が違い、みんな興味津々に見てるけど、ロボとブランカだけは怖いのかエルの後ろに隠れてるよ。
「生態系の頂点なんじゃないの? 竜って」
クリスお嬢様が二匹を呼ぶと、二匹は海竜を警戒しながら慎重にクリスお嬢様の元へと寄っていく。
もう死んでると理解してもいいと思うんだけど。
それでも怖いのかな?
おっ、二匹は唸り声を上げながら海竜に近付き、臨戦態勢で睨んでる。
ロボとブランカVS亡くなってる海竜の戦いだ。
慎重に唸り声を上げながら、まずは近付いたのはロボだ。
クンクンと匂いを嗅ぎ、ブランカに大丈夫だと呼んでる。
流石はロボ。男の子だね。
「ふふふ。狼が海竜と会うなんてないでしょうね」
最終的に二匹は海竜を前に、勝ったかのような雄叫びを上げてるよ。
「次は二人も戦いたいそうじゃ」
「戦いたいって海竜と?」
「うむ。狩りを教えて欲しいと言うておる」
何がしたいのかよく分からなかったけど、ミリーお嬢様いわく二匹は海竜を相手に戦いたいらしい。
生身で海竜と戦うなんてジョニーさんじゃあるまいし。
自分達も参加したかったのかな?
オレも言われるがままに、事態を承認しただけなんだよね。
まあ微笑ましい光景だからいいけどさ。
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