第19話・ファーストコンタクト
「第二射発射用意!」
こちらのカノン砲初撃も残念ながら外れてしまったな。
ロボット兵には距離と風や波の高さを計算させるプログラムを組み込んだらしいが、船は常に動いているし波の動きを全て計算してる訳でもない。
あくまで熟練者がする程度の予測をさせてるようだ。
カノン砲自体の精度もさほどいいとは言えないので、距離がある現状では外すのは仕方ないだろう。
ただそれも失敗とは言えず、海賊達は慌てて自船に戻り動かし始めているので、襲われていた商船は手薄になっているはずだ。
「ジュリア。商船に接近するから飛び移って」
「任せとくれ」
帆船なんて物は一旦止まると動かすのが大変で、すぐには動くものではない。
その隙に手薄になっている商船に船を接近させた瞬間に、ジュリアと数名のロボット兵を商船に送り込む。
まあ指揮はセレスに任せているので、オレはやはり見てるだけなんだけど。
「おっ、当たったな」
「よし! カノン砲発射用意をして、このままの距離を保て!」
船は商船をかすめるように接近しジュリア達が飛び移ると、離れる際に商船の隣で右往左往する海賊船にカノン砲が至近距離から命中した。
海賊達は船を動かそうとする者がカノン砲で負傷したらしく、混乱は更に拡大してるみたい。
人質でも欲したか海賊達は再度商船乗り込み始めるが、手薄にしたのが運の尽きだ。
商船に居た海賊は、商船の乗組員とジュリア達がすでに倒している。
何人居るか知らないが、海賊達はたいした強さじゃないようだ。
人に偽装したロボット兵にすら負けてることから勝敗は早くも決していた。
「助かったぜ。オレはヴェネーゼの商人のボルドンだ」
「アレックスです。駆け出しの商人見習いをしてます」
ジュリアが敵船を制圧したことで、オレ達は船を商船に横付けしてこの惑星の知的生命体とのファーストコンタクトをすることになる。
しかし商船に止め綱を打ちジュリア達を迎える時に挨拶してきたのは、40代だろうがかなり体格がよく、まるで映画の海賊のような人相の悪い男だった。
「助けが要らなかった気もするけどね。海賊よりこいつらの方が強いわ」
「いや助かったのは本当だぜ。オレとしたことが、船に海賊の手下を潜り込ませちまってな。犠牲者を出さなくて済んだのはあんたらのおかげだ」
ただ、人を見た目で判断するべきではないし、リアルではアラサーだったオレもここでは十六才の若造でしかない。
それにあまり人付き合いが得意でないという事情もあり腰を低くして応対するも、ジュリアはすでに打ち解けた様子で親しげに話をしてる。
そういえばオレはギャラクシー・オブ・プラネットで、あまり人前に出ない代わりにエルとジュリアを出してた。
そのせいかジュリアは、プレイヤーの知り合い多かったんだよね。
よくジュリア経由でイベントに誘われていた記憶がある。
「頭! こいつら全員縛りやしたぜ!」
「さて、アレックス殿。こいつらの始末はどうする? ジュリアに聞いたら、アレックス殿にと言われたんでな」
「私達は不要ですよ。そっちで要らないなら魚のエサにでも何でも」
「グハハハ! オレ達だってこんなクズ要らねえよ。だけどこいつらは、最近この辺りで弱そうな船ばかり襲ってるケチな海賊でな。賞金首なんだ。賞金はたいした額じゃねえが、殺られた奴も結構居る。ヴェネーゼまで連れてって目の前で処罰してやらねえと、本人も遺族も浮かばれねえ。悪いが急ぎじゃねえなら、ヴェネーゼまで付き合ってくれねえか?」
ボルドンさんは明らかな悪人顔だし、商船の乗組員もガラの悪い海の男そのもので、どちらかと言えば縛られてる海賊達の方が見た目は善良な商人に見える。
尤も海賊達はお風呂に入ってないのか、かなり汗やら何やらの匂いが混じって臭いんだけど。
エルやケティは顔色こそ変えてないが近寄らないし。
ただ、ボルドンさんの人柄が垣間見えたのは、海賊達の処遇の話をしていた時だった。
自分で手を下してわざわざ殺す気はオレにはないが、他人の財産を狙うクズを庇う気はもっとない。
うちの船にこんな臭い奴ら乗せたくないし、ボルドンさんが要らないなら海にでも捨てていけばいいと本気で思ったんだけど。
驚いたことにボルドンさんは、こいつらを町まで連れていきたいらしい。
「賞金だけなら首と船でいいんだがな。海の男としての義理って奴だ」
「頭は見た目は海賊より怖いのに優しいから」
「うるせえ!」
海賊達にはまるでゴミでも見るかのように嫌悪感を露にするが、被害者を語る時はその瞳に悲しみがあって、それが嘘には見えなかった。
優しい言葉を掛けつつ財産を狙う親族から始まりオレは、それなりに人の本質を見る目はあると思うのだが。
そんなオレの微かな戸惑いを理解したのか。
それともよくあることなのか不明だが、商船の乗組員がチャチャを入れるように口を挟むと、ボルドンさんは少し照れたように怒鳴った。
結局ボルドンさんと乗組員の人達を見て、オレは彼らに付き合いヴェネーゼという町まで行くことに決めた。
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