第四章【僕が一番、僕のことをわかっているのさ】
第21話『久しぶりに会ったが、相変わらずだな』
便利な機能を今日も今日とて有効活用し、現場に到着。
僕に相応しい仕事が目の前に居た。
白霊体。
新米なりに、仕事に慣れてきたと自負しているが、だからといって一人一人雑に接していいわけではない。
僕は僕の信念に懸けて、自分のためではなく相手のために祓うんだ。
と、カッコイイことを言っていたが、目の前に居る白霊体はなんとも言えないことをお望み始めやがった。
『一度で良いから可愛くて若い女の子を拝みたい』だと。
まあでも、そういう欲求を拗らせた結果、廃霊体となり若い女の子を襲い始めるというのは容易に想像できる。
だから、そういったため息が溢れてしまう要求であっても、できるだけ叶えてあげたい。
『なあ絶、僕が女装をしたらどうなると思う? 案外に様になったりしないかな? 美少女天空ちゃん参上! 的な』
『一生のお願いじゃ。絶対にそれだけはやめておくれ。そんな主様の姿なんて見とうない』
『そうか? それは残念だ。一度だけでも試してみる価値はあると思ったんだが』
『待ち受けるのは惨状じゃ、勘弁しておくれ』
珍しく直球な物言い。
僕が女装したとしても似合わないことぐらいわかっているさ。
控えめに言って顔が整っている訳でもイケメンの片鱗すらない僕が、女装をしようものなら悲惨な結末が待っていることぐらい、百も、いや億も承知だ。
『お気に入りの子の写真を持ってはおらぬのか?』
『な、何ぃ!? 絶、お前は天才かぁ? 何でもっとそんな素晴らしいアイデアを提供してくれなかったんだ!』
『な・に・を訳のわからないことを言っておる。写真の一つでも見せたら解決するのではないか、ということじゃ!』
『なんだそういうことか。だったら早くそう言ってくれよ。ちなみに、そんなものは持ち合わせていない。次会った時にでもお願いしてみようかな』
『いーや、それだけは絶対にやめておくのじゃ。どう考えても不審者以外の何者でもない』
『そうなのか? 女心というのは難しいんだな。あ、ならば今度、絶の写真を撮らせてくれよ。待ち受けとかにしたら眼福ってもんだ』
『そ、そうか? 妾を観ると眼福なのか? なら、今度の機会にやってやっても良いのじゃが』
『いいねえノリノリじゃん。じゃあ今度頼むよ』
と、なんだか良い雰囲気になったのだが、何一つ解決策が導き出されていない。
『さて、どうしたものか』
『ふむ……主様は、妾を美人と言ったな?』
ん? そんなことを言ったか?
『だ、だというのなら。わ、妾が姿を現せば解決するという風にはならんかの?』
『おお、それは天才的発想だ。それだ、それがいい、そうしよう。でも、一応のためにこの白霊体が満足したらすぐに姿を消してくれ』
『なんじゃ? 主様は妾を拝みたくはないのか?』
『いや、僕はいつからお前を崇拝するような人間になったんだ。僕が怪異を崇拝してどうするんだよ、祓魔師だぞ』
『それはそうじゃな。じゃがわかった』
これはただの懸念だ。
前回は状況が状況だったため、考える事すらできなかったが、もしも同業者が姿を現したら言い訳のしようがない。
顔や姿がわからないからと言って、あの力や霊や怪異を見てどうようしない一般人なんてどんだけメンタル強いんだよって話だ。
即戦闘ということにはならないが、尋問にかけられる可能性は非常に高い。
霊や怪異との戦闘は良いが、人間、しかも同業者とのいざこざなんて避けられるならそれが良いに決まっている。
「それでは、っと。実に数十時間ぶりじゃの」
「おう。なんというか、やっぱ綺麗だな、お前」
「ここは素直に、ありがとう。と、言っておこう」
そして、白霊体は。
「あ、あぁ……なんと、なんと可愛らしい女子なんだ……」
どうやら、感無量の様だ。
「お主、他には望みはないのか? 今の妾は非情に気分が良い」
「……そんな恐れ多い。美少女は眺めるのが良いんだ。何かをしてもらおうなんて、失礼極まりない」
どうやら、彼は礼儀正しい変態紳士だったようだ。
「あぁ……ありがとう、ありがとう。これで望みは叶った……」
「じゃあ絶、戻って良いぞ」
「なんじゃ、この期に写真でも撮ったら良いのでは?」
「いいや、それはいつでもできる。美人ってのはいつ見ても最高だからな」
「まあそう主様が言うのなら? わかった」
「さて」
後はこのまま成仏するまで見守ってあげればいいだけ。
だけなのだが、この変態紳士様はもしかしたらもう一度同じ事を言い始めそうだから、少しばかり成仏するのを手伝う。
なんら特別なことをするわけではない。
手に気を集中させるだけだ。
「望みが叶ったようで、僕も嬉しいよ」
「ありがとうな、あの子は最高に可愛かったよ」
「ああそうだろ、僕の自慢だからな。じゃあ、元気でな」
「ああ」
僕達は男同士、握手。
すると、男の体から光の粒が出始め、天へ座れるように消えていった。
これで、仕事完了。
『ふっふふ~ん、ふふふ~ん』
『どうしたんだ、随分と気分が良さそうじゃないか』
『妾は主様の自慢~、妾は世界一の美少女~、妾は美人~っ』
ああ、なるほど。
まあ、仕事を手伝ってもらったんだ。気持ち良く終わってくれるならそれに越したことはない。
さあ帰るか。
回れ右――足が止まる。
正しくは、足を踏み出せなかった。目の前に立つ少年の姿を見て。
「よぉ、まだそんな生温いことをやってんだな」
第一声、威勢の良い台詞を吐き出す。
初対面の相手だったら、クソ失礼な野郎だ。そう、初対面だったのなら。
「久しぶりじゃないか、天空」
「……宮家」
宮家大我。
いつでも眉間に皺を寄せているような愛想のない顔。いや、正しくは僕に向けるその視線を見たことがないから、それ以外を知らない。しかも、第一声でわかる通り、言葉遣いは悪く、善人というよりは悪人という役の方が似合っている人間。
能力的には、通っていた学校を一番最初に卒業したぐらいは優秀だ。
だが、彼は、彼だけは馬鹿な僕から離れて行く彼らとは違い、最初から最後まで僕に突っかかってきていた。
そして今も。
「どうして宮家がここに居るんだ」
「あ? てめえが俺に質問なんざ、随分と偉くなったもんだな。だがまあ、せっかくの再会だ、応えてやるよ」
なんだかな、そのさいかいって言葉は懐かしいぜ。ずっと最下位って言われてたからな。
「暇潰しだ」
「はぁ?」
「あぁ? やんのか?」
「い、いや。そんなつもりもないし、やりあったところで、勝てる見込みはないのは十分に理解している」
そう、彼と僕の間には努力程度で埋まるような差ではない。
『主様、妾はこいつが好かん。ちいと姿を現して一発殴ってもいいかえ?』
『いいわけないだろぉ! そんなことをしたら、相手は人間なんだぞ!』
『祓魔師なんじゃろ? これぐらい大丈夫じゃろうて』
『んなわけあるかぁ! 師匠ほどの実力者ならわかるが、絶対に死ぬわぁ!』
『ならやめておくか』
『ああ、是非ともやめてさしあげろ』
急に黙り始めるから、睨む目から鋭い眼光が飛ばされてしまう。
「なんだてめえ、まーだ国語も知らねえような頭してんのか? 相変わらずの馬鹿だな。このまま話してると馬鹿が移っちまうな」
『デコピンで良い、許可を』
『ダメに決まってるだろ! そのデコピン、絶対に殺意MAXだろ! 絶対にヤベえって!』
このままのテンションで喋り出すとマズいため、咳払いをする。
「すまない。相変わらずの馬鹿のままなんだ」
「けっ、つまんねえ。もっと駄々でもコネて張り合えねえのかよ」
「本当にすまない。僕には国語というか、未だに小学生が読める感じでさえ読めないことがある」
「ああそうかよ。あーつまんねえ、興が冷めた」
そう言い終えると、ポケットに手を突っ込んだまま歩き去って行った。
『本当にいけ好かない。あのツンツンした髪型もあの不貞腐れた顔も歩き方も、存在も』
『まあ嫌いなのはわかるけれど、最後のだけはやめてあげてくれ』
『次に言葉を交わしたら許可すらもらわず手が出てしまうかもしれない。主様は悔しくないのか』
『まあ悔しいけど、あいつが言っていることは正しい。だろ?』
『……』
まあその反応が正しい。
一緒にテストを受けた、一番近くで僕の身体能力を観た絶なら。
『だからまあ、罵られるぐらいがちょうど良いのさ。それに、今は普通の学校に通っているし、みんな優しいし、森夏は天使だ。まだまだあるぞ、世界一大切な妹達も居るし――絶、今はお前が居る。だから別に良いんだ』
『主様は、心底お人好しじゃの』
『まあな。それだけが僕の取り柄だからな』
『ふふっ、そうじゃったな』
ちょっと、ほんのちょっとだけ心が傷ついたよ、今。
まあいいさ、もうあいつと会うこともないだろうし。
「よおぉし、帰ったら森夏に連絡してみよーっと」
『主様、たぶんそういうところじゃぞ』
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