34「またビッグネームじゃね?」①
「おう。昼飯だ!」
風呂から出たアルフォンスは、待っている間に銀子が近所の洋品店で適当に買ってきたスラックスとシャツを着て昼食を作ってくれた。
一登に担ぎ込まれたときは何事かと思ったが、今はすっかり元気のようで何よりだった。
(アルフォンスさんの元気な姿を見ると、完全なる血統でよかったと思えるかも)
夏樹は魔力任せの回復魔法「ヒール」を持っていて、かつて水無月都を真っ二つにしてしまった際、治すことができるほどの回復力を誇る。
しかし、夏樹の雷で焼かれた小梅の翼はあまり回復できなかった。
魔力の問題か、夏樹の技量不足のせいか、天使に「ヒール」の効果はあまりなかった。
だが、完全なる血統の血で小梅が回復したことから、アルフォンスも同様に回復してくれたのだが、もしも夏樹が完全なる血統でなかったらと思うとゾッとする。
「いだだきまーっす!」
「いただくぞ!」
「俺までありがとうございます、アルフォンスさん」
「気にすんな。一登は俺の恩人だ。たんと食ってくれ!」
エプロンを装着したアルフォンスも自分の皿を持って丸テーブルに並ぶ。
「どうしたんだ、夏樹? 食べないのか?」
「あ、うん。いただきます」
「おう」
「うまっ!」
一口食べて夏樹は感激した。
アルフォンスお手製ミートソースパスタは最高だった。
じっくり煮詰めてトマトの甘みを出したベースソースに、挽肉と飴色になるまで炒めた玉ねぎ、そして食感を変えるために少し荒めにした肉も入っている。
パスタは、先日アルフォンスが「食ってくれ」と置いていったものだが、聞けば自家製のようだ。少し太めのもちもちした食感がたまらない。
チーズはお好みで。
「うま!」
普段、パスタは冷凍か、スーパーで売っているパスタソースで味を選んで食べるくらいだ。
パスタは好きなのだが、パスタのお店に行くのもちょっと敷居が高く感じてしまうので行ったことがない。
商店街にある洋食屋さんでナポリタンやカルボナーラを食べることもあり、そちらも食べ慣れた味で美味しいのだが、アルフォンスお手製ミートソースはそれ以上に絶品だった。
「……さすが女神と料理勝負して勝った天使だね」
「褒めるなって。デザートしかでないぞ」
パスタの美味しさに震えている夏樹たちの前に、苺のムースが出される。
銀子と小梅の目が輝いた。
「やばいよ……夏樹くんたちがファンタジーなのもびっくりだけど、アルフォンスさんのパスタが美味すぎてやばい! もうコンビニや冷凍食品は食べられない!」
「よせよ、一登。照れるじゃないか」
もともと人懐っこい一登は、あっという間に打ち解けていた。
きっとジャックたちとも良い関係を築いてくれるだろう。母だって、久しぶりに一登が顔を見せれば喜んでくれるはずだ。
銀子と小梅は一心不乱にパスタを食べ終わると、ムースを一口食べて「うんまー」と声を上げる。
「よし。アルフォンス! お前を由良家専属料理人にしてやるぞ。ありがたく働くんじゃ!」
「ふざけんな。料理を作ってやるのはいいが、これ以上由良家に迷惑かけられないだろ!」
「春子ママさんのご飯ももちろん美味しいんじゃが、アルフォンスならわがまま言っても罪悪感がなくてちょうどいいんじゃが」
「俺はよくねえよ。ったく、襲撃されたせいでせっかく買った食材は川に沈んじまったし、金はねえし、そもそも職もねえし」
「え? 天使って……働くんですか?」
一登が驚くと、アルフォンスが当たり前だろ、と頷く。
「自給自足している奴もいれば、人間に紛れて働いている奴もいる。意外と、知り合いに神族や魔族がいるかもしれないぞ」
「……きっと三件隣の山田さんは人以外のなにかだよ。ご近所の情報収集がやばいもん。なんでも知ってるもん。困ったことあったら山田さんに聞いたらなんでもわかるもん」
「すげえな山田さん!」
談笑しながら楽しい昼食が続いていたその時だった。
――ぴんぽーん。
来客を告げるチャイムが鳴った。
「あ、誰か来た」
さすがに客人たちに出てもらうわけにもいかず、ジャックが帰ってきた可能性もあるので、夏樹がフォークを置いて口周りをテイッシュで拭くと玄関に急いだ。
「どちらさまですかー?」
「こんにちは。ミカエルです」
「――は?」
玄関の向こうにまたビッグネームがいた。
〜〜あとがき〜〜
ミカエルさん襲来!
ここで来ちゃいました! 天使もビッグネームから来ちゃうスタイルです!
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