ホワイトデー記念SS
注意:いつかどこかでのホワイトデーだと思って読んでいただけたら幸いです。
特別本編と関係はございません。
「――ホワイトデーじゃ!」
「ホワイトデーっすね!」
「あ、はい」
三月十四日。
由良家の茶の間で、期待する瞳を夏樹に向ける小梅と銀子がいた。
ちょっと押され気味になりながら、返事をした夏樹はラッピングされたケースに入った手作りのマカロンをそっと手渡す。
「おおっ! マカロンじゃ! 俺様、マカロン大好きなんじゃ!」
「あれ? これ手作りっすか!? うわぁ、女子力高いっすね!」
喜んでくれるふたりに、夏樹は笑みを浮かべながら内心安堵していた。
先日、魔王サタンから「ホワイトデーのお菓子を一緒に作らないか?」と電話があったときには唖然としたが、いい機会だと思って参加した。
お菓子の先生はミカエルの息子アルフォンスだった。
アルフォンスの教えは的確で、料理の経験などあまりない夏樹でも無事にマカロンを作ることができた。本来なら、マカロンは難易度が高いお菓子なのだが、さすが北欧の女神にお料理三番勝負で勝った天使だ。素人の夏樹にもちゃんと美味しいマカロンを作らせてくれた。
サタンは最初こそ、『友人からもらった林檎』でアップルパイを作ろうとしたが、なぜかアルフォンスが全力で止め、ルシフェルまで止めにくるという事態に発展してしまった。
アップルパイが問題なのか、それとも他になにか原因があるのか夏樹にはわからなかったが、いろいろ抵抗したもののサタンは大人しくホワイトチョコレートを作ることとなった。
サタンがホワイトデーに贈る相手は、もちろん夏樹の母春子だ。
バレンタインデーには手作りのチョコをもらったようで、嬉しそうに小躍りしていたらしい。
母は、週末ワインを嗜むことがあるので、サタンはマリアージュを楽しんでほしいと、ホワイトチョコ以外にもいくつかチョコを作っていた。
また手作りだけだと重い男だと思われてしまうのでは、と危惧したサタンはワイングラスを用意していた。さりげなくペアを用意したのは、あわよくば一緒に飲みたいと思っているのだろう。
アルフォンスは、女神三姉妹とチョコレートパーティーをするそうなので、フルーツをいくつか商店街で買って飛んで行った。
ルシフェルは、「興味ありません。贈る相手もいません」とはっきり言い、サタンに「お前、寂しい奴だな」となんとも言えない顔をされていた。
そして、夏樹は手作りのマカロンを渡し、現在に至る。
「……思い返すと、俺らは市販のチョコじゃったな」
「……もっと手の込んだことすればよかったっすね」
「よくわからんもん作って夏樹が腹壊す結末しかないじゃろ」
「私たちの女子力じゃそうでしたね」
「はぁ」
「はぁ」
急にテンションの下がってしまったふたりに、夏樹が慌てて声をかけた。
「そんなことないよ! ふたりにチョコレートをあーんしてもらえたから、幸せだよ! こんな美人ふたりにあーんとか、異世界の国王だってしてもらってなかったもんね!」
「……夏樹……わかっとるじゃないか! そうじゃろ、そうじゃろ! 俺様はめっちゃ美人だからな! 銀子も俺様ほどではないが、まあまあ美人じゃし、そんなふたりからあーんしてもらえるような人間はまずおらんじゃろう!」
「余計なことも聞こえましたけど、気分がいいので聞かなかったことにするっすよ! にしても、夏樹くんもあーんで満足とはかわいいっすねぇ。お姉さん、いつでもあーんしてあげるっすよ!」
夏樹の嘘偽りのない言葉と、少し照れて頬を赤くするように、小梅と銀子はすぐに上機嫌に戻った。
バレンタインデーには、ふたりに代わる代わるあーんをしてもらい幸せだったのは言うまでもない。
ふたりのテンションが上がっている今こそチャンスだ、と夏樹はふたりがきっと喜ぶだろうと思われるものをアイテムボックスから取り出し、どんっ、と畳の上に置いた。
「――そして、芋焼酎です!」
希望小売価格では手に入らず、いつでもプレミアムな値段がついている芋焼酎を一升瓶で一本。
「んでもって、さらにウイスキーをどん!」
やはりプレミアムな値段がつき、そもそも店頭で見かけることのないジャパニーズウイスキーを一本。
「んでもって、ふたりとも好きなビール!」
二十四本入りのケースをどん、と置く。
焼酎とウイスキーはリカーショップ花丸で隠し持っていたものを出してもらったのだ。
顔見知りの店主は、小梅と銀子への贈り物と言うと喜んで出してくれた。
もちろん、未成年である夏樹はお酒を購入できないので、サタンにお金を渡して代わりに買ってもらった。
その場にいたのであまり変わらないかもしれないが、グレーゾーンということで勘弁してもらった。
「えっと、いろいろ世話になっているし、喜んで欲しくて」
お金は水無月家から回してもらった悪霊退治を何件か行ったので、余裕だった。
バイトではなく、あくまでもお手伝いという形である。
お酒を送るのは少々どうかと思ったが、お酒大好きなふたりには一番いいのではないかと思って選んだのだ。
反応はどうだろうか、と恐る恐るふたりに視線を向けると、彼女たちは感極まったように瞳を潤ませ、そして抱きついてきた。
「「だいしゅき!」」
思い出に残るホワイトデーになって夏樹は嬉しかったが、その日の夜は、茶の間がとても酒臭かった。
〜〜あとがき〜〜
ホワイトデー記念にアップさせていただきます。
※この後は健全な展開でした※
いつもコメントどうもありがとうございます。
本日も体調不良が続いているため、コメントへのお返事をお休みさせていただきます。皆様のコメントを拝見し、元気をいただいております!
良いホワイトデーをお過ごしください。
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