19「深夜の家庭訪問じゃね?」①
由良家の夕食は大賑わいだった。
サタンのお金で買ってきた国産和牛は絶品で、奪い合いが起きた。
特に小梅と銀子が唸り声を上げて取り合っている光景は、なかなかのものだった。
サタンも肉に手を伸ばそうとするが「しらたきでも食ってろ!」と小梅に山盛りのしらたきを取り皿に入れられ、ルシフェルも「ネギでも食ってろ!」と山盛りのネギを皿にぶちこまれて父子で悲しそうな顔をしていた。
見かねた夏樹が、勇者パワーで身体強化すると小梅と銀子が取り合っている肉を流れるように箸で掴む。そして、サタンとルシフェルのお皿に。「いい子だな」「いい子ですね」とふたりはにっこりだった。
その後、昼間酒屋で買ってきたらしいウイスキーを並べると、母が目を輝かせた。サタンは日本酒に目が釘付けだった。
酒盛りを始める一同の楽しい声を聴きながら、夏樹とルシフェルはエプロンを装備して後片付けをした。
夏樹は、明日から土日で学校もお休みだが、大人たちのどんちゃん騒ぎに付き合うつもりはない。そもそもお酒が飲めないし、お酒の良さもわからない。
いい感じに酔っ払った銀子はサタンを相手に平気で話をしているし、小梅は新しいキャラクターが発動して意味がわからないことになっている。サタンは春子とお酒が飲めるのが嬉しいようで、にっこにっこだ。
「んじゃ、おやすみなさーい」
シャワーを浴びて、一足先にみんなに挨拶をして、部屋に戻る。
スマホを充電器に挿し、SNSのチェックをしようと思ったが、今日は一日精神的に疲れたので、夏樹はすぐに眠ってしまった。
■
「なぜ勇者は魔王を倒さなかったのだ!?」
「散々いい思いをさせてやったというのに!」
「どうする!? 魔王が存命で、四天王も健在だ! なぜ勇者は奴らを殺さなかったのだ!」
「また勇者を召喚すればいい!」
「しかし! 前回は聖剣が使い手を選ぶために儀式を手助けしたようですが、今回は聖剣すらない! あの勇者と一緒に消えてしまったではありませんか!」
「ならば生贄を用意すればいい。文献によれば、生贄を捧げれば勇者を召喚できるとあるではないか」
「馬鹿者! ゴミのような民を何人犠牲にしたところで我らひとりとは釣り合わん!」
「よい生贄がいるではないか。勇者の子供を身籠ったなどと愚かな嘘をつき、父親の友人でもある世帯持ちの子を孕んでいた尻の軽い姫君が!」
「おおっ、それは名案だ! あのような汚らわしい女でも、使い用はあるということか。ついでに、玉座から引きずり下ろされた無能な男と、その妻、他の子供たちも生贄にして仕舞えばいい!」
「素晴らしい考えだ! 今度こそ、魔王を殺し、人間の繁栄を!」
夢なのか、それとも異世界を本当に見ているのかわからない。
見知った顔が唾を飛ばし、醜い言葉を吐き出している。
――あまりにも悍ましい。
人は、あんなにも醜くなれるのか。
自分もなにかのきっかけであのような愚かな人間になってしまうのか。
夏樹は吐き気を覚えた。
異世界の人間たちがどうなろうと知ったことではない。
異世界の魔族がどうなろうと知ったことではない。
「――滅びるまで勝手にやってろ」
異世界ではついに伝えることができなかった言葉を、届かないとわかっていても吐き出さずにはいられなかった。
「――あまりそちらに近づかないほうがいいでしょう」
「え?」
どこか優しい声が響くと、醜い言い争いをしている人間たちが消えて真っ暗な空間になる。
夏樹は、自分の姿を認識することができ、立っていることを自覚した。
「君が召喚された異世界は、こちらの世界とはまったく縁のない世界です。別の時空、それとも別の宇宙というべきでしょうか。適切な言葉が見つかりません。ただ、先生としてはせっかく戻って来られたのですから、関わらないのが一番です、と助言させてください」
穏やかで聞き覚えのある声の主を探すと、いた。
夏樹はその人物を見つけて、驚き目を丸くする。
夢の続きを見ているのだと思ったが、違うとなんなくわかる。
「月読先生……これ、なんですか?」
放課後の職員室で言葉を交わしたときと変わらぬスーツ姿の月読命に、夏樹は戸惑いながら訪ねた。
〜〜あとがき〜〜
異世界は夏樹が帰還したあとぐっちゃぐちゃ。
魔王と相討ちになったと思われていたので、ちょうどよく死んでくれたと喜んでいる者たちが多かった。王女は身籠っていた子を夏樹との子供だと言い、立場を得ようとするがあっさりとバレてしまう。糾弾され、騎士団長との子供だと明るみになる。さらに複数人と関係があったことが暴かれてしまい、王女の地位を剥奪されています。国王は娘に手を出されていたことに怒り狂い騎士団長とその家族を処刑。だが、腹心を失ったことであっという間に失墜する。そのタイミングで魔王軍が再び侵攻開始。阿鼻叫喚。
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