25「未知との遭遇とかやばくね?」②
(魔王や魔神ならぶっ飛ばせたけど、この未知なる生命体は素直に怖い! キャトられたらどうするんだ!? 俺、嫌だよ、明日の朝、内臓がなくなった姿で発見されるのとか!)
夏樹は本気で魔力を高めてチャリを漕いで逃げようとした。
かつてない全直だった。
これほど力を使おうと思ったことがあるだろうか。しかも逃げに徹するために、必死になったことはあっただろうか。
「マッテホシイ、ショウネンヨ。ハナシヲキイテホシイノダ。キガイヲクワエナイトヤクソクスル。ダカラ、タノム」
単調な声のはずが、どこか焦っているように聞こえたので、夏樹は自転車を漕ごうとしていた足を止める。
「――よし。覚悟を決めた。話をしようというだけでも、水無月都や、綾川杏とは違うもんな」
「……アリガトウ」
「だけど、おかしなことをしたらぶった斬って焦げ焦げにしてやるからな! 変なことはするなよ?」
「ムロンダ。ハナシヲキイテクレルノニキガイヲクワエタリシナイ」
話をしたいのならしてやろう。
ビビってはいるが、宇宙人に興味がないわけではない。
宇宙船に連れ去られたとしても、最悪全力で抵抗すればいいだけだ。
いつでも戦える準備をしながら、話を聞くことにした。
「ワタシハトオイホシカラ、コンヤクシャトコンゼンリョコウデチキュウヲオトズレタ」
「――ん? 婚前旅行って言った?」
「ソウダ。ワタシトコンヤクシャハ、オサナイコロカラノ、オサナナジミダッタガ、タガイニスキアイケッコンノヤクソクヲシタ」
「……素敵な幼馴染みのようで羨ましなぁ」
「アリガトウ」
いろいろ突っ込みたいところはある。
婚前旅行に地球の日本に来ているのもそうだし、幼馴染みがまともでいいなとも思う。
婚約者がいるのなら、もうひとりグレイ型の宇宙人がいるのだろう、と警戒するが、気配がない。
「婚約おめでとう? でも、その話をするために俺を通せんぼするのはなんか違くない?」
「……マワリクドクテスマナイ。タンテキニイウト、キミニチカラヲカリタイ」
「力を? なにかあったの? 宇宙船が壊れたとか?」
宇宙船に関することならば、異世界帰りの中学生にできることはない。
近くの整備工場に駆け込んだ方がよほど力になってくれる気がする。
だが、宇宙人は首を横に振った。ちょっと、怖かった。
「ソウデハナイ。コンヤクシャガ、ツカマッテシマッタ」
「あん?」
聞き逃せないことを宇宙人が言った。
彼は続ける。
「コノマチニスム、ニンゲンニ、コンヤクシャガホバクサレテシマッタノダ。フシギナチカラヲツカウノデ、アラゴトニナリソウダガ、ゲンチノセイメイタイニ、キガイヲクワエルトモンダイニナッテシマウ」
宇宙人の身体が小刻みに震えているのがわかった。
悲しみなのか、怒りなのか、それともそのどちらもだろうか。
「コマッテイタトキ、トテモツヨイチカラヲカンチシタ。コンヤクシャヲトラエタニンゲント、ニテイルヨウデチガウチカラ。ゲンチノセイメイタイニショウタイヲアカスコトハユルサレテイナイガ、ドウシテモコンヤクシャヲトリモドシタイ」
「わかった」
「――ナニ?」
「俺でよければ力になるよ」
「ホントウカ?」
「ああ!」
未知なる生命体に怯えていた夏樹はもういない。
すがる思いで正体を明かし、婚約者を助けたいと願う男の助けになりたかった。
宇宙人とか人間とか関係ない。
誰かのために、行動できる奴は大好きだ。
恐怖を捨てた夏樹は、自転車から降りて宇宙人に近づき腕を伸ばした。
「俺は、由良夏樹だ。あんたの婚約者を取り戻そう!」
「――アリガトウ、ユラナツキ」
宇宙人は灰色の長い五本の指で夏樹の手を握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます