限界レベル無限! 英雄の息子が異種族ハーレムを作ってチート勇者達をフルボッコにします

かくろう

第1章 異世界殴り込み

第1話 龍神ファガン・異世界に降り立つ


「はっ、はぁ、はぁ、はっ、はぁ……誰か……誰か助けて……っ」


 少女は走っていた。


 必死に、必死に、必死に……。死に物狂いで……。


 うっそうと木が生い茂る森の奥。後ろから追いかけてくる野卑な暴漢の手から逃れるため、足がもつれそうになるのを必死で耐えて走っていた。


「あっ――」


 だが現実は非情である。出っ張っていた木の根に引っかかり、身体は前のめりに倒れていく。


 咄嗟の判断で両手をつくも、ぶつけた箇所に鋭い痛みが走り、整った眉がハの字に曲がる。


 少女は絶望していた。

 何故、私がこんな目に……?


 平和な村を襲った盗賊。

 少女は奴隷として売られる為に盗賊達に追われていた。


 少女は冒険者としてそれなりに名の通った実力者だった。


 その日は丁度、年に一度の祈りの儀式を催している巫女として呼ばれ、里帰りしている最中だったのだ。


 少女は故郷の村有数の美貌を持ち、魔人族としてそれなりに強い肉体と、優れた魔力、そして冒険者としての実力を持っていた。


 しかし、世界を守る龍の神々に祈りを捧げる祭事の巫女として村はずれの小屋で一晩を過ごしていたのだ。


 そのせいで村が盗賊の襲撃を受けた事に気が付くのが遅れてしまい、異変を察知した頃には全てが手遅れだった。


 生まれ育った家が炎に包まれて激昂し、その場面に割って入った。


 だが多勢に無勢の言葉通り、丸腰の少女の力では盗賊の数人を撃退するのがやっとだった。



 しかも不味いことに魔力封じのスキルを受けてしまい、本来の実力の半分も出せない状態にされてしまった。


 父は自分達を逃がすために抵抗し、後ろ髪を引かれる思いを振り切り、母と一緒に村を脱出して森の中へと逃げ込む。



 だが獲物の存在を察知した別働隊に見つかり、ラプトルの足に追いつかれたところで母が囮になると少女を逃がしたのである。


 決死の表情で逃げるように叫ぶ母の剣幕に押され、罪悪感を振り切って少女は森の奥へと走り出した。


 後ろに聞こえる母の悲鳴に耳を塞ぎ、必ず助けると誓いを立てて少女は逃げる。


 もう二度と会えることはないと分かっていても、助けるからという誓いを立てなければ心が壊れてしまいそうだった。





 しかも素足。格好も儀式の為に着用していた薄い布きれ一枚である。


 目の前の獲物が逃げられないと悟った男達は足を止め、少女の恐怖を煽るように、更にゆっくりと近づいていく。


 怖くない。そう思おうと必死に思考を奮い立たせるも、恐怖と怒りで鳥肌が立ち、身体はガクガクと震えている。


「こ、来ないでッ、来ないでよっ!」


「へっへっへ……。とうとう追い詰めたぜ」

「大人しくしてたら可愛がってやるぜぇ」


 下衆な笑みを浮かべた男達に囲まれ、痛む足を庇いながら後ずさりする。


 まくれ上がったスカートが木の枝に引っ掛かって破れ、白い下着が露わになる。


 色欲に歪んだ男達の視線が注がれて不快な欲望のまなこが色濃くなったのを感じた。


 夜の闇にすら天使のように淡く光るように見える桃色の髪。


 肉付きは少ないが女としては十分に魅力的な曲線を描く腰のくびれ。


 擦り傷や切り傷があってさえ、スラリと伸びた白い足。


 整った眉建ち、天使を彷彿とさせる愛くるしいフェイス。


 それら全てが男という生き物を欲情させるには十分すぎるほど、少女は美しい容姿を持っていた。


「さぁて。このまま連れ帰って売り払っても良いが、せっかくだから楽しませてもらおうか」

「おいおい、傷物にしたら売値が下がるぜ?」


「見たところ1番の美人だ。多分1番高く売れるぜ」


「しかし、見逃すには惜しいぜ、この美貌はよぉ」


「そうだなぁ。まあ奴隷はたんまり捕まえたし、一人くらい味見したって良いだろう」


「金に換えるにはもったいないぜ。なんなら俺達のペットとして飼ってやろうか」

「性奴隷って意味だけどなっ! ぎゃははははっ!!」


「あんまり暴れるなよっ。大声出すと魔物が来ちまうぞ~ッ」


 この森には大きな魔物が住んでいる。


 人間などひと飲みにしてしまう巨大な獣は、森の魔獣と呼ばれて人々から恐れられていた。


 しかしそいつは森の奥地で縄張りを作っており、滅多なことでは入り口付近である彼らのいる場所にはやってこない。


 男達もそれは分かっている。

 しかし少女を黙らせる為に敢えて恐怖を煽ってとうとう少女に覆い被さろうと身を乗り出した。


「いやぁああっ、誰かッ、誰か助けてぇえええっ」


 少女の叫びは誰にも届かない。

 痛みが、恐怖が、絶望が……無垢な少女の心を残酷に食い潰そうと覆い尽くそうと迫った――


 ――その時だった。


「うおっ!? な、なんだっ!」


「え?」


 突然目の前の視界が真っ白に染まる。


 閃光のように目映い壁が上空に現れ、そこにいる全員の視界を覆った。


 天から降り注ぐ白き輝きはやがて徐々に色味を変化させ、赤い稲妻が走り出す。


 

「い、一体……?」


 少女は自分が暴漢に襲われかけている事も忘れ、そのあまりにも目映く、そして美しい光に魅入られていた。



(か、神の降臨……?)



 あまりにも美しい白き光は、地上に神なる存在が降臨する時に降り注ぐという伝説の白閃光を彷彿とさせる。


 幼い頃に絵本で読んだ、おとぎ話に出てくる救世主の伝説。


 大きな国の国立図書館にも蔵書が存在するという古の書物にも書かれたこの世界の神話だった。


 赤い稲妻はやがて楕円形から広がり、真円を描く形をとる。


「神様……」


 少女の発した声に暴漢達の脳裏に戦慄が走る。


 ただ事ではない。荒事に慣れた戦士の直感がそれを発していた。この世界ではこのようなことが出来てもおかしくない上位生物は山ほどいるからだ。


 しかし動けない。あまりの出来事に身体は完全に硬直していた。


 門の形をとった光の塊は、赤い稲妻を伴いながらいくつもの複雑な模様をかたどった魔法陣を形成していく。


 やがてその真円から這い出てくる一つの影。



 ザンッ――


 落ち葉で埋め尽くされた地面に勢いよく落下してきたそれは、人の形をとっていることが分かる。


「に、人間?」


 男達は少女から身を離して戦闘態勢に入る。だがその実情はすぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


 収まってきた光の中から徐々にその人影の輪郭が明らかになっていく。



 上背はそれほど高くなく、しかし肩から腕に掛けての盛り上がりは鍛え込まれた筋肉のそれであった。


 光の中から現れてくるそれは、髪は炎のように赤く、鍛え上げられた肉体を惜しげも無くさらすはだけた衣服。


 何かをかたどった首飾りのようなアクセサリーを身につけ、中には宝石が埋め込まれている。


 立ち姿は堂々とし、光の中から現れてハッキリとしたりんかくが見えた頃、その青き光の瞳で真っ直ぐ前を見つめていた。


 赤い髪、青い瞳、やや褐色の肌。そしてその身体に刻まれた刺青のような複雑な模様。


 なにより特徴的なのは、頬に浮き出る硬質の何か。



「俺様ッ! 異世界に降り立ぁァァアつ!! はぁーーーっはっはっはっ!!」


 豪快に響き渡るその声は、あまりの発声量に森の木々が驚いたようにザワザワ動くほどだった。


 凄まじい声量で物理的に振動した木々の上から葉っぱがヒラヒラと舞い落ち、少女の上に振ってくる。


 そのあまりにも現実味のない光景に全員がほうけてしまい、しばらく呆然としていた。


 人の形をとったそれは、あまりにも快活な声で突然叫ぶ。


「おおっ、ここが異世界かっ! とはいえ、森の中だとあんま変わんねぇなっ!」


 豪気な大声が再び木々を揺らし、そのあまりにも現実離れした大きな声に、そこにいる全員が固まった。


「それにしてもこんな何もない森の中に放り込まなくても良いだろうに。おっ?」


「な、なんだ、ガキじゃねぇか。脅かしやがって」


 目の前に現れた少年を見た暴漢達は安堵の溜息を漏らし、お楽しみを邪魔された怒りを理不尽にぶつける。


「おいクソガキッ、こんなところに何の用だ。どこから現れやがったっ!」


 得体の知れない少年に不気味さを感じつつ、幼い風貌に緊張が和らいだ。


 だが、心はそうでも身体はそうではなかった。


 荒事を日々こなし、幾度にも渡って修羅場を経験してきた男の勘が警鐘を鳴らし、緊張を解いてくれない。


「おうっ! どこから現れたと聞いたなッ! 空からだッ!」


 ビシッという音が相応しいほど真っ直ぐに天を指さし、盗賊達に言い放つ。


「……ッ」


 あまりにも素っ頓狂な事を抜かすクソガキに、一瞬ぽかーんとしてしまう盗賊達だったが、一拍遅れて怒りが一気に沸騰する。


「ふ、ふざけんなよてめぇっ! どこの組織のもんだってことだよっ!」


「組織……ふむぅ……ああっ、生まれ育った組織なら統一王国だなっ」



 こちらの聞きたい事がまったく返って来ず、訳の分からない焦燥感に駆られる暴漢達。


 本能が悟っているのだ。目の前の存在が普通ではないことを。


 状況からもそれは明らかであった。



 4人の武器を持った、殺意と敵意をむき出しにしている男達に囲まれているにも拘らず、まったく動じていない堂々たる態度。


 明らかに戦闘用に鍛え込まれた硬さを感じさせる隆々とした筋肉はそれだけで相手を威圧しているかのようだ。



 男達とて只の盗賊ではない。幾度にも渡る修羅場を経験し、条件次第でモンスターの集団ですら相手にできる猛者もさ達である。


 それでも、自信に満ちあふれた目と、鍛え込まれた肉体。


 そして彼自身が放つ異様な雰囲気に、四人がかりで勝てるかどうか自信が湧いてこないのだ。




 こいつはこちらの事を意にも介していない。


 只の馬鹿なのか? 否、そうじゃないことを本能が告げていた。



 獅子や虎のような獣を……それよりも遙かに巨大な、例えるなら伝説に謳われるドラゴンを目の前にしたような圧倒的な存在感を放っているのを本能が感じている。


 しかし実際に目の前にいるのは年端も行かぬ幼い顔立ちをした少年。


 背の高さは男達の方が勝っているのに、威圧感のせいで巨大に見える。


 そのギャップが男達の混乱を余計に加速させる。


「ところでお前ら何やってるんだ? 女の子一人を男四人で囲って……。ははぁ、なるほど、これが父上の言っていた『異世界物の"てんぷれ"』って奴かッ!!」


 再び口に出される意味不明な言葉。


 得体の知れ無さが恐怖をあおり、震えそうになる声を絞り出してその男に尋ねる。



「て、てめぇ、何者だッ! 名を、名を名乗れッ!」


「名乗れと言われちゃ仕方ねぇ」



 少年は、待ってましたとばかりにニカッと口角を上げて腰に手を当て、先ほどと同じように快活な大声で名乗りを上げる。


「俺様はファガンッ!! "異世界に降り立った"勇者と龍神の息子! この世界の強い奴と、戦いに来た男だぁあああああっ!!」

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