第159話 魔族の王子と勇者
「うおおおおおお!」
ミヤマーは叫び声を上げるとエルドレッド様に向かって攻撃を仕掛けてきたが。エルドレッド様はそれをいなしている。
だが真剣な表情をしており、余裕があるというわけではなさそうだ。
「やめてください! 今はあれを止めないと!」
「魔族に味方する聖女がぁぁぁぁぁぁ! 僕は! 僕はクラウディアを!」
「させません!」
私がなんとかミヤマーの説得を試みるが、まるで聞く耳を持ってくれない。
私を攻撃しようとしてきたミヤマーをエルドレッド様が止めてくれ、状況は振出しに戻った。
「俺も加勢します!」
「いえ、不要です」
「ですが!」
「ショーズィさん、あなたでははっきり言って足手まといです」
「っ!?」
エルドレッド様にばっさりと言われ、ショーズィさんは言葉を失った。
「ホリーさん、ここは私に任せて先に行ってください。今、あの赤い雨を止められるのはホリーさんしかいません」
「でも……」
もしミヤマーに負けてしまったらエルドレッド様は!
「大丈夫です。私を信じてください。それよりも今は赤い雨を、そしてあの禍々しい雲をどうにかするのが先決です」
「ホリー、行こう」
「そうですぞ! 姫様」
「ホリーちゃん」
ニール兄さんたちも私に先を急げと促してくる。
「ホリーちゃん、エル坊はこんなんでも魔族の王子や。信じてやりぃや」
「ホリーさん、行ってください!」
「……わかりました。すぐに終わらせて、戻ってきますから」
「ええ。待っていますよ」
「マクシミリアンさん」
「姫様、こちらです」
私たちはマクシミリアンさんの案内で駆けだした。だがそんな私たちの背後からミヤマーの声が聞こえてくる。
「させるか!」
「おっと、あなたの相手は私ですよ」
「このっ!」
私たちは振り返らずに走った。
エルドレッド様は魔族の王子だ。それは血筋だけでなく、魔王様に次ぐ強い魔力を持っているということでもあるのだ。
だからエルドレッド様が負けることなどあるはずがない。
私たちはそう信じ、マクシミリアンさんの言う祭壇を目指すのだった。
◆◇◆
「やらせるもんか!」
「行かせません!」
ホリーたちを行かせまいとする宅男の前にエルドレッドが立ちふさがる。
「魔族がぁ! サンプロミトをこんなにして! そんなに人間が憎いか! ここには幸せに暮らしている人たちがいたのに!」
「何を言っているのですか! これをやったのは人族ではないですか!」
「ふざけるな! お前らが来てからこうなったんだ! お前らが何かしたんだろう! サンプロミトの人たちはゾンビにされるくらい悪いことをしたっていうのか!」
宅男は怒りをぶちまけ、目にも止まらぬ速さの連撃を繰り出す。
「ゾンビにされていいような人は一人もいない!」
エルドレッドはそれをすべて受け流すと剣を横に一閃した。しかしそれを宅男は軽々と受け止める。
「何を言ってるんだ! お前らのせいじゃないか!」
再び宅男は連撃を繰り出し、一気呵成に攻め立てるが、エルドレッドはそれを受け流していく。
「違います! ゾンビを生み出す魔道具を作って我々の領域に送り込んだのは聖導教会ではありませんか!」
「でたらめを言うな! クラウディアはっ! ゾンビに両親を殺されて! お前らが放ったゾンビのせいで!」
「そんなことはしていません!」
エルドレッドは宅男が放つ攻撃と攻撃の合間に強烈な光を放った。
「ぐあっ!?」
宅男は目がくらみ、思わず後ずさった。
「ゾンビの被害を受けているのは魔族も同じです!」
エルドレッドは宅男の肩口を目掛けて剣を振り下ろすが、目が眩んでいるはずの宅男はそれに反応して素早く身を
「目潰しなんて卑怯者め。だが僕は負けない! クラウディアを守るんだぁぁぁぁぁぁぁ!」
宅男はそう叫ぶとさらにギアを一段上げてエルドレッドに斬りかかるが、エルドレッドは丁寧に受け流していく。
「聖導教会こそが悪でしょうが! 聖導教会が十六年前にやったことはなんですか! 異教徒であるというだけでリリヤマール王国を滅ぼすなど許されません!」
「そんなことは知らない! 聖導教会がそんなことをするわけがないだろうが!」
「このっ!」
エルドレッドは宅男の攻撃を真正面から受け止めると宅男の剣をかちあげた。宅男の上体はのけ反り、そこにエルドレッドの強烈な身体強化を伴った横蹴りが宅男の腹部をとらえる。
宅男は数十メートル吹き飛ばされ、突き当りの廊下の壁に激突してようやく止まった。
エルドレッドはすぐさまトドメを刺すべく宅男との距離を詰めるが、宅男はすぐさま飛び起きて向かってくるエルドレッドに斬りかかる。
「負けるもんか! 僕はクラウディアを守るんだ!」
「ならば私も負けるわけにはいきません。魔族領に暮らすすべての人々のためにも。この場所で聖導教会にご両親を殺されたホリーさんのためにも!」
二人の影が交錯し、そしてすさまじい爆発が発生する。その爆風は廊下を伝って拡散していき、様々なものを破壊していったのだった。
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