第6話 迫りくるゾンビ
ふと気が付くと、視界に飛び込んできたのは見慣れた自宅の天井だった。いつの間にか部屋着にも着替えている。
「あれ? 私どうして? たしか山にゾンビを退治に向かったはず……」
たしかとんでもない数のゾンビが押し寄せてきて、火を使っても倒しきれなくて……。
あれ? それでどうしたんだっけ?
よく分からないが、とりあえずベッドから体を起こして窓の外を確認する。
この感じだと今は昼頃だろうか?
そう考えたらなんだか少しお腹が空いてきた。
いや、違う。よく分からないが、ものすごくお腹が空いている。
よし。ちょっとアネットのところに行って何か食べるとしよう。
ベッドから起き上がり、私は外出着に着替えた。
あれれ? どうして寝巻を着てるんだっけ?
状況が分からずに困っていると、突然寝室の扉が開いた。
「っ! ホリー!? ホリー! 良かった! 目が覚めたのね!」
「アネット? えっと、どうなってるの?」
「ホリー! ああ、良かった! ホリーは奇跡を使いすぎて倒れたんだよ!」
「あ、そういえば……」
そうだった。そういえば限界を超えて奇跡を使ったんだった。
「っ! それでゾンビは? 冬の準備は終わったの?」
「それは……」
アネットはそう言って申し訳なさそうに視線を外した。
「え? じゃあニール兄さんは? ヘクターさんは? それに衛兵さんたちは?」
「みんな無事よ。ただ、退治しても退治してもキリがないって帰ってきたの」
ということは、私が倒れた後もずっとゾンビと戦ってたってこと?
「そうだ、アネット。私、どれくらい寝てたの?」
「え? ニールが運んできてくれて丸二日ね。ホントに、心配したんだから!」
「あ、うん。ごめん。それでニール兄さんたちが帰ってきたのはいつ?」
「昨日の夜よ。ゾンビが町に来るかもしれないって、みんな今大忙しなの」
「町にも来るの?」
「みたい。森も結構焼いちゃったらしいから……」
「あ……」
そうだ。背に腹は代えられないと火を使った結果、かなりの範囲の森が焼けてしまったのだ。
ゾンビは生物を狙うという習性があるのだから、森から生き物がいなくなれば今度は町を狙ってやってくるに決まっている。
「私がもっと浄化の奇跡をたくさん使えたら……」
「そんなことないよ! ホリーは頑張ってる。頑張った! それでもどうしようもないことだってあるよ!」
「でも……」
「もう! 何言ってるの! そもそもホリーは衛兵じゃなくって薬師でしょ? 戦うのは衛兵のみんなの仕事じゃない」
「それはそうだけど、でもこの町で奇跡が使えるのは私しかいないから――」
「だったら
「え?」
「そんな大事なホリーを倒れるまで無理させるなんて、引率失格じゃない」
「そうなの?」
「そうよ! ちゃんとニールは叱っておいたし、ヘクターさんにもちゃんと文句を言っておいたからね。私の大事な妹にこんな無理させるなんてって」
「アネット……」
するとなんとも間の悪いことに、私のお腹の虫が大きな声で鳴いた。
「あ、そうだよね。ホリー、何も食べてなかったもんね。ちょっと食事作ってきてあげるから待ってて」
「え?」
「まさかうちの食堂に来て食べるつもりだった?」
「あ、うん……」
「いい? ホリーは二日も寝てたの。だからいきなり起きて歩いちゃダメだし、いつもみたいに消化の悪いメニューを食べるのもダメ。私が作るからちょっとここで寝て待ってなさい」
「……はーい」
「もう、しょうがないんだから」
そう言ってアネットは私のベッドルームから足早に出ていったのだった。
◆◇◆
翌日になり、かなり元気になった私は衛兵の詰め所にやってきた。倒れた私を衛兵さんたちが交代で町まで運んでくれたらしく、そのお礼をするためだ。
「ん? あ! ホリーちゃん! もう大丈夫かい?」
「はい。おかげさまでもう大丈夫です。運んでくれたそうで、ありがとうございました」
やってきた私を見た衛兵さんはすぐに声をかけてくれた。どうやらかなり心配をかけてしまったようだ。
「そんなことないよ。俺たちこそ、頼りきりでごめんな」
「私のほうこそ、体力が無くてすみません。あの、それで……」
「ああ、ヘクターさんを呼べばいいかい?」
「あ、いえ。その、運んでもらったお礼にうちの傷薬を持ってきました。良かったら使ってください」
「え? いいのかい? これは売り物だろう?」
「はい。でもご迷惑をおかけしてしまいましたから……」
そう言うと衛兵さんはなぜか目頭を押さえている。するとヘクターさんがやってきた。
「あっ! ホリーちゃんじゃないか! もういいのかい? ごめんな。あんな無茶をさせてしまって」
「いえ、私のほうこそご迷惑をおかけしました。それで、これ、ウチの傷薬です。もしよかったら使ってください」
「えっ!?」
私が傷薬を差し出すと、ヘクターさんはびっくりした様子で私の差し出したバスケットを見ている。
「えっと?」
「そんなの、受け取れるわけないじゃないか。俺たちはホリーちゃんを守らなきゃいけない立場だったのに……」
「でも……」
私たちの間にしばしの沈黙が流れる。
「それじゃあ、その傷薬はウチが買い取るよ」
そういってヘクターさんは私の差し出したバスケットを受け取る。
「ああ、いつものやつだね。じゃあ、今度の支払いのときにこの分は追加しておくよ」
「あ、でも……」
「いいからそれくらいはさせてよ。それに、これもすぐに使うことになりそうだしさ」
「え? あ! そうか! ゾンビ!」
「そう。森からこっちに向かってきてるのが確認されたんだ。きっと明後日くらいには襲ってくると思うんだ」
「そんなに早くですか!?」
「そうなんだよ。できるだけ俺たちでなんとかするけど、最悪また頼むかもしれない。だからそのときはよろしくね」
「はい! もちろんです!」
私は元気よく答えた。
この町は私の大切な故郷だ。おじいちゃんのお墓だってある。大切な故郷を守るため、私だってがんばらなくちゃ!
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