第352話 出迎えの理由
同郷ダンマスであるマイさんと、公園型テーマパークみたいなダンジョン内で再会できたのだが、さっき挨拶した時にマイさんの顔が一瞬こわばっているように見えた。
俺は再度マイさんに声をかけようとして……そういや、マイさんの側で二人分のロバ系魔物の手綱を持って控えている中年の男性兵士は、ダンジョンマスターの存在を知っているのだろうか?
マイさんの表の顔はギーオン領の領主っぽいんだが。
ギーオン領主に雇われている人達が、全てダンマス関係者だとは思えないんだよな。
なんでかっていうと、外の人をダンジョンで雇う場合、守秘義務を守らせる魔法契約が必要になってくるんだけど、高度な魔法契約にはお高い触媒が必要になるんだよね。
そうなると、費用対効果的にダンマスを知る部下の数を絞っているはずだ。
巨大なテーマパークや街を運営して、そこで働いている全ての人に高度な魔法契約を施すのは、財政的にも運営管理的にも難しいと思う。
ローラ達に施した魔法契約に使う触媒は、俺が異世界日本から格安で仕入れたからまだなんとかなる値段だったんだけど。
あのサイズと質の天然鉱石をこちらの世界で仕入れるとなると、ダンジョンオークションの出品状況からして結構な値段がするらしい事が分かる。
「ギーオン様自らのお出迎えありがとうございます」
さっき普通に『マイさん』呼びしてしまったが、お偉い貴族様と商人の挨拶を演出してみる。
これに対するマイさんの反応で、あの兵士がダンマス関係者かどうか分かるだろう。
まぁ、マイさんも普通に俺の事を君付けで呼んでいたから、たぶん大丈夫だと思うんだけどね。
「え? ゼン君? 急にどうし……あ、そうか、えーっと、そこにいるのはドッペルゲンガーでダンマスとしての配下だから大丈夫よ?」
マイさんが控えている中年の男性兵士を指差すと、その中年兵士は俺に対して静かに頭を深く下げた。
この世界では、商人相手に兵士が軽々しく頭を下げたりしないはずなので、マイさんの言う通りダンマス関係者だね。
「それなら良かった、久しぶりの再会に嬉しくなって、お貴族様相手に無礼な軽い挨拶をする商人になる所でした……危なかったです」
「そうね、外で会うのだからそういう事も気にするべきだったわね、私もつい嬉しくなって素で呼びかけちゃったかも」
周りに関係者しかいなくて良かったよね。
そうだ、これも伝えておかないとか。
「俺の連れは全員、高度な魔法契約済みのダンマス関係者なので安心してください」
重装ウッドゴーレムや、まだピクニックの片付けをしている皆の方を順番に示しながら説明しておく。
前に国境の宿場町でマイさんに会った時は、皆の事を紹介しなかったんだよな。
「了解したわ……それでその……ゼン君の頭の上にいるお方は……えっと……」
マイさんが黒猫のクロさんの方に視線を上げながら言葉を詰まらせている。
……ああ……さっき挨拶した時に、マイさんの表情が引きつるというか強張っていたのは、クロさんがいたからか……。
俺はもう慣れちゃったけど、クロさん並みに強い見知らぬダンジョンナビが目の前にいたら、恐怖を覚える可能性はあるよなぁ……。
「こちら黒猫のクロさんは、俺の保護者が安全のために派遣してくれたダンジョンナビゲーターです」
「ナァ~」
クロさんはかったるそうに片手(前足)を上げてマイさんに挨拶した。
俺の頭上にいるのに何故片手を上げたと分かるのかというと。
クロさんは体をだら~んと伸ばして俺の頭の上にいるので、前足が俺の眉毛あたりに被っていて、視界の端っこに肉球が二個見えるんだよな。
それが片方消えたから片手を上げた事が分かったという訳だ。
ちなみに、クロさんの前足の事を手というか足というか、いつも迷うんだよね。
クロさんは〈人化〉できるから手と言う方がいい?
でも四本足歩行する猫の時は前足と言った方がいい気もするし……とはいえ日本にいるペットの猫だって『片手を上げる仕草』という表現する時もあるし……。
よく分かんねーので表現がコロコロと変わっても気にしないでほしい。
「いらっしゃいませクロ様! ……えーとゼン君? クロ様は『日陰植物』のナビゲーターではないわよね? たしかあそこはデュラハンだったと思うし」
マイさんはリアと商売上の交流があるみたいだから、ラハさんの事は知っているんだな。
「ええ、クロさんは迷いの森ダンジョンの主であるマジョリーさん配下のナビですね」
「てことは……マジョリー商会を運営している〈魔法狂い〉もゼン君の保護者なの!?」
あれ? マイさんにマジョリーさんの事を言ってなかったっけ?
……そういや、ドリアードのリアが保護者な事は伝えたけど、他の二人については伝えてなかったかもなぁ。
「俺には三人の保護者がいます」
「まだ増えるの!?」
「一人は樹海ダンジョンのマスター」
「南の国を陰から支配している上位ダンマスよね、異世界日本産植物用栄養剤をよく買ってくれていた相手ね」
リアはマイさんの事を強欲ダンマスって言ってたけどな。
しかも『買ってくれていた』と過去形になっているのは、俺がリアに異世界日本産の肥料を売っているせいだよな。
「もう一人は迷いの森ダンジョンのマスター」
「マジョリー商会を運営している上位ダンマスよね、自分用や配下用に魔法付与された武器を何度か購入した事があるわ」
マジョリー商会が付与した魔法の武器や防具は品質も高くて大人気らしいからなぁ。
表の世界でもかなり有名らしい?
商人達に流れている噂を聞くと、マジョリー商会の魔女達は決して怒らせてはいけない相手だ、という話もあったな。
リアの所が運営している『デラン商会』も似たような感じだけど。
「最後の一人は火山島ダンジョンのマスター」
「火山島? そんなダンジョンあったかしら……ん? ……まさか……〈孤高〉の火竜!? ちょっとゼン君!? 世界でもトップクラスのダンジョンバトル好きダンマスじゃないの!」
火竜のホムラが運営している火山島ダンジョンは、一般人が近付かないのであまり知られていないっぽいんだよな。
そもそもホムラは火山にある洞窟の奥深くや火口部分だけをダンジョン化していて、ちゃんと運営する気がないっぽい。
というか、火口部分のダンジョン化だけでもすげー収入があるんじゃないかな?
てーか、リアやマジョリーさんが上位ダンマスで、ホムラがトップクラスの……ダンジョンバトル好きダンマスという認識なの?
んー……これって表の世界でどれだけ暴れているかって話なのかなぁと思う。
リアはわざと樹海ダンジョンを中級ダンジョンに見せかけているし。
マジョリーさんの迷いの森ダンジョンも、表層だけで運営しているらしいからな
ホムラは……ほら、あいつが持ってくるお土産には、他のダンジョンに生息する魔物の素材とかもあるしさ、普通にダンジョンバトルになりかねない進入を繰り返しているっぽいんだよな。
ホムラって傍から見ると迷惑系ダンマスだよなぁ……。
今度、他者のダンジョンに進入するなら巨大海洋魔物をお土産を置いていけと助言しようかな?
そうしたら相手のダンジョンの利益になるので『火竜のホムラ様、どうぞうちのダンジョンに入っていってください』という風潮になるかもしれん?
ホムラは美味い魔物を狩りに行っているだけなので、他者のダンジョンに攻め込んでいるという意識がないんだよね。
「とまぁ三人の保護者の話し合いの元で、黒猫のクロさんが一番威圧感のない護衛に適しているという判断になったんですよね」
本当の所は、魔導体重計のお釣りとして貸し出されたのだけど、それを今説明する必要はないだろう。
よく考えてみると、お釣りでクロさんが貸し出されるってすごい話だよな。
だってクロさんなら、このダンジョンを一匹……一人で制圧できちゃうだろうしさ。
「なるほど……実はここに私が出向いて来たのって、ダンジョン内にものすごい強者が侵入してきたからなのよね……うちのダンジョンには北の国に居を構える弱小ダンマスとかが商売しに来る事も多いんだけど、一個体で都市丸ごと滅ぼされそうなダンジョン関係者の進入反応を見て、急いで様子を見に来たら……ゼン君がいたって訳」
あら、俺がダンジョンに入った事に気付いて出迎えに来てくれた訳じゃないのか。
クロさんが入った反応に恐怖して、様子を見にきたみたいだ。
そりゃ俺がマイさんの立場で〈ルーム〉を使えない状態だとすると……クロさんクラスの強者がダンジョンに入ってきたら……もう両手を上げて降参しつつ自ら出迎えにいくかもね。
ダンジョンコアの近くに引き籠って相手を苛立たせるのは悪手かもしれないし。
ワンチャン話が通じる可能性に賭けるのも手だよね。
「クロさんは俺の護衛に来ているだけで、ダンジョン内で暴れたりはしませんよ、ですよね? クロさん?」
俺は片手を頭上に持ち上げ、クロさんの背中をさすりながらマイさんを安心させてあげる事にした。
「ニャーゥ」
背中をさすられたクロさんは、気持ちよさそうに肯定の鳴き声をあげる。
それを聞いたマイさんは背筋を伸ばしてから頭を下げ。
「クロ様の御来訪を歓迎いたします、ゼン君と一緒に、どうぞごゆるりとお過ごしください」
ものすごい丁寧な挨拶をしてきた。
なんだか……『一緒に』の部分が強調されていた気がするのは、単独行動しないでね? という、悲壮なお願いのようにも聞こえるねぇ……。
まるで、巨大企業に勤める係長が、常務クラスの相手に初めて出会ったかのごとくな緊張感を醸し出している。
うーん……クロさんに対するマイさんの態度を見てしまうと、途方もない力を秘めているクロさんを無遠慮に撫でるのは失礼かもしれない? と思ってしまうな。
てことで俺はクロさんの背中を撫でる手を離したのだけど。
すぐさまクロさんは、前足の肉球でテシテシと俺のおでこを叩き。
もっと撫でろと要求してくるのであった。
あ、うん、やっぱクロさんはクロさんだったわ。
強いとか偉いとか気にする必要ないよな、ごめんね? クロさん。
そうして俺は、なんだか微妙な表情で俺とクロさんを見て来るマイさんを尻目に、クロさんの背中ナデナデを続け。
さっきまでった緊張感のある空気は、一瞬でどこかへと消えていくのであった。
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