目まぐるしく
先程まで隣に居た筈の存在を探し、小さな影はゆっくりと動く。
眠気に襲われながらも、欠伸を噛み殺しながら、ダンジョン内を徘徊する。
やがて、魔力感知で探せばいい事を思いつき、やってみれば遠く離れた所で反応して。
その近くに行けないかと、寝ぼけ眼で魔力を使用すると。
小さな影は、それまでいたダンジョンから姿を消した。
────────
リリスが切ったその手札の効果は絶大だった。
そもそも人間を守る為に今の世界のシステムを作った魔王は元より、その意思に共感し協力してきた神楽とマデラも人間の命を奪う事など出来ない。
そして、側近が人間を殺そうとするならば、魔王自らがそれを防ぎに行く、という光景にすらなる始末。
結局大軍の中で暴れていたマデラと側近、神楽は大軍から離れるほかなく、モンスターの影を移動していた魔王も、マデラの影から姿を現して
「全く、こちらにとって最悪の状況にしてくれたな。どうするか」
と忌々しそうに呻く事しか出来なかった。
「流石にチビッ子達を巻き込まれるとこっち弱いなぁ。……魔王さんの記憶見せたん失敗やったか?」
「あぁ、やはり見せたか。ならばあのような手を打ったのに納得がいったわ。まぁ気にする程の事でも無かろう」
(十分に気にする程の事かと思いますが……現にもうこちらからむやみに手出し出来なくなりましたよ? 今更になって人間を殺してもいいなどとは言わないでしょう?)
「言わぬよ。ま、仙狐がこうして来たのだ。もう一人もすぐに来るであろう」
そういう魔王が待つ人とは誰なのか、本人以外にはピンと来ていないようではあったが、魔王より、
「時間稼ぎを頼む」
という言葉を受けて、戦闘スタイルをそれぞれ時間稼ぎ優先に切り替えて、魔王の頼れる配下の3体はそれぞれ動き出す。
マデラは過剰に羽ばたきながら空中を制圧し、地上へ暴風を送り込み。
その暴風へと乗り、さらに大きな爆風へと変えて城から遠ざける様に吹き飛ばしていく神楽。
その二人を見ながら魔王は、今度は側近を連れて再度リリスと吟遊詩人の元へ。
当然の様に飛行するモンスターに襲われるも、先程とは状況が違う。
手にした刀を水平に一振りすれば、その剣筋からは影が伸びて、影に触れたモンスター達はその影の中に飲み込まれていく。
闇を発する必要が無い以上リリスからの妨害は受けず、しかし範囲が広すぎるあまりに人間を巻き込む恐れのあるこの能力は、もはやこの状況でしか使い道も無いであろう。
「ようやくこちらから対峙する事が出来た。手間を掛けさせてくれる」
「もう少しデタラメな方だと思っていましたのに、随分時間がかかったのではありません事?」
「買い被りである。我も元は人間ぞ? そんなか弱き存在に何を夢見ていた?」
「そのか弱き存在とやらに、わたくし達はこれまで勝てなかったのを貴方は笑うのでしょうね。でも、それも今日で終わりですわ」
話をただ静かに聞いていた吟遊詩人が、何やらリリスへと耳打ちすると
「では魔王様、わざわざご足労痛み入りますが、わたくしは失礼いたしますわ」
とだけ告げて音も無く気配無く姿が一瞬で消える。
それをなす術も無く見送った魔王と側近は、
「問答無用で倒せばよろしかったのでは?」
「であったな」
と顔を見合わせた。
*
そんな時、戦場にはまたある変化が起きていた。
無双しながら突き進んでいた神楽は、ふと嫌な予感を感じた。
何度か飛んできた大型の魔法とは違う、自分にとっては脅威とは感じないながらも、嫌だ。と断言できる状況の予感。
そして、人間のそれと同じく、嫌な予感は何故か当たってしまうもので、
「あれ? ……母様? どこなのです?」
突然、神楽の魔力を頼りに戦場に転移してきたツヅラオは、眠い目を擦りながら、周りをきょろきょろ見渡して、
「えっ?」
思わず固まった。
そんなツヅラオに気付いてすぐに動いたのはもちろん神楽、一瞬置いてマデラも気が付き、その一拍後に周りのモンスターと冒険者達が気が付く。
風を操り、高速で移動していた神楽から、転移してきたツヅラオまでの距離は実際の距離よりもはるか遠くに神楽には感じられて。
空中を飛び回っていたマデラもまたツヅラオへ向けて全力で移動していた。
戦闘面では期待出来ない。と言われていたあの子の事だ。こんな戦場ではまず生き残れないだろうから。
せめて致命傷を負う前に彼を確保しなければ。
と内心かなり動揺しながらも羽ばたくマデラが隙だらけだったのは言うまでも無く。
背後に出現した巨大な氷塊に一瞬気が付くのが遅れて。
氷塊に、無情にも片翼の羽が貫かれてしまった。
(グっ……油断、いえ、冷静さを見失っていましたね……。ですが、あの子を見殺しになど出来るはずがありません!)
片翼が貫かれてもなお、ツヅラオの元へ向かう彼女の視界には、未だに離れた所にいる神楽と、囲まれたモンスターと冒険者達に今にもやられそうなツヅラオで。
思わず目を
「人に時間の事言えないな。俺も盛大に遅刻したみたいだし。っと、大丈夫かい? ツヅラオ君」
その後に聞こえたのは普段から聞いている低い、安心感さえ感じる声で、
「あれ?、……み、ミヤジさん……なのです?」
目を開いた先にあった光景は、ギルド長、ミヤジ・ローランドがツヅラオに向けられた全ての攻撃を受け止めているという光景だった。
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