いかほど?
今すぐ立ち去りや! ここは人間なんぞの来る場所やあらへん。
そう声を山に響かせた仙狐は、それでもなお登ってくる人間に苛立ちを覚える。
何や急に、人んちの領域にどかどか踏み入りよって……。
今度は声を響かせる事無く、彼女は直接人間に姿をさらして、こう叫ぶ。
あんたら何が目的や! 言うてみぃや!!
と。
────────
「
「ほう、実に楽しみである。どれほどの実力か」
「あまり期待なされない方がいいと思いますよ?」
報告を終えたパパラは今のダンジョンマスターの意向をしっかりと理解し、他のサキュバスたちにこう告げた。
「皆さん、今からくる冒険者達を、しっかりともてなしますわよ」
*
デタラメと呼ばれるSランクのダンジョンでも、特に狂っていると言われるダンジョンであるリリスの館。
そんなダンジョンのマスターが最近変わった事を聞き、今ならばもしかしたらクリア出来るか?
と淡い、甘い期待をしながら挑むは5人。
前衛職3人に後衛職2人。剣士、シールダー、拳士に魔法弓士と僧侶の非常にバランスの取れたパーティであった。
緊張が表情からも見て取れる5人は、ゆっくりと、ダンジョンの扉を開ける。
音も無く、静かに開いた扉の先に見えた光景は……、
「「いらっしゃいませ、冒険者様ー」」
全員が給仕服に身を包み、ずらりと列をなして、冒険者達に向け一斉に頭を下げる光景だった。
――冒険者一同、絶句である。
予想もしておらず、いくつか考えてあった作戦も一瞬頭から抜け落ちた。
が、すぐに皆意識を現実に引き戻し、瞬時に警戒態勢へ移ると、列の中から一人のサキュバスが。
「ダンジョンマスターがお待ちです。私共は戦闘の意思はございませんので、ここで無駄な体力や魔力を消費する事はオススメいたしませんわ」
そう答えて冒険者達を手招きし屋敷の奥へ。
サキュバス達の行動を
案内されたのはダンスホールだろうか。
かなり広く間取りを取られたその部屋の中央に
寒気すら感じるほど、周りの空気が違う事を肌で感じ、冒険者達は一気に臨戦態勢へ。
そんな冒険者達へ
「入り口のサキュバス達はどうだった? そそる見た目であっただろう」
全員の目が、点になった。
しかし即座に剣士が切り込んでいく。初撃は頂いた、とでも言うように。
されど、その刃は
刃が届かなかったではなく、そもそもそのような行動すら取れていなかった。
見れば
「いかに予想外の事を言われようと、警戒を
剣士を、瞳の無い
そう諭すように言う
「―――《
そんなやり取りを行っている敵に対し、弓を引き絞り、放った弓矢を魔法で氷の槍に変えた魔法弓士。
特に慌てず杖でその槍を弾く
「油断すんなっての!」
「悪い、その通りだ。気を付けろよ、あの魔法陣、入るととんでもない疲労が襲ってくるぞ!」
「んじゃ遠距離で戦うだけよっと!」
再度弓構える魔法弓士と、拳を構える拳士、そして、シールダーの後ろでなにやら詠唱を始める僧侶。
それを、本当にただただ
「《
「天駆衝!!」
「《
炎渦巻く槍と、拳から放たれた超速の不可視の衝撃と、アンデッド系の弱点とも言える聖なる力を宿した魔法が
「「なっ!?」」
「残念、実に残念である。思うに貴様等、私の事を知らぬのだな。敵を知り、己を知ればという言葉があるが、よもやそれすら知らぬか?」
本当に残念そうに、頭を手で押さえて天を仰ぎ、その
「私に対して魔法を放つという事は、だ。それは「この魔法をあなたの手で別の無害な魔法に好きに変えてください」と言っている事に等しく、魔法を上書きされたくなければ今の10倍の威力は必要だぞ」
虚空へ消えたのは、放った魔法に「ただし今すぐ虚空へ消える」と上書きされたためだと。
「もっとも10倍の威力になったら、書き換えではなく掻き消すに変更するだけではあるが」
全く面白くなさそうに響かせたその声は、冒険者達の心を半分ほど折った。
そう、半分ほど。
「――っ!! 取ったり!!」
一体いつ
今度は膝をつくことは無く、ただ、床に横たわった。
「言い忘れていたが魔法陣の効果なぞ、私の意思一つで変わる。先ほどは疲労を与え、今のは意識を奪い去る。何度も安易に入らぬ事だ。いつ、命を奪う魔法陣に変わっているか分からんぞ?」
今度は、残りの半分も……折れた。
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