やることは同じ
何度目かの食事の時にそれは起きた。
血を頂いている時にその少女が目を覚ましたのだ。
やっぱり貴方はモンスターなのね。
悲しい顔で言う彼女はさらにこう続ける。
お願い、私の血を飲み干してもいいから。だから、どうかみんなが安全に、安心して暮らしていけるように手伝って。と。
口に含まれた血よりも、熱い液体を頬に伝わせて、静かに、彼女は人外に懇願した。
────────
ポツリポツリと雨が降ってくる。慌てて屋根のある場所へと避難。
「チッ。もう少し持つかと思っていたが」
天候を無理矢理変えた本人が何やら言っていますが、どうやら限られた時間しか変えられないようで。
変えられるだけで充分デタラメですがまぁ、まだ許容範囲ですかね。
「また急に振り出したな。昨日は急に晴れたからその反動か?」
「あれ不思議だったよね。丁度ポーションとか補充したかったし、止んでくれたのはラッキーだったけど」
「天候ばかりはどうにもなりませんねー。風邪ひかないように宿に戻ったら体を拭かないとですね」
「流石に天候変えるなんて魔法ないわよね。あったらみんな使いまくってるだろうし」
あるんですけどね。そもそもあれが魔法というくくりなのかは不明ですが。
「マデラさんとマオさんとツヅラオ君はこれからどうするんです?」
「目的のお店があるので屋根伝いに向かおうかと。マオ様が食べたいと仰られていましたので」
「おう、そうじゃ。先のイベントですっかり忘れておったのじゃ。はよ行こうぞマデラ」
「い、急ぐと濡れちゃうのです。濡れないように行きましょうなのです」
勇者の問いかけに答えれば、目的思い出して駆け出す魔王様とそれを止めるツヅラオ。
魔王様は濡れても平気でしょうが、私たちはやはり濡れるのは勘弁願いたいものです。
一応、私もツヅラオも属性的には火に当たるもので。
「僕たちはまだ補充が済んでないからお別れだね」
「そういや合成も済ませときたいな。素材ばっかかさばってる」
「私新しい呪文覚えたーい。魔法書買ってー」
「皆さんそろそろ洋服も買いませんか? 私少し胸のあたりが……」
手を振って別の方向へ歩いていく勇者達を見送り、やや速足で魔王様に追い付いて、
「いかがでしたか?」
とだけ尋ねる。
「まだ青い。というよりは実すらなっておらぬ。苗木じゃな」
「ですか」
「ただ、間違いなく勇者ではある。かすかに女神の力も感じた。ようやく、ようやくだ。待ちわびたわ」
「な、何のお話をされているのです?」
辺りの人間には気付かない程度に禍々しい気が出ているのをツヅラオが感じ、心配そうに聞いてくるが、
何でもない。と魔王様はツヅラオの頭を撫でながら言う。
しばらく歩いて目的のお店に辿り着き、お持ち帰りで5人分ほど買って、私の家に戻る。
多めに買ったのは魔王様の分ですからね? 普段は1人分で足りますからね?
*
家に辿り着くとツヅラオが紅茶を入れてくれた。リリスのお気に入りという銘柄で、家の中にいい香りが漂う。
「紅茶か。久しぶりだが、どうせならコーヒーが良かったな」
「こーひー? なのです? どんな飲み物なのです?」
私も初めて聞きました。名前から想像が出来ないのですが。
「
「そ、そうなのですか。勉強不足でごめんなさいなのです」
「いや、よい。この世界には無いものだからな。知らないのが当然だ」
魔王様、少し口調が素に戻ってます。
紅茶を一口飲み、ツヅラオの頭を撫でる魔王様。撫でられて気が緩んだのかピョコンと耳が出てきて。
魔王様が耳を弄び始める。何とも言えない表情で悶えるツヅラオの姿は非常に眼福ですね。
今度は尻尾まで出てきてしまい、魔王様の目が怪しく光り、両手で抱くようにしてモフリ始める。
両手をこちらに伸ばし、助けを求めるツヅラオの姿がこれまた可愛い事可愛い事。
しばらく堪能して、
「魔王様、先ほど買って来たサンドを食べましょう」
と助け舟。
「おお、そうじゃった。モフるのが久々でつい我を忘れておったわ。やはり触れる事が出来る、というのはいいものじゃ」
満足したとツヅラオを開放し、さっそくサンドにかぶりついた魔王様は、こちらも満足と言った顔で
お気に召されたようで何よりです。
ペロリと5人分を完食し、食後の紅茶を楽しんで、ゆっくりしている魔王様に……私の家の窓を突き破り、ド派手に家に入って来た訪問者が1体。
誰かと思えば側近ですか。思わず殴りつけてしまったでは無いですか。
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた側近は少しよろけながら立ち上がって、
「ようやく見つけましたよ魔王様。城にお戻りください。本日も魔王様に挑もうとするモンスターが来ているんですよ? 昨日居なくなった後に私がどれだけ苦労したか考えてください、全く。」
魔王様の首根っこを掴んで、入って来た窓から出て行こうとする。
「世話になったのーマデラ。また来るのじゃー」
本人は笑顔で私に向けて手を振り、側近に無抵抗に持たれたままこの部屋を後にする。
えぇと、……この窓、どうしてくれますかね。
思わずため息をつき、ツヅラオと共に側近のぶち破った窓を何とか元に戻し、いつかこの借りは返しましょう。と考えて。
ひょっとしたら殴ったお返しなのでは? との結論に至り、密かに心の中で謝罪した。
*
魔王城へ戻る途中で、あの龍族に殴られ少し痛む頬を撫でながら側近は考える。
あの者はいつまでこちら側なのだろうか。と。
この間の者と同じく、いずれは魔王様に挑む事になるのか。と。
その時に自分は、あの者を止める事が出来るだろうか。と。
自分の腕の中で大人しく動かない魔王様の姿を確認して、
自分はいつまで、この方をお守り出来るだろうか。と。
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