はしゃぐ
ボロボロな外見とはいえ、かなりの大きさのその洋館は、人々の願い通りに地下室があった。
地下への入り口をモンスター達にバレぬよう偽装し、地下室の探索へ。
すでにモンスター達が入って来て、ある程度めぼしいものは持っていかれたようではあるが、人間にとってみれば有用な物もいくつかあった。
まずはロープ、そして大量の布。布は破れているものもあるが、継ぎ接ぎすればどうとでも使える。
そして何よりの収穫は、奥にいくつかだけ残っていたボトルであった。
────────
人間の料理がご所望と言われたので、どうせならば、とツヅラオにご飯を作って貰うことにした。
私が作るよりも確実に美味しいですし。何より私も食べたいです。
そのことを伝えれば、
「僕の料理でよければ張り切って作るのです!」
と気合を入れてくれたようで。
その日の夕食はそれはそれは豪華なものだった。
人形の中に入っているはずの魔王様ですが、普通に食事をしていますし、どうせ考えも及ばないデタラメなので。と半ば思考放棄して食事を楽しんだ。
本当に美味しそうに、ものすごい勢いで口いっぱいに頬張る魔王様入りの人形は、何も知らなければ微笑ましくもある光景で。
何度か食器を握りつぶしたり、砕いたりしながらも楽しんでいただけたようだ。
*
「マデラよ。起きぬか」
そんな声で目を覚まし、外を見ればようやく日が昇り始めた位の時間帯。
「おはようございます、魔王様」
目を擦りながら上体を起こし、とりあえず顔を洗いに。
随分と起きるのが早かったようですが、……もしや睡眠を必要としていない、とかですかね。
そうであればかなり退屈をさせてしまいましたか。
「そうだマデラよ。寝ている間に力加減の練習をしたぞ。これでもう食器類は壊しはしないだろう」
ああ、やはり。ですが暇つぶしは見つけておられたようで。
胸を張り、どうだ、と言わんばかりの顔をする魔王様は、しかしすぐに床に座り込んで。
「うー、あー。しかし何だ。力を制御するのがここまで大変だとは思わなかったぞ。いつもの感覚で物を掴めばあっさり壊れる」
自身の入っている人形の手を、閉じて開いてまじまじと見つめながらポツリと漏らす魔王様。
「魔王、という言ってしまえば破壊や破滅の象徴とも言える存在ですから、壊さない。という事が難しくなっているのでしょう。ですが、一夜で制御出来る様に成られたではありませんか」
「確かにそうではあるが、……その……それまでに食器をな?」
ワザと見ないようにしていましたがもう無事な食器の方が少なくなっている惨状を目視し、次の給料日に食器を買い直す事を心に決めた。
朝ご飯を作りにツヅラオがやって来てくれて、昨日よりも圧倒的に少なくなった食器に驚きつつ、食べ歩きをする予定だから、と軽めの朝ご飯にしてくれた。
満足そうに全てを平らげた魔王様は、早くいくぞ。と家を飛び出す。
魔王様を一度制止し、断りを入れて、家の裏手で炎を吐き出して、私たちは中央街へ。
実は少し人間のお金が
一応言っておきますが、私やツヅラオだけなら1週間位は持つ額ですからね?
昨日からの食べっぷりを見ると魔王様は、実は底なしなのではないかと思うんですよ。
*
「おー、こっちの食い物はなんじゃ? 2つくれ。こっちもじゃ」
身軽に跳ねまわりながら、目につく食べ物を片っ端から買い漁っている魔王様は、両手いっぱい分の量を
天候は昨日に続き晴れ。雨が続く中でぽっかりと晴れた今日の様な日は、今まで外出を控えていた冒険者が補給の為の買い物などに動き出すこともあり、それを見越して出店を急遽出したり、持ち帰りの食べ物を多めに用意したりと、商魂
串焼きにしたソーセージに、魚の塩焼き、砂糖菓子のような物から、冷たく冷やした果物など。
本当に目についた物全てを買ってきている魔王様は、ご機嫌に足を振りながら消えるような速度でそれらを食べていく。
「マオ様、あまり急ぎ過ぎるとのどに詰まりますよ?」
「そうはならんようにこれでも抑えているのじゃ」
流石に街中で魔王様と呼ぶわけにもいかず、似たような名前にして呼ぶことにした。
ツヅラオも気になった食べ物を買って来たらしく私の隣に座って食べ始めた。
「マデ姉は何か食べないのです? ……アチッ!」
「もう少し先に私のお気に入りのお店があるのでそちらを買おうかと」
油で揚げた鶏肉を頬張るも熱かったらしく、口を開いて口内の熱を下げようとパクパクしているツヅラオの頭を撫でながら答える。
「マデラのお気に入りとな? どんな店じゃ?」
「香辛料の効いた肉とたっぷりの野菜を挟んだサンドが有名ですね。舌を刺激する味と鼻に抜ける香り、野菜のみずみずしさが調和していて、よくお昼に買って行っております」
「よし! 次はそこじゃ! そこに向かうぞ!」
話を聞くやいなやベンチを飛び降りて、走り出す魔王様。が直ぐに止まって何やら横の広場を見ている様子。
追い付いて視線の先を見れば、冒険者用の力比べイベントが催されていた。
何のことは無い、鉄球をどれだけ遠くへ飛ばせるか、というイベント。
周りに出店が多いと思えば、このイベントがあっていたから囲むように店を出していたわけですが。
さて魔王様、まさか出たい等とは仰いませんよね? あまり目立つ事は控えていただきたいんですけど。
などという私の考えは露知らず、すでにエントリーまで済ませたらしい魔王様は、決められた位置に移動し鉄球を軽々持ち上げて、……思いっきり振りかぶった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます