不思議な縁

 温泉って凄いね、すぐに疲れが取れて体力も回復する! これならガンガンダンジョンに行けるね!

 私がカジノで稼ぎまくったからでしょ! もう少し感謝してほしいわ。

 あんなにどうやって稼いだのよ。カジノ側が目を丸くしてたし。

 ふふん、知っているものと知らないものの差よ。さーて、また明日からレベル上げいくわよー。

 皆さんいくらタオル撒いているからと、よく平然とパーティでお風呂に入れますね。

 変に意識するからよ。その豊満な体の何を恥ずかしがってるのよ。ほら、僧侶も入った入った。


────────


「ツヅラオー。なんや用がある言うてミヤジから聞いたけど、どないしたん?」


 そう言ってギルドにひょっこり顔を出した母様は、


「お、この間のチビッ子達か。また会うたな」


 と勇者と呼ばれていた人たちのパーティへ手を振っているのです。

 勇者と呼ばれた人の顔が真っ赤なのは何かあったのです?


「か、神楽さんっ!?」

「いいから、情報貰ったし早く向かうわよ」

「嬢ちゃん、なんか怒ってない?」

「戦士さん? からかってはいけませんよ?」


 勇者さん? はまるで引きずられて行くように3人に連れていかれたのです。

 その様を母様と一緒に手を振って見送って、母様に向き直りましたのです。


「かか、……神楽さま。その、魔王様に送っていただきたい書類があるのです」

「ある程度はミヤジから聞いとるよ。はよ書類を貸し」


 僕から書類を受け取った母様は何やら書類を折りたたんで、ポン、と叩けば狐がコンニチワしたのです。

 僕より小さい狐は久しぶりに見るのです。モフモフするのです。

 でも僕が捕まえようとした時にはそっぽを向いてギルドの窓から外へ。

 きっと魔王様の元へ向かったのです。……少しだけでもモフりたかったのです。


「ミヤジ、ダンジョン課の仕事はもう他あらへんか?」

「いきなりどうした。ツヅラオ君が無いって言うんならないぞ」

「まだ何か残っとるん?」

「いえ、今のでやる事は終わりなのです。もうすぐギルドも閉まるのです。こんな時間にダンジョンの紹介を希望する冒険者は来ないと思うのです」


 机の上など、仕事の見落としがあれば残っている場所に目を移すも特には見当たらないのです。


「ほな、さっきのくらいは出来るように特訓しよか」


 にっこり僕へ笑顔を向けて、母様はそう言ったのです。


*



 ギルドの裏手に回り周りから感知されないように母様が結界を張り、僕の特訓が始まったのです。


「まずは……せやな、狐火、出してみ」

「出した事ないのです。まだ出せないのです」

「んなこたあらへんよ。出し方を知らんだけや。見ててみ」


 そう言って両手を胸の前で合わせゆっくり離していけば、母様の髪の毛の色と同じ黄金色の炎が手の間に出てきたのです。


「両の手を合わせてそこに魔力を意識してみ。大丈夫、ツヅラオなら出来るから」


 そう言われ頭を撫でて貰ったのです。頑張るのです。

 母様の真似をし両手を合わせて……。…………ん、なんか手のひらが温かいのです。

 集中しいて目を閉じていた事に気が付き、ゆっくり目を開けば、僕の両手が桜色に染まっていたのです。


「うわぁ!?」


 思わずびっくりして両手を払ってその火を消したのです。


「ほらな。出来たやろ? 綺麗な桜色やったで」


 にっこり母様が微笑んで、もう一回してみ、と言われたのでもう一回なのです。

 同じように手を合わせて、今度は目を瞑らないように注意して。

 ポゥっと優しい色の火が手の間に生まれたのです。


「今度は形を作ろか。狐の姿を意識してみや」


 狐、キツネ、きつね。……これでどうだ、なのです。

 また目を瞑ってしまって事に気が付いて慌てて目を開けると、多分キツネと呼んでギリギリ差し支えない姿に形どられた僕の狐火が……。


「早いもんやね、繊細なコントロールが得意なんか。ほな次、この煙管を狐に替えてみ」


 そう言って母様から煙管を受け取り、


「狐火で全体を覆ってから形を作るとええで」


 とのアドバイスに従い、やっていくのです。

 全体を狐火で覆って……煙管が僕の手より長くてやりづらいのです。

 さっきみたいに形を狐に、キツネに……手の中がもぞもぞするのです。

 ピョコンと桜色の狐が僕の手の間から出てきたのです。


「ほんならその狐に、うちのとこに来い言いや」

「はいなのです。母様の所に向かうのです」


 一瞬桜色の狐が頷いたように思えて、とてとてと母様の元へ。


「なんや、全部一回で出来るやないの。これを魔王様の所へって意識すりゃ今後はツヅラオも出来るで」

「で、でも、魔王様の所には僕は一度も行った事無いのです」

「それについては今度マデラに連れていってもらい。あの子も定期的に行ってるから、理由言えば連れていってくれるはずや」


 と母様が指を鳴らせば、結界は音も無く消えて、……なんか尻尾がムズムズするのです。


「ほんならうちはダンジョンに戻るわ。ツヅラオ、頑張ってな」

「はいなのです!もっとたくさん頑張るのです!」


 下駄の音を響かせて、鈴の澄んだ音を残して母様は自分のダンジョンに戻ったのです。

 戻る前に少しだけ僕を見て笑ったのは何か意味があったのです?


 お風呂入る時に、尻尾が2本になっている事に気が付いて若干パニックになったのは内緒なのです。

 いつの間に、と思って母様の特訓の時に2本になって、それを見て母様が笑ったんだという結論に結び付くまでにそんなに時間はかからなかったのです。

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