お土産
あー、つっかれたー。
飯食って体拭いたらとっとと寝とけ。疲れ残すと日に日に辛いぞ。
そうするよ。でも、本当に戦士と僧侶が居てくれて助かったよ。僕たち何にも知らなかったって実感したよ。
お前ぐらいの年ならそんなもんだろ。学校なんざ言ってしまえばおままごとだ。実際とは天地の差がある。……って、寝てるし。はあ、何にそんなに急かされてんのかね。こいつらは。
お前ぐらいの年齢なら、まだ学校に通うべきだっつうの。
────────
少しばかりいやらしい手の動きをしていた麒麟のマッサージを終え、今は錦鯉のドリンクをまた飲みながら姉御がマッサージを終えるのを待っていた。
「心地良いマッサージに、美味しいドリンク、頑張った甲斐がありましたわ」
「僕のお灸は人気ないねぇ。効くよ?」
「マッサージだけでかなり楽になりましたもの。必要ありませんわ」
「僕の扱いって水のや陸のに比べて雑過ぎないかい?」
そもそも外科と言っていましたし、疲労回復等は専門外では?
「はー。ほんま極楽やったわ。飲み物おくれ」
下駄を鳴らし、錦鯉からドリンクを受け取って、そのまま一気に飲み干す姉御。
ぷはぁ。と声を上げ口元をぬぐう。
「それじゃ、こっちの用は終わったし、帰るんでしょ? 乗ってきなよ」
龍に姿を変えた錦鯉が、乗れ。と言わんばかりに背中を見せてくる。
「あ~まてまて、土産がある」
錦鯉の背中に乗ろうとするときに麒麟から一人一瓶ずつ渡されたそれは、中身は……かなり色の薄いポーションですね。一体何でしょうか。
「お前らも熱中症なんかになられたら困るからな。その耐性付けるポーションだ。無理矢理ポーション一本に納めたから少し副作用があるが、……まぁお前らなら大丈夫だろ」
聞きながら飲もうとしましたが副作用と聞いて手が止まる。
どうやら他の方々も同じだったようで。
「副作用てなんや?」
「ふっふっふ。秘密☆」
「そのうち本気でぶん殴りますわよ!? というか私の服、元に戻してください!」
「チッ。はいはいっと」
ようやく普段通りの露出の高い服に戻るパパラ。
本当にそちらの服の方が恥ずかしくないのですか?
……私には到底真似できません。
「まぁ気が向いたら飲んどけや。お前らが患者としてここに来ない事を祈っとくぞ~」
「暇だったら手伝いに来てよぉ。いつでも歓迎だからねぇ」
神獣2体に手を振られ、私達を乗せた錦鯉は高度を上げる。
「どこに送ればいい?」
「うちのダンジョンの上空でええわ。そこから各自降りるやろ」
「は~い。んじゃいくよ~」
自分で飛ばなくていいというのは楽ですね。なんて考えは、錦鯉が姉御のダンジョンへ向けて速度を上げ始めると同時に、周りの音と共に吹き飛んだ。
*
「着いたよ~。……て大丈夫?」
「あんた……乗っとる身にもなりぃや。……意識ごと吹き飛ぶような速度出すんちゃうで」
「いえ、パパラとリリスは意識飛んでます。危ない所でした」
二人をそれぞれ両手で支える身になって欲しいものですよ。
パパラだけ幸せそうな顔してますけど、気絶してますよね?
「ごめんごめん、疲れてるだろうと思ってついつい飛ばしちゃった」
「本音は?」
「誰か落ちないかと期待して速度の限界に挑戦した」
本当に神獣は質の悪い連中ばかりなようで。
「ま、無事に着いたしええわ。ほなな。もう会わへん事を祈っとるで」
「そう言わずに手伝いに来てよ~」
却下や、と錦鯉を一瞥し、その背から飛び降りる姉御。
同じく続きますが、両手の二人がすこぶる邪魔です。
姉御は番傘を出してひらひらと、私も羽を出して――っ!?
眼下に勇者パーティを発見してしまい一瞬
勇者達とも目が合ってしまいましたし、どうしましょうか?
不意に、ガクンッ―と体に衝撃が真後ろから加わり、というか何かに引っ張られるような感覚が。
「ドラちゃん、何やってるノ? リリスとサキュバスの子ハ気絶してルみたいだシ」
私の服だけに、器用に鉤爪をひっかけて私の急降下を止めてくれているハーピィ。
助かりました。ええ、本当に。
「神獣の錦鯉のせいでこうなりました。ともあれ、ありがとうございます」
「へー。とりあえず落ろすネ、重イ」
ポイっと、一度勢いを失って無事に着陸できる高度にまで運ばれて、無造作に放り投げられる。
無事に着地し、ゆっくりリリスとパパラを降ろすと、そこに駆け寄って来る勇者パーティ。
「マデラさん!? 今上から落ちて来ませんでした!?」
「ええ、少し。用事があったもので」
「そちらのお二方や先ほどのハーピィ種の方は……」
「Sランクダンジョンの方々ですよ。街で見かけた時は大丈夫ですが、ダンジョン内で見かけたら逃げてください」
逃げられない方々しか居ませんけど。
「何なニー。ドr」
危うくドラちゃんといつも通り呼ばれそうになり、口を押さえつける。
ドラちゃん、といつも通り呼ばれるのもまずいですがモンスター語を話しているのを聞かれるのもマズイです。
明らかに人間では無理な発音しますので。
「勇者様方に紹介しておきましょう。こちら、Sランクダンジョンのハーピィの塔のダンジョンマスターです。そうですね、他のSランクよりは難易度は下がるかと思います」
何か言いたげにハーピィがじたばたしていますが、放して余計なこと口走られたら困りますので無視です。
「こちらで気を失っているリリスは誘惑の館と呼ばれるSランクダンジョンのマスターです。こちらのダンジョンは現在クリア不能も同然なのでオススメいたしません」
「クリア不能って、それダンジョンとしてどうなんだよ」
「クリア不能とは言っておりません。不能同然なのです。彼女は魅了魔法を得意としておりますが、その魅了魔法を破れた者がまずいません。そして範囲はダンジョン内全域に及びます」
「てことは……」
「魅了耐性が彼女の魅了魔法を上回っている場合のみクリア可能です。が、前例がありません」
「やっぱりおかしいでしょ!」
「Sランクダンジョンの説明に、デタラメです。と記載してあるはずです。こういう意味です」
絶句する勇者達。
ええ、気持ちは凄くわかります。
「でもなんで僕たちに紹介を?」
「ふと、貴方方ならば挑戦するかもしれないと思ったからです。今すぐにとは言わずとも、将来的に」
少し照れながら、頭を掻く勇者に戦士は、社交辞令だばーか。と頭を小突く。
そこに、ふわふわと降りてくる姉御。
「おや? またチビッ子らか。どうしたんや?」
「あ、神楽さん。ありがとうございました! いつか必ずダンジョンに挑戦しに来ます!」
姿を見るなり勇者は深々と頭を下げる。
「ま、頑張りや」
僅かに微笑みひらひらと手を振って、勇者パーティの背中を見送る。
さて、彼らが挑むのは一体どれくらい先の話ですかね。
途中からすっかり動かなくなったハーピィを見れば、
白目をになっていたため慌てて手を放す。ごめんなさい。呼吸止めてました。
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