寄宿学校の少女たちとエースパイロット

風親

第1話 プロローグ  とある生徒の回想

 意識してからは、ついロヴィーサのことを目で追ってしまう。

 ここは名門聖ヴァインツィ女子学園。全寮制寄宿学校のいわゆるお嬢様学校……だった。

 かろうじてその名前はまだ生きている。


 でも、戦争がはじまり田舎に疎開した私たちは、優雅な学生生活とは程遠い暮らしだった。

 戦争なのだからと言われて、校舎の裏では畑を耕し、更には軍事訓練が授業に組み込まれていた。

(こんなお嬢様たちに訓練をしても、どうにもならないでしょう……)

 箱入り娘ばかりの生徒たちを哀れんでいた。

 私は違う。

 私はすでに自分の力で生きていけるたくましい戦士だ。

 そう思いたかったのかもしれない。


 しかし、ロヴィーサは私より優秀だった。

 今も『教官』の厳しい指導を受けているが、目は輝いている。私より教官との距離が近い気がしてしまう。

 見た目も華やかで、私よりまだ何歳か若い中等部の生徒なのに、可憐な美しさがある。

 泥にまみれた作業着を着ていても、ヘルメットをかぶる時に邪魔だからと髪を切ってもその輝きは変わらない。

 まだ細く、子どもから少女に変わろうとしている体も目を奪われるけれど、心が美しく強いのだと感じることがあった。

 天才はいるのだと思った。パイロットとしての才能に嫉妬して、可憐な美しさにはもう嫉妬する気にもならない。


 そんなことを考えていたら、またロヴィーサと目があってしまった。

 慌てて、私は目を逸した。

 周囲には、まるで恋をしているみたいだと思われているかもしれないと思うと恥ずかしくなる。

 ああ、でも、これは恋なのかもしれない。

 ロヴィーサの方も熱い視線で私の方をしばらくじっと見ている。

 でも彼女が私のことをなぜ見つめるのかは分かっている。私のことを『教官』との恋敵としてみているのだった。

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