第30話 アルヴィンと英雄狩りまんぷくの、共通点


「英雄狩りさんも英雄なんですから、お姉さんのために何かできなかったんですか? お姉さんを説得して結婚をさせないとか……」話に救いを求めて、英雄狩りに話を振るぼく。

「私と姉は、ガンで入退院を繰り返す母親が自殺で死んだ事に対するショックと父親や後妻の虐待ぎゃくたいで無気力状態だったんだ。あと姉が結婚したあとすぐ、私はフードファイターとして世界中転戦していていそがしかった。姉が殺されたあと、胸騒ぎむなさわぎがして帰ったのが30年後だったのだ……」英雄狩りは視線と肩を落とし、170センチの細マッチョの身体が実際より小さく見える。

「え? ぼくの前世の世界でフードファイターって言うと、時間内に食べきったらただ!とか時間内に食べきったら賞金!みたいな所を回ってときどきテレビにも出るような職業なんですけど? お姉さんの様子を見るぐらいは出来たのでは?」ぼくは英雄狩りのいくつかの気になった話の中の、フードファイターの話について突っ込んで聞く。

「そのフードファイターで間違いないぞ? 私の無気力状態は長く続いてな、治癒には時間が必要だったのだ。さっき言った母親の自殺だが、私と姉が遠くの病院までお見舞いに行けるようになったころ私と姉は毎日のようにお見舞いに行っていたのだが父親に『あんまりお見舞いに行くな』と言われてな、その他にも『うちは貧乏びんぼうだから』とくどいぐらいに言われていたのもあって、私と姉が見舞いに行くのを止めてしばらくして、自殺で死んだのだ。ガンで死んだのではなく自殺でな。母親がガンで入退院を繰り返していた時にもうちの父親はタバコもギャンブルも止めなかったのだがな、その様な貧乏だ」英雄狩りのしゃべりには元気がないが、『』の部分では声真似を続けている。

「え? ぼくには姉はいないしフードファイターをやった事もないんですけど、それ以外はぼくの前世と同じです。母親のお見舞いの時に『お母さんが死んだらどうする?』って、母親に聞かれた事ぐらいしか違いがありません!」ぼくはこの世界もしくはこの英雄狩りの存在について疑問を感じながら、声をあげる。

「私の母親も、『お母さんが死んだらどうする?』と言っていた。虐待の事だが、うちは宿題もテストも見せろと言われた事がなくてな。算数で100点を取り続けようが理科で80点以上を取り続けようが褒められる事がなくてな、まあその二つは授業をちゃんと聞く以外は宿題も完全無視で何かしたとかではないんだが。ほめられた事がない事は大きくてな得意科目と言っていいそれらも、結局最後まで好きになる事はなかった。宿題を無視していたのは全部の教科だったのだが、毎日神殿語の書き取りの宿題がでていてな。あんのじょう神殿語の書き取りでは0点を取り続けたのだが、父親が何か言ってくる事はなかった。まあ神殿語の書き取りが出来なくても読みは出来たし迷宮語全体の点数では困った事がなかったからそれで何も言わなかった可能性もあるが、まったくしかられる事もなかった。友達には『落ちこぼれになるなよ?』と言われたがもう手遅れだった、勉強での努力の仕方を覚えなかったのだ!」英雄狩りが、はきすてるように言う。

「解ります! かけ算では暗記が必要だと思われていますが、かけ算の回数足し算をしてもそんなに時間かからないんですよね! 授業でかけ算をたくさんさせられた時、はじめのうちは『計算遅いけど一発で全問正解していく』と言われて。そんなに期間がたたないうちに自然とかけ算の答え覚えて、クラスぐらいの単位では断トツの計算スピードと正確さになるんですよね! まあその計算スピードも暗算能力も、30年計算してないと無くなっちゃうんですけどね!」ぼくが調子を合わせるとかではなく自分の経験を言うと、英雄狩りが「そうだ!……」と言って何か考え込むようなそぶりを見せる。

「……話を続けるぞ? そんなこんなで根の深い勉強嫌いとして進学していくと、あるとき全教科の合計点で順位をつけられるようになってな! その順位で案の定ひどい順位を取ってな! まあ1つか2つの教科で100点を取るぐらいでは、宿題を全て無視している落ちこぼれとしては関係なくてな! 父親にはテレビを禁止されゲームを禁止され『うちは貧乏だから国立以外はだめだぞ!』と言われ何かにつけて殴られ、どこら辺を見たら勉強好きになると思っているのか?むしろ子供を虐待するのが楽しくて仕方がないように見えた。学校の授業で使っている裁縫道具さいほうどうぐでくつ下の穴を自分でふさいでいたのだが、ある時まともなくつ下が1枚もなくなってな。父親に『穴の開いていないくつ下が1枚もなくなった!』と言った所、くつ下を一足分だけ買ってきて『いっぺんに買うといっぺんにダメになるからな!』と言って得意げにしていた事がある。『いや、全部だめになったんだけど?』と言ったのだが、父親は得意げにしているだけで話が通じなかった。制服を買うときもおかしかった、なぜか洗濯する事を計算に入れずに一着だけ買ったのだ! その後部活動もあって毎日着る事が分かっても、洗濯用に買い足す事はなかった。私は無気力状態になっていて気にならなかったが、学校卒業までそのままだった。洗濯される事もクリーニングされる事もなかった、においをチェックされる事もな!」ぼくが英雄狩りを凝視している事もあって、英雄狩りもぼくを凝視して話す。

「ぼくもほぼ同じです。ぼくの場合は国立ではなく県立って言う国立よりはましな単位だったんですけど、どっちにしろ落ちこぼれをやる気にさせる言葉ではないですよね。父親の決め言葉の『うちは貧乏だから』も、父親がタバコを吸いまくって、子供が後ろに乗ってもせまいスポーツカーの新車にばかり買い替えて、ギャンブルをしに行くときはその間に禁止しているテレビをぼくが見ないようにせまい後部座席に押し込まれて父親と後妻がギャンブルをやっているのを待たされる、極め付きはぼくが就職してすぐに父親が買った一軒家! オイオイ『うちは貧乏だから』とは何だったんだ! つまり子供に使う金はくつ下一足分しかないって事かよ!って、英雄狩りさんも思いました?」ぼくは英雄狩りに話を振る。

「ああ、後妻が来てからが悲惨ひさんさのピークだった。食事中に思い出し笑いをしただけで、『ごはんがまずいんだろ!食べんでいい』と言われブチ切れられ。用意してあったインスタントラーメンに生卵を入れただけでブチ切れられ。洗面所のジャグチを上向きにしただけでブチ切れられ。自分がトイレのカギをしていなかったせいなのに、開けられてブチ切れ。私の友達が家に来ただけでブチ切れ。私と姉はまともに家の中にいられなくて、大体友達の家に避難しているしかなかった。お前の前世もそうか?」と英雄狩りがぼくに話を振る。

「あと父親の主張する所によるとしつけだと言っていたけど、後妻が朝洗濯機を回した洗濯物がぼくの部屋の板の間に干さずにぶちまけられていたのがあの人たちにとってはしつけらしいんですよね……。板の間に朝から夕方まで洗濯物が放置されているとそれだけで洗濯物がカビ臭くなるのに、それにぼくは母親の自殺や父親と後妻の虐待で基本いつもぐったりしていたから洗濯物を干さない日もたくさんあったのに、まったくチェックされる事もなく指導される事もなく何がしつけだよってね。着ている服がいつもカビ臭いのに。制服なんか洗った事すらなかったのに。本当の親なのか疑っていたんですけど、父親の子供の頃の写真はぼくに似てるんですよね。まあぼくが子供の頃と顔があまり変わらなかったのに対して、父親は残酷な現実を見る事になるんですけど……まあ似なくてよかったです。英雄狩りさんもそんな感じですか?」ぼくは英雄狩りに話を振るが、英雄狩りは相槌あいづちを打ち。

「そうだ! 英雄は運命を引き寄せると言うがここまで共通点があるのは……」英雄狩りは、ぼくを見つめて考え込む。


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