第9話 労働基準法とふまれてつぶれたドングリ
リリオーネ用のハチミツとお菓子を買って(フィリオーネはいらないと言った)家に帰ると、昼を少し過ぎたころだった。
「じゃあ今日の修業を始めるぞ!」とお父様が宣言した。
「いえお父様、ぼくリリオーネのコレクション見る約束していまして」
「それは今日の修業が終わった後だ!」
「どれぐらいで修業終わりますか?」
「毎日10時間! 今日はあまり時間もない事だし7時間ぐらいにしとくか!」
「あの、休みとかは」
「そんなものはない!岩とびペンギンのように一生懸命生きなさい!と言われてるんだろ? まあ、岩とびペンギンがどんな生き物かは知らないが」
7時間後、魔力の層を5層まとえるようになった所でお父様の修業は終わった。
「アルヴィン! 待ってたよ!」すぐにリリオーネに捕まる。
「まずはこれ! かさつきのドングリです!」
「うん、かさつきだね。こう言うドングリのコレクションって、大きさとか競うんじゃないの?」
「「これだからしろうとは!」」リリオーネとフィリオーネの言葉が重なる。
「大きいドングリは後半よ!」とリリオーネ。
「一番大きいドングリを比べちゃうと、終わっちゃうでしょ!」とフィリオーネが補足した。
「なるほど、それで何の変哲もないドングリからなんだ」
「何の変哲もないなんて事はないよ! ピカピカにみがいてあるし虫食いの穴もないし、かさつきよ!」とリリオーネがドングリを両手で突き出しながら主張する。
「そうよ! アルヴィンあやまって」とフィリオーネも怒って言った。
「ごめん。虫食いの穴のチェックをしてピカピカにみがいてあるのに気付けなくって」ぼくは素直に頭を下げる。
「わかればいいのよ! 虫食い対策にドングリを煮る方法もあるけどそう言うドングリをコレクションしているコレクターの事を、『虫食いコレクター』と言って最下級のコレクターあつかいされるのよ。それにかさつきのドングリはみがいていると、すぐかさが外れちゃうからピカピカにみがいてあってかさつきのドングリは貴重なのよ。次は、細長いドングリです!」とリリオーネがゴキゲンで次のドングリを取り出す。
4時間後深夜0時。
「そろそろ大きいドングリ見せてくれないかな? もう日付変わったし、今日も王宮に出頭するように言われてるみたいだし」ぼくはぐったりして言った。
「しょうがないわね~。では、これがあたしの持っているドングリで一番大きいドングリです!」と言って、10センチの大きさのドングリを出すリリオーネ。
「デカ! この世界のドングリ、こんなにでかくなるの!」
「まあまあの大きさね!」とフィリオーネが、余裕の笑みを浮かべている。
「負け惜しみいちゃって~。あたしのドングリが、うらやましいくせに!」とリリオーネも余裕の笑みを浮かべる。
「これが、あたしが、世界樹の下で見つけたドングリよ!」と言って、30センチの大きさのドングリを出すフィリオーネ。
「デカ! 世界樹って、ドングリの木だったんだ」
「!!!」リリオーネは驚愕の表情を浮かべて、自分の10センチの大きさのドングリとフィリオーネの30センチの大きさのドングリの間に何度も視線を動かして見比べている。
「どう? あたしもこの大きさのドングリは1つしか持ってないけど、あたしの勝ちね!」とフィリオーネが勝利を宣言する。
「大きさでは負けたけど、数では負けない!」リリオーネの身体が光って、合計10トンのドングリが「ザザ~~~」とリビングに降り注ぐ。
ぼくがドングリにおぼれそうになっていると、フィリオーネがぼくの体を釣り上げてドングリの頂上に置いてくれた。
「どう? あたしのコレクションの数、すごいでしょ」リリオーネの言葉に、フィリオーネはコレクションの何かを確認すると「あたしのコレクションも見せてあげるから、空き部屋まで付いてきて!」と言ってリビングのドアを開けて廊下に飛んで行った、そのあとをリリオーネとぼくも追いかける。
「まってフィリオーネ!コレクション出さないで!」
ぼくのお願いもむなしく客間から「ザザ~~~」とドングリの降り注ぐ音が。
廊下に出てきているドングリと部屋の中につみあがっているドングリを合わせると、大体10トン。
「同じぐらいの数みたいだね」ぼくが言うと、フィリオーネが「違うわよ!もっとよく見て!」と言ってドングリを渡してくる。
「かさのついてない虫食い穴の無いドングリだね」とぼくが何気なく答えると「そんな!まさか!」とリリオーネが何かに驚愕している。
「わかったみたいね! もう一つの空き部屋で虫食い穴の無いかさ付きのドングリを出すわ! ついてきて!」と言ってフィリオーネが部屋から出て飛んでいく。
「ちょっとフィリオーネ!わかったからやめて!」
ぼくの言葉が届いたのか届いていないのかとなりの客間から「ザザ~~~」とドングリの降り注ぐ音が。
となりの客間をのぞくと、かさ付きのドングリが廊下にあふれている分を合わせて大体10トン。
「あたしはあと、虫食いの無い葉っぱ付きのドングリのコレクションがあるわ!」とフィリオーネが胸を張る。
「葉っぱ付きのドングリのコレクションは出さないでね! フィリオーネ!」
「出さないわよ、葉っぱが取れちゃうでしょ! かさ付きのドングリからかさがはずれちゃうのですら、泣く泣くだったんだもの!」
「それなら出さないでほしかった。それよりも誰かが起き上がってくる前に、ドングリを片づけて!」
「ええ~~~。これだけ広い場所にコレクションを広げられる機会そんなにないんだよ?」とフィリオーネ。
「負けた負けた、完璧に負けた……。あたしも虫食いの無いコレクションだけど、こんなの勝てない……」とリリオーネ、フィリオーネのかさ付きのドングリの上でひざをついている。
そんな話をしているうちにお父様が起き上がってきて「おお!これはすごいな……」
お母様が起き上がってきて「アルヴィン?フェアリーの世話をするって言ったわよね?」と言った。
「ああ!そうか! このドングリはフィリオーネとリリオーネを監督して片付けますので、お母様たちはお休みください」
「そう? 午前10時にケサランパサラン魔法王国軍暁騎士団所属ルーク少佐とケサランパサラン魔法王国軍近衛騎士団所属ソフィア中佐と二人の息子妖精使いアルヴィンとお伴の妖精2匹の王宮への出頭命令が届いているから、早めに休みなさいね」とソフィアお母様。
「はーい」
2時間後「このドングリ金色に見えるのよ!」とフィリオーネがドングリを持ってきて言った。
この2時間「かたづけて!」と言い続けたのだが、フィリオーネもリリオーネもドングリをみがいては持ってくると言う事を繰り返していた。
「フィリオーネもリリオーネも、眠くないの?」
「睡眠がいらなくなる魔法使ってるからね、よゆうよ!よゆう!」とリリオーネが胸を張って言った。
「フェアリーなら普通の事だから!」とフィリオーネが補足した。
「じゃあ、ぼくも習得しようかな。マナを全身に行き渡らせて……は! 出来た、全然眠くない!」
「身体がぼんやり光ってるよ?」とリリオーネが教えてくれる。
「あれ? これっていつ消えるの?」
「消えないんじゃないかな? 眠るまで……」とフィリオーネ。
「フィリオーネとリリオーネは、光って無いじゃん!」
「あたしたちは、マナに頼らず自分で習得したから……」とリリオーネ。
「花の蜜を他のフェアリーと競い合って吸い続けたら、徹夜5日目ぐらいで自然に習得できるわよ?」とフィリオーネがまた、フェアリーの驚異の生態を教えてくれる。
「じゃあ眠りたいから、フィリオーネもリリオーネも片づけて!」
結局お父様とお母様が起きてきて朝食を取り始めたころに「あとは、王宮から戻ってからだね」と言ったらあっと言う間に片付いた、ふまれてつぶれたドングリを残して。
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