第55話 別れの宴会
屋敷の前にある庭で行う形なのか、白いテーブルと椅子が並べられていた。招待したらしい人達が会話をしたり、食事をしたりして、楽しんでいる。
「お。主役が来たか」
エプロンを着た武器屋の主が近づいてきた。その後ろに誰かがいる?
「ソーニャ姉」
出てきた。茶髪の二つ結びの女の子。身体だけで判断しているが、四歳か五歳といったところか。何故かソーニャを知っているみたいだが、遊んだ仲という奴だろう。
「ワオンちゃん、来てたんすね」
「うん。来た!」
ソーニャは大人の年齢だ。だが背丈が小さいこともあってか、この感じは歳が少し離れた姉と妹にしか見えない。
「あ。ソーニャ来た!」
ぞろぞろとちびっ子が駆けつけてくる。小さいお友達というのも納得がいく。いつの間にか何処かに行ってしまったが、遊んでいるだけだろう。放置でいい。
「色々と面倒見てくれたからな」
と遊ぶ光景を共に眺めている武器屋の主が教えてくれた。仕事をやりながら、育児も行うところが多いのがテレッサ村だ。少しでも小さい子供の面倒を見てくれるだけでもありがたいのだと思う。
「俺は平気なんだが……勉学を上手く教えられねえ奴もいるからな。そういった意味でも助かった」
「今のところ両親が文字と数を教えろという形だからな。教育に関しては遅れている面がある。だが安心しておけ。いずれは負担を減らす」
若いペイリャル家の主もやって来た。義務教育というか、初等教育に近い制度を設けるつもりなのだろうか。
「つーことはあれか。国王陛下の」
「ああ。長期計画の通達が来た。すぐというわけにはいかないがな」
ペイリャル家の主が淡々と言った後、何故か私とカエウダーラを見る。
「国王陛下たちの報酬は無事に届いたか」
ああ。その確認か。そう思いながら答える。
「届きました。協力者の魔術師にも届くでしょう」
「ああ。彼奴はそういうパシリが出来る数少ない魔術師だ」
良い顔で言っているが、地味にグロリーアをディスってないだろうか。近づいてくる足音を聞きとったので、振り返ってみる。胡散臭い黒髪黒目の魔術師ダスティンがいた。「主役が何も食べないのもどうかと思うよ」と言われ、ありがたく肉料理をいただきながら、会話をしていく。
「一応褒め言葉だよ。偉くなると何もやらない魔術師だって一定数いる。偉い人からの頼み事でも小さいことならやらないって奴もいるから」
ダスティンの台詞にふーんと思いながら、咀嚼をしていく。
「調子に乗る人はどこでもいらっしゃるのですね」
「そういうものさ。ま。流石に頂点に立つ者はそういうのいないけどね。少なくとも魔術師界隈では」
「そうですわね。狩人の世界もいませんわ。流石に現役から引いている状態ですので、すぐ対応できるわけではありませんが……他の業界よりマシですわね。今のところ、汚職とか聞いたことありませんもの」
カエウダーラとダスティンが難しい話をしている。というか別れの宴会で話すことだろうか。
「ま。とりあえず問題はないだろう。それで彼は何をしている」
強引に切り替えるペイリャル家の主だ。何故平然としている。
「神とやり取りをすると言っていました」
カエウダーラの返答に彼は腕を組み、考え込む仕草をする。
「……そうなると夕方になる前に終わるか。ならば冒険者のところに行け」
ペイリャル家の主が指す方向を見てみる。妙な盛り上がりがあるなと思ったら、冒険者のメンツが集まっているみたいだ。
「これから模擬試合をやろうぜ!」
キャサリンが手を振りながら、誘いの言葉を言ってきた。どうしてそうなった。
「まあまあ。これが彼女達冒険者のやり方なのでしょう」
カエウダーラは気にすることなく、長い槍を持っていた。戦う気満々である。
「なんであっさり納得しちゃってんの?」
「とか言いながらあなただってやる気でなくって?」
……バレていた。仕方がない。そう思うと、口元が緩んでしまう。
「行こうか」
「ええ。私達の力を見せつけてやりますわ!」
「そのタイミングで言うセリフじゃない!」
突っ込みを入れながら、彼らのところに向かう。暫く冒険者のところに行っていなかった。最後ぐらいは拳で語り合うのも悪くはない。そう思うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます