第9章 最後の狩りと対話
第48話 最後の滅びの獣
狩りの作戦プランをいくつも立てて、準備をしていた時だった。
「一つの滅びの獣がいるところの数値がゼロに至った」
「もう片方の獣がいる地点に加算されるように大きくなっていた」
そういう報告を聞いて、また合成したのかと私達は思った。読んでいたグロリーアは否定せずに言う。
「最後の二体が合体したと考えて良い」
謎の大きい袋や銃や剣などの準備をし、私達はすぐ現場に向かう。見上げると灰色の雲で覆われて、日が見えない状態だ。その下は森の中に小山がいくつもある。そこにいた現場の人から方向を聞き、急いだ方が良いとのことなので走っていく。
「ペースが早くなってるってことだよね。だって前は歩いても問題なかったし」
「ええ。私達と対面しないように動いてるかもしれませんわね。匂いとかで分かります?」
カエウダーラが言う通り、既に私達が狩る獣が動いている可能性がある。目と鼻と耳をフルに活用していく。非常に分かりやすいものだ。匂いは周りの獣と大差ないが、身体が大きいことで歩く音が大きくなっている。
「こっち!」
方向は分かった。先に奴がいるところに駆けていく。気温が上昇しているため、汗が出始めている。脱水症状にならないように、水分を取りながら向かっていく。
「ウォル」
「うん。やっぱ変だ」
途中で気付く。徐々に奥に入っているため、本来は森の光景のままのはずだ。しかし草がなくなり、木の葉が枯れて落ち、幹に元気があるように見えなかった。夏となったこの季節は生命が輝く時期だというのに。これは季節や病気によるものではない。直感で悟った。
「ここまで影響が出てくるとはね」
滅びの獣がいる周辺だと枯れているケースがあった。しかし獣を目で捉えていない距離で、私達は生命を失った森を見ている。冷や汗が出てしまう。
「今までで強いかもね」
「ええ。注意していきましょう」
とカエウダーラが言ってからだった。木がぶつかりながら、地響きを出すような駆ける音が耳に届く。互いに距離が離れているとはいえ、奴に場所がバレていたみたいだ。というかどういう仕組みで分かったのか疑問であるが……考えるのは後でだ。
「こっちに来る! 私達がいるとこ分かってるみたい!」
カエウダーラに知らせた。彼女は信じられないといった表情になっている。
「初めてですわね。そういうケースは」
相棒が言った通り、獣が私達に近づいてくること自体、初めてなのだから。
「うん。衝突に備えて」
それでもやることは変わらない。タイミングが早いか遅いかの違いだ。カエウダーラが黒くて固い合成金属の板を取り出す。雑誌と同じぐらいの大きさで、見ただけでは使用用途が分からないだろう。
「ふん!」
その板に衝撃を与える。カエウダーラの息が荒々しいが、そこまで力を入れる必要はない。これは単にスイッチでしかない。板の形が崩れていく。数えきれないほどの六角形のピースが見えてくる。それらが一つ一つくっつけて、別の形になっていく。あくまでも聞いた話によると。
「ウォル。予定通り、陰から攻撃をお願いしますわ」
カエウダーラよりも大きい黒い盾の完成だ。奴がどう動くかにもよるが、衝撃ぐらいで盾は壊れないはずだ。ビルを半壊させる一つ前の世代のジャベリンを無傷で凌いだヤバイ代物だからだ。
「了解」
事前に考えた作戦通りに私は動く。私達の星の狙撃銃を背負って、枯れた木陰のところに。走っても数秒では着かない位置なら狙われずに狙撃が出来る地点から見ていく。
「来ましたわ!」
配置に着いて数分後。黒い毛並みで、一軒家と同じぐらいの大きさの猪が来た。駆ける足音の大きさと勢いで分かる。この世界の土で出来た建物はあっさり壊せるだろう。いくらあの盾でも何度も受け止めたら限界が来るはずだ。
「プラン変更しますわ!」
それはカエウダーラも理解していた。だからこその発言だ。彼女は腰にあるポーチからツルツルとした球五つを出す。一つの手で複数持てるぐらい、小さいものだ。カエウダーラは盾の陰から小さい球を地面に投げる。
今からやろうとしていることはもう一つのプラン。柔らかい部分を電気で当てることで動きを止めることが出来る。その隙にレーザーで切ったり撃ったりして、撃破を狙っていくものだ。電気に関しては侵入を防ぐ程度ならもう少し弱めでもいい。しかしこれは狩り専用のものなので、少々強い設定になっている。正直規格外な相手である可能性があるため、どこまで効くかはさっぱりだが。
「げ」
何かが私に向かって攻撃してきた。伸縮自在で長い蠍を思わせる尻尾の先には鋭い針。刺されたらヤバイことが起きる。仮に異変がなくても、致命傷になることぐらい分かっている。この素早さでは回避が間に合わないので、狙撃銃で対応する。重くて鋭い攻撃。最初に討伐した獅子らしいものとは違って、単純な動きではない。ぐねぐねと動き、私の銃の剣に針で受け止めているぐらい、精密なものだ。
「あっはっは! そうでなくては!」
カエウダーラの戦闘狂を思わせる狂気的な笑いの声が響く。通常運転で何よりだなと思いながらも、面倒な尻尾の動きに応じている時点で私も十分おかしいかもしれない。
「どうっすっかな」
私もカエウダーラも無事だ。しかし問題はどうやって奴を仕留めるか。ただでさえ防御に徹することで精一杯だ。ここからどう攻撃を与えればいいのかが見当ついていない。ここからはアドリブでやるしかない。戦いながら見出すしかない。そう思いながら、片目で相棒が戦う姿を見る。盾で受け止めているが、流しているが正確だろう。耐久をどうにか保てている状態だ。
「マジ?」
カエウダーラから人差し指と中指と薬指を立てたハンドサインが来た。これは「ギャラルホルンという角笛を使う」という意味だ。吹くことで爆音と衝撃波を出す楽器型の兵器。誰でも気を失う程のとんでも兵器である。
この場面で使うとかどうかしてると思いながら、カエウダーラから更に遠ざけるように動く。そうするしかないが正確だ。ギャラルホルンの使用でどう響くのか。期待と不安でいっぱいだ。
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