第46話 大魔術師アルマ
ザッサから一つの本を受け取る。文字がない。絵だけの本。いくつもの大陸を渡って旅をして、死者の魂と話して導く。そういったものだろう。
「禁忌とされる術の行使。七体の獣の召喚。古代文明の破壊。これらをやり遂げた者。七大魔術師アルマ」
グロリーアの目が大きく開く。
「アルマ!? 七大魔術師じゃないか!?」
珍しく声が荒い。それよりも七大魔術師という言葉が気になるところだ。彼らの世界では有名人であることは確かだろう。
「世の人々を導くために動いた七大魔術師がやるとは思えないが」
「普通はそう思うよねぇ。けど納得すると思うよ。大魔術師はね。魔術師でもあると同時に他の分野のプロフェッショナルであることを覚えてるかなぁ。建設。農業。医療。ドラゴン。法律。加工技術。そんな感じで」
グロリーアにとって何か思い当たるところがあるみたいで、それが顔に出ていた。
「生と死。魂魄を専門としていたな。魂魄学二大学者の一人とされているぐらいの実力者。禁術を簡単に扱えるのも納得がいく。というか彼しかいないが正確か」
ザッサの予想通り、普通に納得していた。
「あ。ほんとだ。これ大部分アルマとその師匠が見つけたものっすね」
ずっと分厚い本を読んでいたソーニャだからこそ、私より気付いていたみたいだ。
「土台どころか更に上を行くって感じっすよね。師匠が見つけたものを元にして、どんどん広げていって。倫理的なものはそれよりも前の世代が作ったって感じっすね。自分で作ったものを破る馬鹿じゃないだろうし」
ソーニャの推察にザッサはうんうんと同感らしい反応をしている。
「実際そうだねぇ。倫理条約みたいなの、提示したのアルマの師匠なわけだしぃ」
「あ。その人だったんすか。テキトーに言ってみただけなんすけど」
どうやら一部はたくさん撃てば当たるぜ理論で発言していたみたいだ。それでいいのかと思いたいが、知識がないため仕方のないこと……なのだろう。
「でもおかしくありません? 師匠が考えたのなら、守る人が大多数でしょうに」
カエウダーラの言う通り、一般的には規律を守るだろう。何かしらのきっかけがあったら、人は考えを変えることもある。良い方に繋がる時があれば、悪い方に行ってしまうこともある。
「ねえ。何かきっかけがあったんじゃない?」
「ウォルファ鋭い。その通りだよ」
ザッサが微笑む。当たっていた。少し嬉しい。
「この大陸で当時最も大きい帝国でちょっとというか、かなり大問題を起こしてねぇ。魔法技術は素晴らしいものだった。けど魔法使うにも膨大な魔力が要りますって話だから魔力量の差別ってのはあってね」
世界地図を見る限り、アルムス王国がある大陸より南のところだ。どちらかというとトドリムの印象が強い。
「でもそういうのってトドリム大陸だと記憶しておりますわよ? まあそれは今と昔が異なるって話でしょうし。それは放置しておくとして。どういった大問題がありましたの?」
それでもカエウダーラの台詞にもあった通り、今と昔が異なるだけだ。
「経緯があるから順に。生まれつき魔力が少ない子供を捨てる問題があった。仮にその子を拾っても、相手がまともな組織じゃなくてね。実験とかでズタボロにされるなんてしょっちゅうあったという記述がある」
それぐらいならまともじゃない組織に突撃して、滅ぼせばいい。そしてその子達を自分の手で育てれば問題ないはず。少なくとも私はそう思っている。
「脳筋的発想をしてるっすね。二人とも」
言っていないのに、ソーニャにバレていた。しかもカエウダーラも似たようなことを思っていたみたいだ。彼女は恥ずかしさのあまり、頬を赤くしている。
「こういう考えをしてくれる人が大多数だとありがたいんだけどねぇ」
ザッサが苦笑い。地味に傷付く。
「でもそれは現実的じゃないんだ。かなりの数があるし、力のある魔術師がリーダーとして務めているわけで」
ひと言も言っていないのに、ザッサの鋭い指摘は痛い。でも確かにそうだろう。悔しいが、まだまだ論議というところでは誰にも勝てない気がする。
「時間が足りないというわけっすね」
「これだけなら流石に理論と実験をしても、大規模にはやらなかったと思うよ」
理論と実験をした時点でどうなのと感じるが、それでもたくさんの人々を犠牲にするような行為に至らなかった。いや。あくまでも研究として作っただけに過ぎなかったのだろう。何故やってはいけないことをしたのか。何故召喚したのか。獣を狩る者として、知る必要がある。
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