第6章 待機期間 世界の知識と人権
第32話 宙の落とし箱からもたらされたもの
バカンスを満喫した後、私達はアルムス王国に戻らなかった。山に囲まれた国家サウリジアというところに直行である。グロリーアが魔法学の発表を行うので、その護衛という形で同行してもらった。
都のチェイダブは標高の高い山に囲まれていた。天気は良いが、所々雲らしきものがある。天候の変わりやすさという奴だろう。こういった山を越えるにはロープウェイか飛行機が私達の世界の主流となっているが、ここだと歩きしかないだろう。或いは動物の力を借りるしかないだろう。都の境界付近にあったドラゴンライダーとやらの事務所を見て思う。
「ドラゴンとおっしゃってましたけど、これ宙から落ちたレコードの翼竜とか陸竜とかですわよね?」
「だねー」
木の囲いにドラゴン達がいた。その姿はどこかの惑星から来たレコードの記録にあった恐竜そのものだ。陸の上を走るもの。空を飛べる翼を持つもの。実に似ている。
「宙。レコード。えーっとそれは」
そうだった。グロリーアは何も知らないのだった。
「エルフェンというかまあ、私達の世界のお話っすね。知識の世界が広くなったきっかけ。想像の世界の幅が大きくなったきっかけ。そう言われたものは宙から落ちてきたんす。その名の通り、宙の落とし箱と言って、エルフェン達が知らない知識がふんだんに詰まった記録の塊だったんす。もしあれがなかったら、エルフェン達の世界は狭いまま。そう提言する文学の研究者がいるほど、かなりの代物なんすよねー」
ソーニャが答えたことはほとんどの住人が知っている事柄だ。恐竜というどこかの惑星にいた生き物が子供に人気があったため、これが最も有名なのだ。一応他の知識や文化等も記されているが、知っているのは一部の知識人ぐらいだろう。
「どこから落ちてきたんだい? 誰かの研究成果だったりは」
グロリーアから難しい質問。ソーニャはどう答えるのだろうか。技術者とはいえ、そこまで宙の落とし箱について詳しくなかったはずだ。
「少なくとも、僕達の星ではないってのは確かっすよ」
それは初耳である。
「二人とも耳がピクピクしてるっすね」
ソーニャが楽しそうだ。カエウダーラも気になっていたからか、私みたいに耳がピクピク動いていた。
「知り合いから聞いたっす。落ちてきた時は百十年ぐらい前っすかね。頑丈な箱にレコード。それをどうにか再生した時、見たことのない世界がそこにあった。そういう話らしいっすね」
覇権争いをした大戦争の前だった。小説に見たことのないものがつぎ込まれた始まりの年だった気がするが、そういうことだったのかと自分で納得する。
「まあエルフェンが築いた文化じゃないのもあったって話らしいし、そういうことだよね」
「そうですわね。運動競技なんてものありませんでしたし。いえ。土台はあるにはありましたけど」
昔のエルフェンにとって運動競技とは狩りと騎馬と泳ぎだけだった。その種類が増えたのは大きい戦争の後である。国土が荒れ、生活の光になるものとして、使ったことが分かる。今現在は汚職とかで大問題になっているが。
「へえ競技系か。何があるんだい?」
グロリーアが興味津々に聞いてきた。色々あり過ぎてどれを答えとして選択すればいいのだろうか。逆に迷う。
「チームを組んで競うものが人気ですわね。球を扱うものなんて特に。この作品を読んだから。見たから。やりました。なんていう方がいましたわね」
……迷っていたら、カエウダーラに先を越されてしまった。
「へー。色んなきっかけがあるもんだな。僕は経験しなかったけど、魔術師専用の物があるんだよね」
おっと。魔術師専用があるみたいだ。興味がある。
「氷像の踊り。氷と火の魔法を用いながら踊っていくものだ。踊りと魔法の技術を見て、得点として与えるって感じさ。そして完成したものを客人に見せて、人気投票して、順位を決めていく流れだね」
聞いている限り、やたらと難易度が高いと思うのは気のせいだろうか。
「競技ではあるけど、一種の練習方法だからね。国レベルで競い合うなんてことはしないよ。他国同士となると……そうだね。ドラゴンライダーはかなり人気だろう」
ドラゴンライダーに関する事。翼を持たない四つ足もいることから、すぐに分かる。カエウダーラが先に言う。
「競馬のドラゴン版ですわね」
「正解だ」
ルールとかもグロリーアから聞いたが、大して変わらないなと感じた。世界が異なろうと共通点は色々とあるみたいだ。少なくとも素人目線からだが。
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