第30話 同時討伐。カエウダーラ編。
カエウダーラは海の方で。そう言われて、私はグロリーアと共に島国に行った。場所はアルムス王国があり大陸の東側らしい。やや南側でもあるからか、亜熱帯の気候だ。南国と言った感じのところだが、黒い雲と雨でじめじめしている。それに風が強い。優雅にのんびりと。これが南国であろうが。いや。文句を言っても仕方ない。ため息を吐く。
「それじゃ。行ってきますわ」
それでも仕事でここに来たのだ。天気どうこうで言う自分ではない。必要な仕事道具を持ち、砂浜へ行く。光に当たったらどれだけ綺麗に白く映えるのだろうか。海だって本当は綺麗なはずなのに。思いを封じ込めながら、海の上を渡り歩いていく。荒々しい天候で穏やかなんてものではない。船の運航が中止になるレベルだろう。
「ごきげんよう」
原因は私の目の前にいた。見た目は蛇そのもの。魚の特徴のヒレを少し受け継いでいる形だ。大きさは六階建てのものと同じぐらいだろう。赤い目が怪しく光った。自分を中心に渦が出来上がる。徐々に海の中に入っていく。沈ませて溺死させる気なのだろうが、生憎そういったものは効かない。自由自在に動けるのがアプカル族の強みだからだ。
「切り刻んで差し上げましょう」
腰に付けてあった鞘から細い剣を抜く。両手で構える。まずは半分。海の中の身体の一部をばっさりと斬っていく。その後、浮上して様子を見ようとしたが、竜巻が発生していた。三つ出来ていたが、一つに纏めて強力なものとなっている。奴は賢い。私自身が浮上してくることを読み、動いていたことが分かる。尻尾の先まで見えている辺り、同時に肉体の再生も行っていた。厄介だ。
「キシャーッ」
奴は奇声をあげ、竜巻を操作し始めた。この強い竜巻は反則ものだろう。モロに喰らったら、大怪我を喰らうどころか、死ぬ可能性が高い。ただしこれは無防備な状態ならという話だ。厳しい自然環境でも活動出来るように考えられたものなので、ある程度は耐えられる。本来は身を守る行動をすべきなのだろう。だが敢えてやらない。
「これが……」
中に閉じ込められ、上昇気流で海から離れていく。宙に浮くという経験はとても貴重だ。飛ぶという行為が出来るのは神獣族のみ。彼女はこういう感覚でやっているのだろうか。
ようやく相方の感覚が共有出来たかもと思い、口元が緩んでしまう。
おっと。油断してはいけない状況だったと引き締める。竜巻は長く続かない。もうじき切れるだろうはずだと思い、丸い爆弾をいくつか腰のポーチから取り出す。竜巻が消えた。数秒もすれば海上だ。今のうちに上から爆弾を投げる。奴の動きが一時的に止まる。一体目討伐時にも感じたことだが、どれだけ古代の獣だと言われていても、根本的には獣でしかない。弱点は明確に残っている。
剣が光る。海で舞う。アプカル族が使う剣舞は儀式だったらしい。今現在は戦うために用いられることが多いため、無駄が多い技は極力控えるように師匠から言われている。ただ今回はやたらと大きいので、無駄な技も取り入れないとキツイ。すぐに再生してしまうためだ。足を動かし、剣を振るう。回りながら切り裂く。下から上。上から下。剣を動かし、足も少しずつ動かしていく。音楽なんてものがない。仕事なので無我夢中でやるしかない。
「はあっはあっ」
……どれだけの時間が経過したのだろうか。息切れがし始めた。久しぶりの一人での戦闘。これがどれだけ辛い事か、改めて感じる。体力的な問題か。違う。精神の問題だ。何度も戦場に赴いてきたが、まだまだ私はウォルには届かない。普段は自分自身に翻弄されているのに、戦いとなると心の強さが発揮するのが彼女だ。だからこそ、普段から共にしているわけだが。
「見つけた!」
それでも一人の時だってある。確かにまだ敵わない部分もある。しかし少しずつ、私でも強くなっていっている。どれだけ疲れていても、チャンスを見逃さない。肉片が飛び散っている中、視界の隅にあった黒いものを左手で掴み取る。硬い感触。石だ。読めない白い文字が刻まれている。左手に力を入れる。ヒビが入る小さい音。小さいものから大きいものへと変わっていく。砕け散るまで時間はかからなかった。
「ほんと……よく分からないものですわね」
黒い石が粉々になり、海に浮いていた肉片や臓器が消え始めた。生き物というものは死んでも肉体は残る。召喚されたものはみんな消えていくのがこの世界のルールらしい。私達の知らない世界に踏み込み過ぎるのもよくないかと思い、空を見上げる。
「きれー……ですわね」
奴が消失したことで、周りが穏やかなものに変わっていた。青い空。暖かい日差し。それに当てられて、反射して眩しく見える鮮やかな海。これこそ私の知る南国の海の姿。グロリーアに報告をして、ウォルとソーニャと一緒に堪能したい。
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