第5章 滅びの獣の同時討伐 二体目・三体目
第27話 技術者ソーニャと再会
アルムス王国のテレッサ村に戻ってきた。連絡が来るまで待機状態なので、私達は久しぶりに冒険者ギルドに向かう。朝とはいえ、前よりも騒がしくなっている。
「何だよ。あの嬢ちゃん」
「持ってるもんが全部知らねえのばっかだ」
入り口付近にいる男達の喋りがかなり謎だ。大事件が起きたわけではない。他国から来たとは思えない反応っぷりである。
「ねえ。何があったわけ」
そう問いかけたら、鎖鎧を纏う男三人組が互いに顔を見合わせた。
「ヒレ耳と獣耳のコンビ。間違いねえ。シルバーランクのウォルファとカエウダーラだ」
「ああ。何言ってるかさっぱりだけど、あの二人を呼んでたのは間違いねえよな」
「でも本当に用があるか?」
「知らねえ」
聞こえないようにひそひそ話をしているつもりだろう。残念ながら丸聞こえだ。
「ちょっと、聞こえてるんだけど」
何故そこで怯えるのだろうか。
「いや。あの。えっと。失礼しました!」
逃げやがった。何だったのだ。
「とりあえず中に入りましょ?」
「それもそうだね」
カエウダーラの言う通りだと思い、ギルドの中に入る。いつも通り依頼の掲示板に人だかりだ。近づいてくる軽い足音で前を見る。前髪を分けた緑色のショートヘア。白い肌。黒い瞳。子供みたいに小さい身体。エルフの子供に見えてもおかしくないだろう。しかし青色のつなぎ服と溢れんばかりのパンパンのリュックサックで知り合いだと理解した。
「ソーニャ!?」
ソーニャ・ウルスティ。大企業の技術者としてキャリアを積んだ後、独立をした私達の仕事道具をメンテナンスしてくれる頼もしい女性だ。本来はこの世界にいないはず……なのだが、何故ここにいる。
「よ。よかっだあああ。いたー!」
ソーニャにとって心細かったのか、目から大量の涙。可愛らしい足取りで私に抱き着いてくる。周りの皆は生暖かい目で見守っている。この場で詳しいことは聞けそうにない。
「とりあえずグロリーアの所で聞きましょう?」
カエウダーラの提案通りに、私達はグロリーアの家に戻った。ダイニングでソーニャのことを話した途端、グロリーアは頭を抱えた。
「どうしてそうなるんだよー……」
現在の精神状態が逆転されたように思える。グロリーアは悪い方向に行き、ソーニャは良い状態になった。何故こうなった。
「やはりあなたがやったわけではありませんのね」
最初から分かっていたように、カエウダーラが発言した。私も薄々勘付いていたことだ。ソーニャに関しては、グロリーアが召喚したわけではない。神々とやらが強制的にこちらの世界に移動させただろう。
「そりゃそうだよ。上からそこまでやれって指示なかったから」
憶測が当たっていた。グロリーアの苦労人振りを見て、胃薬をあげたくなる。だがこれはほんの一瞬だ。すぐ冷静な表情を見せていた。
「ただ……技術者を呼んだ理由は分かるよ」
意味が分からず、私とカエウダーラは顔を見合わせる。
「神獣族とアプカル族の能力だけではすぐに倒せなかった。君たちの世界の技術も大きい。だからこそ、技術者をここに呼んだと思う。僕達だと再現出来ないものがあまりにも多すぎるし」
「ちょっといいっすかね」
おっと。のんびりと茶を飲んでいたソーニャが挙手した。
「それは技術力の問題っすか。材料が足りないからっすか」
鋭いところを突いてきた。グロリーアはどう答えるのか。
「どっちもだ。技術面に関してはかなり深刻だな。考え方が違い過ぎるし、同じような言葉でも意味が異なっているという部分が大きい」
ソーニャが眉で反応する。
「ほお? ちょっと確認してもいいっすかね」
分野と考え方が異なっているとはいえ、互いに追い求めるという職業病を持つ。私達の出る幕ではない。静かに聞こう。下手に刺激したら、悪化しかねない。
「術師以外にも何かありますの?」
カエウダーラよ。何故突っ込んだ。
「そうだね。魔法もそうだけど」
結局夕方になるまで、ソーニャとグロリーアは互いに意見を交わし合っていた。単語があまりにも難しすぎて、頭がパンクしそうになった。何故グロリーアは平然とした顔で付いて行けているのだろう。
「いやー。始めてとは思えないほどの理解力、感服したっす!」
「それはこっちの台詞だよ。魔法学を知らない君がここまで付いていけてるとはね」
アスリートのように爽やかに握手を交わしていた。一方で私はぐったりとしていた。これは酷い。
「おー見事にダウンしちゃってるっすね」
「そりゃ知らないのばっかだもん」
とはいえ、これほど頼もしい仲間はいない。
「暫くよろしく頼むね」
「おうっす」
機械工学の技術者ソーニャが仲間に入った。戦うわけではないが、私達の仕事道具を定期的に見てくれるし、強化もしてくれる。次の獣を狩る時まできちんと準備しておきたいところだ。
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