第19話 魔法の授業の見学
遠距離の魔法が飛んでくるからか、中々距離が縮められない。銃がない。近接戦の武器のみ。魔法を連続で使用できる辺り、校長先生は相当な腕を持つ。互いに全力ではないとはいえ、どうやって近づこうか。
「ウォーターアロー!」
水の矢が数本飛ぶ。カエウダーラが前に出る。肉壁だが、これが最適解だったりする。アプカル族は水に関する攻撃が効かないためだ。
「これぐらい痛くもありませんわ」
本当にへっちゃらなのだ。
「あらあら。空からやっちゃうわね」
校長先生がうふふと笑いながら、とんでもないことを発言した。上空に魔法陣五つ。
「シャイニングアロー」
空から光の矢が降り注ぐ。急所に当たらないように腕やナイフなどの武器を使って、身を守っていく。我が相棒は槍を振り回すことで落としまくったらしい。えげつない力量である。
「普通の魔法では通用しないのなら」
校長先生が不敵に笑う。重圧。何かが起きることを示唆している。間違いなく、今までの中で強力なものが来る。
「カンカンカーン」
警戒をしていたら、唐突な鐘の音が鳴り響いた。さっきまであった重圧感が失っている。
「もうホームルームか。残念」
強制的に模擬戦終了だ。本当に校長先生は残念そうに言った。数人の先生がホッとしている辺り、相当ヤバいものを使うつもりだったみたいだ。
「楽しかったわ。またやり合いたいものね。お互い本気じゃなかったし」
「ええ。そうですわね」
校長先生とカエウダーラ、熱い握手を交わす。ガチでやり合うとなると、広くて誰もいないところじゃないとダメ臭いだろう。
「あの……時間は大丈夫でしょうか」
「まだ大丈夫ですよ」
花のカチューシャを付けている小柄な黒髪の女性の先生が話しかけてきた。端末を見てみたが、まだ余裕がある。
「良かったら少し授業見学しませんか?」
というわけで私達は少し授業をお邪魔する事になった。提案してくれた先生の担当は初等部一年のとあるクラス。黒板がない後ろの片隅で見学である。少人数なのか、一人の先生に対して生徒は十三人である。座って受ける形なのは私達の世界と変わらないみたいだ。
「わーさっき校長先生と戦ってたお姉ちゃんたちだ」
「はいこら! 授業に集中!」
エルフェンの学校では授業参観というものがあるらしい。父や母が後ろにいるせいで、普段よりも集中しづらい。狩人仲間のエルフェン族のナナが喋っていたことを思い出す。確かに私達がいるせいで、集中しづらいだろう。
「今日は一年の復習の一回目です。皆さんは確かに進級出来ましたが、二年に上がったら更に難しくなります。ですので今のうちに苦手だったところを見直していきましょう!」
ブーイングの嵐。つまらないのは嫌という気持ちは分からなくもない。しかし地道にこなしていかないと、苦労するのも事実だ。それを理解した時にはだいぶ遅かったが。
「まず魔法魔術とは」
読めない。前にある黒板に文字が書いてあるみたいだが、まだ完全に覚えきれていないのが辛い。
「呪文。魔法陣。儀式。媒介。魔力。これらを用いて、発動させる現象のことです。元は神々が与えた技術をエルフが再現したものだと言われています」
花のカチューシャの先生、地味にエルフの絵が上手い。
「魔法魔術には」
炎の絵。風の絵。水の絵。岩の絵。線と線を結んだら四角形だ。その真ん中には無属性と書かれている。
「火。風。土。水。無。これらで分類されております。今現在ある魔法魔術で最も多い属性魔法はどれでしょうか」
ここで学生に問題を出してきた。一斉に手が上がる。
「はい。マーク」
エルフの金髪の少年が立ち上がる。
「無属性です」
「正解。何故か言えますか」
更に追求してきた。理由を答えることは中々難しいものだ。証明せよとか理由を述べよという問題が大の苦手だった私にとって、もう二度とやりたくない類である。
「はい。四属性に当てはまらないもの全てを無属性に入れているからです。確か来年には更に分類化されると聞きました」
すらすらと答えている。恐ろしい子だ。いや。私が不勉強なだけ……だと思いたい。
「はい。正解です。他の子に聞きましょうか」
無属性から線を引く。本当に積極的な子が多い。魔法魔術を本格的に学びたいという思いがそうさせているのだろうか。
「皆さん。落ち着いて」
とはいえ、まだ問題を出していない中で手を挙げてしまっている。先生が慣れた様子で落ち着かせようとしている辺り、いつものことなのだろう。年齢さえ重なったら、改善されることを知っているというのもあり得るかもしれない。
「無属性の中から新たな分類が生まれます。いくつ生まれてくるでしょうか。そしてどのような属性でしょうか。エヴァン」
「はい。三つです。属性は光と闇と天空で……す?」
あやふやだったが、どうにか答えられたエヴァンである。果たしてこれは正解なのだろうか。
「正解です。光と闇と天空。新しい属性として当てはまる初歩的な魔法は」
次々と魔法の名前が黒板に書かれる。知らない名前ばかりだ。授業を受けている学生達は真面目に教科書とノートを見比べている。
「そろそろですわね」
学校からガンスミスのところまで歩いて数分以上かかる。ここで出るしかない。
「先生、私達これで失礼します。このような貴重な機会、ありがとうございました」
礼を言って、お辞儀をする。
「お姉ちゃんまたねー!」
「ばいばーい」
学生達は本当に元気がいいと思いながら、私達は教室から出る。廊下にはアンナがいた。
「あれ。授業中なんじゃ」
「はい。許可を貰いましたのでご心配なく。校門まで案内します」
校舎は複雑ではないが、広いのだ。初めてなら迷う。こういう時の案内人は心強かった。実際、時間かからずに校門まで辿り着けた。
「お。もう行っちまうのか」
校門にいる警備員が笑いながら言った。
「はい。こちらも用事がありますので」
「そうか。グロリーア君によろしく伝えておいてね」
「分かりました」
ありのままを伝えたら、多分何かしら言いそうだ。省くしかないだろう。そう思いながらアンナに向く。
「アンナ、色々ありがとね」
「いえ。こちらこそありがとうございました!」
簡単にやり取りをした後、魔法学校から離れていく。ガンスミスと対面する頃合いだ。どういう人なのか。腕前はどのような感じか。不安と期待を膨らませながら、歩いて行く私達だった
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