第6話 46%の人間は『ウソ』を見抜けない
受け止めた体はさわったら壊れるんじゃないかってくらい細かった。
こんなに
それに加えて、体力の限界と、極度の緊張もあるのか、彼女の顔色は相当悪い。
ひとまず町に逃げ込んだ方がいいな。さてどうやって行くか――。
「もう大丈夫……助けてくれてありがとう」
「ああもう、少し落ち着けって、一人でウロチョロすんのは危険だって」
この目で確認できたのは二人だけだ。まだそれ以上に潜んでいる可能性はある。
「とりあえず町まで連れて行いくよ」
「え? そんな……迷惑をかけるわけには……」
「気にしなくていい。俺なら土地勘あるし、見つからないように町にいける」
「でも……ただ私は――」
くちびるをぎゅっと結んで、また目を合わせてくれなくなる。
そんな彼女の様子に、ふと俺は武術の先生ルゥクル師匠の言葉を思い出していた。
――おなごというものはのうエル? 男に親切にされると何か返さなければならないと、考えて、ひいては色事を迫っていると勘繰ってしまうんじゃよ。
そんなのいわれのない嫌疑ってやつじゃねぇか。
ほんと【守護契約士】が身に覚えのない罪で逮捕、勾留されたなんて新聞に載ったらシャレにもならない。
じゃあそれなら――。
「なら契約しよう? それならいいだろ?」
「契約? それってどういう――」
「護衛をする代わりに事情は一切聞かない、それなら取引だから後ろめたくないねぇだろ?」
「うーん? うん? うん? うん……う~ん、それなら――」
喉の奥をうならせ彼女は、どこか落ち着かない様子で後れ毛をかきあげる。
「でも私は【蒼血人】で、あなたは【紅血人】で……」
「それが? なんか関係あんの?」
なにか言いたそうな目で口をパクパクしていたけど、結局言葉にしてこなかった。
ほんと何だったんだ? まぁいいや――。
「白状するとさ、実は俺、この前すげぇミスをやらかしてどうしても手柄を上げたいんだ」
カサンドラさんのことはもちろん、昨日逃げてしまった件もある。
いまさら信用なんて取り返せるとは思っていないけど、何かしないと気が済まない。
「だから、利用するようで悪いけど、もし嫌じゃなかったら協力してくれると嬉しい」
契約のしるしとして彼女の前に小指をかざした。
「おかしな人……そういうの、フツー言わないものだよ?」
ふふっと小さく笑う仕草に、心臓がドキッとする。
「それにあなたみたいなウソつき、はじめ見てた」
澄んだ目で彼女は俺の目をじっとのぞき込んでくる。
「ウソ!? 別についてないって!」
それは完全にミスジャッジだ。いや、でも、まぁこんなキレイな子を放っておけなかったっていうのは確かにあるけど、それをウソっていうのはなんか違うだろ?
「さっきまでは、ね?」
「え? どういうこと?」
「ごめん、忘れて――それじゃあ」
「ああ、『契約』成立だ」
ヒマワリの下で、俺たちは指を切り互いに契約の厳守を誓う。結び返してくる彼女の指の柔らかい感触。なんだか照れる。だけどこれも古くからの習わし。
「まだ名乗ってなかったな……俺の名前は《アンシェル=アンウィーブ》。みんなからはエルって呼ばれている。君は?」
「え? あ、うん。私の名前は《アセナ=ロー》……そう、《アセナ=ローレライ》だよ。よろしくエルくん」
その後、人気のない海岸沿いを抜け、追っ手をまいて港へとたどり着いた。
市街地を抜ければ協会まではあと一息ってところ。
「この港を抜ければ市街地に出るから、そしたら一度協会に――って、あ、アセナ!?」
「ごめん、だ、大丈夫……ちょっとつまずいただけ」
激しく手かひざをつく音で振り返ると、石階段でアセナが手を付いていた。
つまずいた? いや、どう見てもフラフラ、よろめいて踏み外したんだ。しゃーない。
「あれ? 変だね……ごめん、少し休めば――」
「よっ……と」
「うわっ! ちょっ、ちょっと! 何を!?」
どうみてもこれ以上歩かせるのは無理。ふらつく彼女を俺はすっと抱き上げた。
「街の中に入ったっていっても、協会まで大分距離があるし、この方がいいだろ?」
もし依頼者に何かあったら、それはこっちの責任だ。
「でも、この格好……」
「ん? 変か? 俺の武術の師匠が女の子はこうやって運べって」
人を横向きに抱え上げただけなんだけど、どういうわけかに目をそむけられる。
足で上げれば腰や背中を傷めないし、相手にも負担にならないし、運びやすいんだけど?
「……みんな見ている」
「そぉ? みんな割と忙しそうにしているけど?」
船乗りも漁師の人も積み込みや水揚げでせわしない、誰一人俺らを気にも留めていない。
「……重くない?」
「んいや、想像していたよりずっと軽い」
「……あなたって、良くも悪くも正直者なんだね」
急にアセナがぶすっと頬を膨らませた。なんで怒ってんの?
「? そ、そうかな? まぁいいや、走るからしっかりつかまってて」
何が不機嫌にさせたのかよく分からなかったけど、とにかく協会へと向かった。
協会へとたどり着くまで終始いぶかしげなアセナだったけど、ベッドに寝かしつけると、彼女はすぐさま眠りにつく。
よほど疲れていたんだな。静かな寝息を立てている。
起こさないようにそっと休憩室から出たそんな俺を、目を細めたシャルが待っていた。
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