第七六編 三〇パーセント
当たり前のように俺の部屋で本を読んでいらっしゃったその女に、ようやく意識が覚醒した俺は問い掛ける。
「……なんで
「貴方に少し用事があったから」
「つーかどうやってウチに入ったんスか? 今日ウチの親、どっちも居ないはずなんスけど」
「そうね。
「いや、だからどうやって入ったんだよ。玄関に鍵、掛かってなかったのか?」
「掛かっていたわよ。ただ、わざわざ時間を
「犯罪じゃねえかッ!!」
要するにコイツら、ウチの玄関を
「大丈夫よ。鍵を壊したわけではないし、立ち
「怖すぎるわ!? お前、もし俺が今から警察に飛び込んだらマジで逮捕されるぞ!?」
「何を言っているの? いち高校生の証言ごときで
「こ、この女、親の権力に物を言わせて俺の証言を揉み消すつもりか……!」
「むしろこの状況――私が『
「さらにあろうことか、自分の罪を俺に
「冗談よ。私に
「一見寛大であるように見せかけて、『もし楯突いてきたら害をなすぞ』と
なんて邪悪な女なんだ。昨日は聖女と
ぐむむと歯噛みしていた俺は、安物の学習椅子に腰掛けている七海がじっとこちらを見つめていることに気付いた。
「――……本当に、風邪を引いたようね」
「えっ? あ、ああ、まあ……」
布団の上、
「だから昨日、『早くシャワーを浴びなさい』と何度も言ってあげたでしょう。私の言うことをきちんと聞かないからそうなるのよ。完全に自業自得ね」
「うるさいよ。想像通りのこと言ってんじゃねえ」
「おまけに今朝、本郷に連絡を取らせたのに一切応答しないのだから、無礼なものだわ」
「今朝? ああ、いや、それはちょっと携帯
「そんなもの、もう随分前に本郷が調べ上げているわよ」
「なんでだよ。なんで俺の個人情報をあの人が調べ上げてるんだよ」
「ちなみに彼女曰く、今日の貴方の夕食は『お母様特製の玉子粥』だそうよ」
「どういうこと? どうやったらそんなことまで分かるんだよ。なんなの、あの人?」
たしかにウチの母親は家族が体調を崩したときによく玉子粥を作るのだが、そんなもん調べようと思って調べられるものでもないだろ。コイツら、主従揃って怖すぎる。
「それにしても携帯電話を失くすだなんて……あんな個人情報の塊、誰かに拾われて悪用されでもしたらどうするつもりかしら。もう少ししっかりと管理しなさい」
「いや、携帯を悪用されなくても既に俺の個人情報ダダ漏れなんですけど。主に
「数字認証や生体認証も万全ではないのよ。セキュリティ技術は急速に進歩しているけれど、結局のところ物理的に他人の手が届かないようにするのが一番だわ」
「物理の壁も玄関の鍵も突破してくるヤツに言われたくないんですけど」
お説教をかましてくるお嬢様に半眼を返す。いったいなんだというんだ。こんなことを言うために不法侵入までしてここに来たのか?
相変わらずなにを考えているのかよく分からない女だ、と俺が思っていると――ぽすんっ、と布団の手元に四角い物体が投げられた。
「え……えっ? あれ? これって……」
それは見覚えのあるスマホケースに入った電子機器。というか、俺が絶賛紛失中だと思っていた携帯電話そのものだった。驚きながらも電源を入れ、自分の携帯に間違いないことを確かめる。
「な、なんで
もしかして昨日の夜、本郷さんが回収してくれていた……わけないよな。そんな時間などなかったし、第一俺の携帯が河原に転がっていることなんて分かるはずがない。俺自身さえ失念していたくらいなのだから。
「――別に、
「すげえなお前!?」
「失くした場所さえ推定出来れば、あとは探し出すだけ。貴方の携帯は電源が切れているようだったから少し手間取るかと思ったけれど、本郷が三〇秒で見つけてくれたわ」
「ほんとなんなの、あの人?」
そして言われてみれば確かに昨日の夜、俺は自分の携帯を充電切れまで酷使したはずなのに、今手元に返ってきたばかりの相棒のバッテリー残量は三〇パーセントくらいまで回復している。おそらくは彼女たちがここに来るまでの間に充電してくれたのだろう。
「(でも……じゃあ
日頃の彼女からはとても考えられない行動だが……その疑問を本人に直接ぶつけることは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます