第二一編 無意味な恋
「
「誰がスズキくんだ。いい加減名前くらい覚えろよ」
「
「違う」
「
「違う」
「
「違う。なんで二輪メーカー名みたいなのばっかりなんだよ」
そんな
「いきなり紙飛行機は飛ばすわ、人の名前は覚えないわ、つくづく失礼なヤツだな……ってああっ!? やっぱりこの紙、
「言っていたわね。私が貴方の言葉に従う義理はないけれど」
「こ、この野郎……!」
〝
「前にも言ったけれど、これは貴方とはまったく関係のない話でしょう。どうしてそこまでムキになるのよ」
「だから! 俺は勇気を出して告白しようとした連中に少しでも報われてほしくて――!」
「そうじゃないわ。
「た、たかが、って……」
相変わらず恋愛を軽視した発言だが、俺が噛みつくよりも早く七海は続けた。
「単純な『親切心』や『正義感』で片付けるには、貴方の行動は少しばかり過剰に映る。
立ち入り禁止の屋上で、美しい少女が顔を上げる。
「人間、興味や関心のない物事には熱が
「…………。……ああ、そうだよ」
「俺には、ガキの頃から好きだった幼馴染みがいたんだ。でも俺はその子に想いを伝える勇気がなくて、告白を先延ばしにし続けて……気が付いたら、その子は他の男に惚れてた。俺は――自分の気持ちを形にすることも出来ないまま失恋したんだ」
「…………」
「もちろん、告白さえしていればあの子と付き合えてただなんて思ってるわけじゃないよ。たとえちゃんと告白してたって、俺が失恋するっていう結果は変わらなかったと思う。でも、こんな無意味な恋のまま終わっちまうこともなかったと思うんだ」
桃華への想いに諦めがついたかもしれないし、失恋をバネに次の恋を見つけていたかもしれない。ましてや「好きな女の子と他の男をくっつける」なんて馬鹿な真似、思い付きもしなかっただろう。
しかし、これはマトモな失恋をしていれば、の話だ。勇気を出して告白したって、相手に気持ちが伝わらなければ意味がない。ラブレターを読まずに捨てられては、意味がないんだ。
「俺は、勇気を出して想いを伝えようとした連中には俺みたいな失恋をしてほしくない――お前にラブレターを読んでほしい理由なんて、言っちまえばそれだけなんだよ」
「…………」
言いたいことを言い終えた俺に、七海はなにも言わない。「興味や関心のない物事には熱が入らない」と彼女は言った。俺の切なる願いも、彼女にとってはどうでもいいことなのかもしれな――
「
「!」
「サトウくん」でも「スズキくん」でもなく、お嬢様が正しく俺の名を呼ぶ。
「繰り返しになるけれど、私が貴方の言葉に従う義理はない。私は私自身の意思に
「いや、前者はともかく後者はとやかく言わせろや――って、あれ?」
そういえば
「そんなことより貴方、どうしてここに来たの? 私になにか用かしら」
「えっ? あ、ああ、そうだった」
七海に問われ、思考を中断させられた俺はようやく本題に入る。「〝
「それは無理ね。私は家の方針で、アルバイトを禁止されているから」
「えっ、そうなの?」
でもそうか、考えてみればこの女は
「そもそも、どうして私に
「俺に言われましても」
「候補がいないなら、貴方の好きな人でも誘えばいいじゃない。一緒に仕事をしていれば自然と距離も縮まるでしょう」
「お前、ホントに無神経だな。そんなこと出来るわけ――」
言いかけて、俺はハッとする。
俺の好きな人を――桃華を、〝
「そ……それだ……!」
「?」
着想を得て声を震わせる俺に、お嬢様が不思議そうな視線を向けた。
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