第116話 【新学期に向けて・4】
そうして休み明けのテストに向けて、テスト勉強を続けた俺達は長期休み最終日を迎えた。
「最後の数日は、テスト勉強に集中してたけど長いお休みだったね」
「学生が実家に帰れるようにって長い休みにしてるみたいだけど、こんなに休んだら学園に戻りたいって気持ちが薄れるよね。また一日、学園で勉強しないといけないんだって気持ちがあるもん」
最終日も変わらず皆と集まり、勉強会をしており休憩時間になってレインとリサはそう言った。
「正直、その気持ちは俺も分かる。こんなに休んだら、学園に行きたくないって思う生徒もいると思うよな……今まで、この休み明けに居なくなった人とか居たりするの?」
俺は昨年の夏開けから通い始めた為、長期休みの経験はまだ今回がはじめてだ。
しかし、俺以外のアリス達は皆既に経験してる。
「僕が知ってる人の中だと、辞めた生徒は居ないけど、遅れて来たりした人はいたかな?」
「レイン君の所は居なくなった人居ないんだ。私の所は、居なくなった人も居るよ」
「うん。居なくなった人いたね。あまり知らない人だけど」
やっぱり、こんなに長い休みだと辞める人も居るのか……折角、学園に通えるのに勿体ないな。
「まあ、でも前に聞いた話だけどこの長期休みってただの休みじゃなくて、そういう面での精神的な試練でもあるらしいよ。楽しいだけじゃない学園生活に、ちゃんと戻って来れるのか試してるらしいんだよ」
「それ私も先輩から聞いた事がある。それ聞いてから、長期休みの最後の方は学園に行けるように気持ちを作るようにしてたよ」
「そう聞くと、アリスはかなり危なかったんじゃないのか?」
「辞める事はしなかったけど、遅れて行き始めたかな……」
アリスなら辞めてたかもと思い聞くと、かなり危ない状況ではあったみたいだ。
「まあ、今は無事に学園に通ってるし良かったよ。今は、辞めるとか思わないだろ?」
「うん。アルフ君やリサちゃん、レイン君って友達も出来たし、授業にもついていけるようになったから辞めたいって気持ちは無いよ」
「アリスちゃんと話すのに数年掛かったけど、友達になれて本当に良かった。まあ、私の行動ってよりもアルフ君のおかげだけどね~」
「そうでもないと思うよ? あの時、授業で一緒になろうって声を掛けてくれなかったら、ここまでリサとも仲良くなれてないだろうしね。俺も学園の生徒との橋渡しはしようと思ってたけど、誰にするかまではエルドさんから言われてなかったし」
リサの言葉に対して俺がそう言うと、アリスも「うん。あの時、声を掛けてくれたからここまで仲良くなれた思うよ」とリサに言った。
「そっか~、それならあの時勇気出して言ったのは間違いなかったって事だね」
「僕の場合は本当にリサのおかげだよ。他にもアリスちゃんやアルフ君と仲良くなりたいって思ってた人達は居たと思うけど、リサが真っ先にアルフ君達と仲良くなってくれたおかげで僕が入れたみたいなもんだし」
「そうかな? レインは最初から俺に話しかけてくれてたから、あのまま仲良くなれてたと思うけど?」
そう俺達は出会った頃の話に盛り上がっていると、勉強会をしてる部屋の扉をノックする音が聞こえ、外からエルドさんから入って来た。
エルドさんの登場に、商会に来る事は慣れて来たがリサ達だがエルドさんにはまだ慣れてない為、二人はガッチガチに固まった。
「すまんな、勉強会の途中に来てしまって」
「いえ、今は休憩時間だったので大丈夫ですよ。それより、どうしたんですか?」
俺はエルドさんにそう聞くと、リサ達に今日は夕食まで残らないかという提案をしに来たらしい。
俺達の勉強会についてはエルドさんも知っていて、皆での思い出が勉強会だけなのはと思ったエルドさんは少しでも思い出に残る事をしようと。
今日の夕食に、ちょっとした豪勢な食事会をしようと考えたらしい。
「リサ、レイン。そうエルドさんが言ってるんだけど、時間は大丈夫かな? 食事会には時間があるなら、リサ達も両親も参加してもらっても大丈夫みたいだから」
エルドさんが居るが、未だ固まってる二人に俺がそう聞くと、二人は「大丈夫」と言った。
それからエルドさんは、二人の実家の方には招待状を送っておくと言って部屋から出て行った。
「はぁ~……緊張した! まさか、エルドさんが来るなんて思わなかったよ」
「私達、食事会に誘われたけどこの格好で大丈夫かな……」
「勉強をするだけと思って、普段着で来ちゃったよ……」
二人はエルドさんが居なくなった後、緊張が解けてそう心配そうに言った。
「二人共大丈夫だよ。エルドさんも言ってたけど、ちょっとした豪勢な食事をするだけで、パーティーとかでは無いから、それに俺達の思い出作りが目当てだから他の人は参加させないらしいから、そこまで思いつめなくて大丈夫だよ」
食事会の参加者は、俺達学生組とリサとレインの両親、そしてクラリスとルクリア家の人達だけだ。
だから、そこまで緊張しなくても大丈夫だと言ったが、二人からしたらルクリア家が参加する時点で緊張すると言った。
「ごめんね。この食事会、本当は私が提案したの……」
「えっ、アリスちゃんが!?」
「そ、そうだったの!?」
二人があまりにも緊張していた為か、エルドさんが考えたと言っていた食事会は実はアリスが提案した事だと発覚した。
自分の提案に慌ててる二人を見て、申し訳なく思ったのかアリスは「難しそうなら、今からお爺ちゃん止めて来るよ」と言うと。
二人は「大丈夫だよ!」と先程まで慌てふためいていたが、落ち着いた様子でそう言った。
「ちょっと動揺しちゃっただけだよ」
「うん。ちょっとだけね。ごめんね心配かけちゃって」
二人がそう言うと、アリスは「本当に大丈夫?」と聞くと。
二人は首を縦に振ってアリスに「本当に大丈夫だよ」と強がりながら、そう二人はアリスに言った。
それから数時間後、食事会が始まる少し前にリサの両親とレインの両親が緊張した様子で、ルクリア商会に訪れた。
「れ、レイン。何があったんだ? 突然、家に招待状が来て父さん達本当に驚いたんだぞ?」
「リサ、何があったんだい? ルクリア商会にいつか行きたいとは言ってたけど、こんな急に招待されるなんてお父さんを驚かせたかったのかい? だったら、本当に成功だよ!?」
レインのお父さんと、リサのお父さんはそれぞれ自分達の子供であるレイン達と会うとそう必死な顔をしてそう言った。
物凄く緊張している様子のリサ達のお父さん達とは違い、母親組は緊張こそしているが多少は落ち着いていた。
そうして食事会を行う部屋にレイン達の両親を案内すると、既にルクリア家が集まっており、その顔触れにリサ達の両親は更に緊張していた。
「突然の食事会に応じてくれて、感謝しておる」
「初めまして、リオス・フィネットと申します。私共の方こそ食事会に招待して頂き、感謝しております」
「は、初めまして私はライアン・ネルソンです。招待して頂き、本当に感謝しております」
リサのお父さんは、多少こういう場に慣れてるのかエルドさんの言葉に緊張こそしているが返事を返した。
しかし、こういう場になれていないレインの父親は、リサの父親の後に続けて言うので精一杯だった。
母親組はと言うと、エルドさんの言葉に対しお辞儀を返し、既に冷静さを保っていた。
それから今夜の食事会は立食形式の為、食事会開始の合図をエルドさんが言うとそれぞれ食事を始めた。
「レイン達の両親、凄く緊張してたね」
「そりゃそうだよ。お父さん、ルクリア家に認められるのが夢だし」
「僕の両親は認められるとかは無いけど、昔からルクリア家の凄さは知ってるからそれであそこまで緊張してるんだと思う」
学生組で集まって食べながら、レイン達の両親について話をしていると、レイン達の母親達が近くに寄って来た。
「貴方がアルフ君かしら?」
「はい。初めまして、アルフレッドと申します」
「初めまして、私はレインの母のレイナ・ネルソンというわ」
「私はリサの母親のマーサ・フィネットよ。初めまして、アルフ君」
そうレイン達の母親と挨拶を交わすと、俺の後ろに隠れていたアリスもヒョコッと顔を出して二人と挨拶を交わした。
それから、レイン達の母親達と少しだけ話す事になった。
「アルフ君には物凄く感謝してるわ。リサは昔から薬学には情熱を注いでる子だったんだけど、それ以外は興味が殆どなくて成績もいい方だとは言えなかったわ」
「ちょ、ちょっとお母さん!? 何でそれを今ここで言うのよ!」
「お礼を言いたいからよ。成績が落ちてたリサを救ってくれたアルフ君に感謝するのは親として当然でしょ?」
慌てるリサに対し、冷静にマーサさんはそう言うと、レインの母のレイナさんも「私も感謝してるわ」と言った。
「レインはお父さんに憧れてて、冒険者になるんだって昔から言っててどうにか学園だけは卒業して欲しくて無理矢理行かせたわ。でも、成績も特に言い訳でも無く剣術以外は真剣に取り組んでくれなかったけど、アルフ君と出会ってから変わって、色んな事を頑張り始めて母親として本当にうれしかったわ……アルフ君、あの子と友達になってくれて本当にありがとう」
レイナさんはそう俺に言うと、マーサさんも同じように俺に「ありがとう」と言うと二人して頭を下げた。
その後、エルドさんと緊張した様子で喋っていた父親組がこっちに寄ってくると、母親達と同じように俺に感謝の言葉を伝えて来た。
今日はそういう場ではないのにと思いつつも、無理に突き返すのは失礼だと思い受け取る事にした。
それからレイン達の両親と顔合わせをすると、ルクリア家の人達もこちらに集まって来て一緒に食事をする事にした。
レイン達の両親は緊張した様子ではあったが食事会を楽しんでおり、食事会は長期休みの一番の思い出となった俺達だった。
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