第35話 決着

 大振剣。


 振動の力を用いる幻磨が生み出し、修練を重ねて生み出した、対ウロボロスの最終奥義。

高周波振動で刃を震わせ、通常の刃物を遥かに越えた切断力を持つ超音波カッターとして、敵を切り裂く。

現実にも医療分野などで使われてはいるが、およそ人力では不可能と思われる技。実際に今この状況に至るまで幻磨も実現させることができなかった。

 だが、空を砕く旋風と海を再び叩き割る巨大な波。

 数秒の沈黙。

 そして破壊。

 サメ座使徒七星・『エンペラー』ウロボロスはすべてをかき消すような異音を発し、醜く爆裂して粉々に散った。

 夕方を過ぎて翳りを帯びた海は、ウロボロスの肉片と大量の血に染められ、真紅の水が広がる死一色。

 非常識が常識の現世界で、不可能がまた一つ可能になった。

 人が死を真近くに経験することで克己し、隠された力を解放するという事実の証明。幻磨はかつて越えた自身の限界を、さらに越えたのだ。


「聖者の強靭な魂の一撃が巨悪を倒す」


 いつか佐武朗が口にしたセリフを、聖者ならぬ侍の幻磨は、現実にした。


「拙者日の本一の侍、佐々木幻磨にて候! おさらば、千雪殿!」


 言い残し、幻磨の姿もまた紅き海中に沈み消えていく。

 波間に沈む体の疲労は限界を迎えているようで、呼吸の泡の一片も見せない。

 やがて、幻磨は完全に水中に没した。


「幻磨くん……ありがとう! ありがとう! あまりに強い、あまりに潔い! 君は本当に日本一、いや世界一の侍だった!」


 佐武朗は幻磨の戦いと壮烈な最期を思い、涙を流し称えた。

 佐武朗だけではない、アルコイーリスの誰もが幻磨の最期の雄姿を忘れないだろう。

 誰ともなく拍手が起こり、万来の喝采となる。

 幻磨に対する追悼の拍手か、千雪に対する感動の拍手か。

 両方、いやアルコイーリスの乗員すべてに対する勝利の拍手だ。


 バトルライブパシフィック二〇二五開始から四十四分三十七秒経過。

 予定時間オーバー、限界突破。

 人類は天敵のサメ座使途七星に一勝し、北太平洋解放を成し遂げた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る