第28話 血戦の太平洋
人類の命運を決める十五時ジャスト。
「出港準備! 」
「両舷前進微速!」
「アルコイーリス出航!」
号令一下、揺れる船体。後には戻れぬ戦いの旅路。
「目標、東日本海沖ポイントA! 海底宮殿ティール・ティリンギリ!」
船体が速やかに走り出して揺れが安定すると、船長からアルコイーリスの戦闘指揮権を委譲された佐武朗が、軽く息を吐く。
「無事出航か、だが戦いはここからだ。いくぞ先手必勝、殲滅必滅の時間だ、『インドラの矢』起動準備!」
「ファイバーレーザー安定しています! いけます!」
甲板に立った二人の侍、幻磨と武蔵は共に日光天、月影空を構える。立ち姿、まさに切り込み隊長。
「将軍が動き始めたようだ。この時、これよりは合戦! 戦の陣立ては萩に猪! 呼吸を合わせて初手の一番槍を決めるぞ武蔵!」
「おうよ、幻磨!」
飽和しそうなほどに収束するレーザーの光を背後に、幻磨は日光天を握った手を大きく震わせる。やがて日光天と共鳴するように海の波が振動し、熱を帯び始める。
「幻磨神刀流・秘奥義『焔魔地獄天供』!」
「武蔵念流影道八流・秘技『神罰・塔』!」
月影空を構えた武蔵が空に念じると空一面に雷雲が広がり、神の怒りの如く、次から次へと海へ落雷を叩きつける。稲妻の乱れ撃ちは魚を殺し、海中に潜んだサメも殺し、ひたすらに海を痛めつける。
「レーザー、限界に達します!」
「出力全開! 放て『インドラの矢』! サメで汚れた汚い海を浄化しろっ!」
数えることが不可能なほどのレーザーを束ねた収束の一撃が、佐武朗の叫びに合わせて放たれる。天を撃てば天を穿ち、地を撃てば地を焼き払う、滅びの光の一条が海へ向けて打ち出された。
瞬間の出来事でしかないが、直線に薙ぎ払うような、インドラの矢の放った先にある海面は蒸発して空の雨となり、海底に隠れていたサメはすべてを浄化するように沸騰した水に焼かれ死んだ。
焔魔地獄天供と神罰・塔の一撃、双方と同時に放たれたレーザーのダメ押しで、マグマのように赤く、煮えたぎる海。あまりに不吉で自然に敬意を払わぬ仕打ち。
人類は母なる大海に牙をむき、淘汰という名の自然の摂理に反逆する道を選んだ。
合わせ技の成功。先手の攻撃は進路上のサメに痛打を与える。
人類はついにサメの住処に襲い掛かり、殺戮を開始した。
「人間……人間ガ我ガ城ニ迫ッテイル。迎え撃テ海ノ子ラ! 選バレシサメ一族ノ戦士タチヨ。手段ヲ択バズ皆食イ尽クセ!」
日本海溝深く、ティール・ティリンギリ。
『暴食のエンペラー』ウロボロスは知った。人間の狙いが自分だと。
羽虫の如き弱い劣等種風情が愚かにもまた挑むのかと、笑う器官があれば笑ったに違いない。
人こそ知らね悠久の、海の騎士団トリトンナイツ。
一万体のバナーロードが率いる百万余の精鋭ザメの軍勢が待ち受けているとも知らず、人間は攻め入るというのか。
トリトンナイツを中心とした無数のサメの軍勢が怒涛の如く、前進を開始する。
「ネジ伏セロ! 数デ潰セ! 力ノ差ヲ見セツケロ!」
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