062 金色の攻撃
ここのボスであるゴールデンリッチも、これまでのアンデッドの魔物同様に不浄の精霊を祓わないと倒す事ができない。
向こうは遠距離攻撃なのに対し、こちらは浄化の付与魔法がされた近接武器でしか有効打が与えられないため、このボスは非常に厄介とされている。
ゴールデンリッチはローブの上に扇型の大きな首飾りを身に着けており、そこには十個の水色の宝玉が付いている。
この首飾りはボスを形成している不浄の精霊の残量を示すメーターのような役割をしており、不浄の精霊を祓う有効打を決める度に、この水色の宝玉が赤色に変化する。
そして全ての宝玉が赤色となると、ボスは体を維持する事ができなくなり崩れ去る。
俺達は昨晩練習したように、二人ずつ三組に分かれて一定の距離を保ちながらボスに挑む。
どこかの組が狙われている間に他の二組が攻撃を仕掛けるという戦法だ。
今回、俺はミステルと、トーイはハンスと、そしてラキちゃんはリンメイとのペアで組み分けをした。
一応俺とトーイとラキちゃんが、それぞれの組の盾役を担っている。
全員がボス部屋に入ると扉が閉まり、いつものように中央に魔法陣が浮かび上がる。
そして魔法陣からは、本人も装備も金ぴかのゴールデンリッチが徐々に現れだした。
……うっわ、本当に金ぴかのキラッキラだな!
「とりあえず三つの技の確認だったな」
「ですね」
「そうそう」
ボスは気まぐれに技を繰り出すのではなく、敵である俺達の立ち位置や行動によって技を選んでくるらしい。
そのため、俺達はまず情報で仕入れた行動を取り、それらの確認をする事にした。
ボスの放つ三つの技の範囲や速度、こちらがボスへ有効打を与えるタイミングなど、やはり情報だけでは分からない事が多かったからだ。
「よし! まずは全員で距離を保ったまま突撃!」
「「「おう!」」」
俺達三組はそれぞれ一定の距離を取りながら、実体化されていくボスに向かって行く。
実体化すると、すぐに奴は床面に杖の石突を打ち付け、技名を発してきた。
『ゴールデンロード……』
「この状況だとこれか! くるぞー!」
――ズドドドドドッ!
扇状に床面を走ってくる幾つもの金色の線から、人の背丈ほどもある巨大な金色のトゲが突き出しながら襲い掛かってくる。
向かってくる速度は思っていた以上に早く、俺達は慌ててゴールデンロードの射線上から逃れる。
これ、近距離でされたら躱すの結構きついぞ。
ボスは情報の通り、技を打ち終えるとすぐに床へ潜ってしまった。
思ったよりも潜るのが早い……。となるとやはり、奴が技を放っている間にこちらは攻撃を仕掛けないといけないのか。
ボスが床に潜ると同時に先程打ち出された金色のトゲも、結晶が砕けるように粉々になりながら消えていく。
「あそこだ!」
次にボスが現れたのは俺達の後方からだった。
結構距離を取られている。
「次は……、技名言うまで待機だ!」
『ゴールデンボンバー……』
技名を発しながら、髑髏の形をした杖頭をコーンと床に打つ。
やはりゴールデンボンバーがきた!
俺達が移動せずその場に居続ける場合はこれが来るという情報通りだ。
よく後方で待機しがちな魔法職が、この技で狙われやすい。
――狙いはどこだ?
「げっ! 俺んとこか!」
ハンスは声をあげて飛び退ると、ハンスのいた場所の床面に発生した握りこぶしほどの小さな金色の丸が、ぶわっと一気に大きな円となっていく。
そして円の拡大が止まるの同時に無数の背丈ほどもあるトゲが円の中から、あらゆる方向に突き出てきた。
――ズバババババッ!
「うぉ! こっわー!」
「ハンス大丈夫か!?」
円から逃れるもトゲは円の外まで飛び出てきたので、驚いたハンスはなんとか両手剣を盾に回避するが、そのまま押されて尻餅をついてしまった。
隣にいたトーイも、余りの苛烈な攻撃に驚いているようだ。
「あっ! ボスが
ボスを見るとリンメイの言葉通り、顎をカタカタと鳴らせ小躍りしながら笑っていた。
実はこれ、このボスのボーナスタイムのようなもので、ボスの放った攻撃が冒険者にヒットすると喜んで笑いだす。
その間は床に潜らないので、こちらが攻撃を仕掛けるのに有利となる。
今回は別に攻撃を食らったわけでもないのに笑い出したから、情報通り結構判定は緩いんだな。――これは実に良い。
ハンスが叫ぶと同時に俺とリンメイの組はボスに向かって走り出していたので、今回それぞれのメインアタッカー役であるリンメイとミステルが攻撃を仕掛ける。
身体能力の非常に高いリンメイはともかくミステルも物凄い加速でボスに迫っていったので、ミステルはどうやら駿足か加速の効果が付いたブーツを履いているようだ。
「おらぁ!」 「……ふんっ!」
二人の攻撃が同時に入り、一気に首飾りの宝玉の色が二つ赤色に変わった。
「おお! いきなり二ついった!」
「いいね!」
俺も二人に遅れて攻撃をしかけようとしたのだが、既にボスはその場に崩れるようにバラバラとなり、床に潜ってしまった。
このボスは攻撃を受けるとバラバラになるので、一回の出現で基本は一回の攻撃しか当てられない。
しかし先ほどのリンメイ達のようにほぼ同時に攻撃を仕掛けると、二回攻撃が入る。
ボスがどこから出現するのか警戒しながら、再び俺達は一定の距離を取る。
「リンメイお姉ちゃん!」
「後ろか!」
今度はリンメイの組に最も近い場所に現れた。
近距離で背後を取って来たな。――てことは俺達が分散しない限り恐らくあの技だ。
「今度は密集するぞ!」
俺とハンスの組はボスから見てリンメイ達と同一の射線上となるように移動しながらボスに向かう。
ボスはすぐに杖頭でくるんと円を描き、技名を発する。
よし、狙い通りだ!
『ゴールデンシャワー……』
――キンキンキンキン!
金貨のような礫が、まるで銃弾のように大量に撃ち出されるも、ラキちゃんの結界魔法に阻まれる。
どうやら礫を打ち出してくる範囲は、杖頭で描いた円の範囲からのようだった。
ラキちゃんが礫を防いでいてくれている間にリンメイは横に飛んでおり、そのままブーツの効果を発動させ三角飛びのように何もない空間を蹴って、ボスに躍り掛かった。
「せいっ!」
リンメイの攻撃が見事に入り、崩れたボスは再び床に潜ってしまう。
「やった三つ目!」
「ナイス! リンメイ!」
「やはり近距離で密集してたらゴールデンシャワーが来たな」
「情報通りだね」
「これで三つの技は見れた。――よし、問題無さそうならトーイの作戦やってみようか。皆、無理はするなよ」
「「「了解!」」」
トーイの作戦とは、攻撃を食らった振りをしてボスを笑わせ、隙を作ろうというもの。
先程は狙ったわけでもないが運良く笑ってくれたあれを、今度はわざと狙う。
「トーイ! 後ろだ!」
また後ろに回り込まれた位置からボスは現れた。
ということは……。
『ゴールデンシャワー……』
「ハンス! 俺の背後に!」
「おう!」
背後に回られたためにトーイよりもボスから離れてしまったハンスは、両手剣を盾代わりに構えつつ急いでトーイの後ろに隠れる。
流石これまでずっと壁役で鳴らしてきたトーイは綺麗に盾を構え頭部から上半身を保護し、盾から出ている下半身は礫のくる範囲から外れるために姿勢を低くして上手く捌いている。
「うわぁー」
それからトーイは礫の終わりを見計らって、後ろに吹き飛ばされる演技をした。ちょっとわざとらしいセリフ付き。
さてどうだ? ……おっ、笑った!
「いいね!」
笑おうが笑うまいが、ボスがターゲットをトーイに決めた時点で駆けだしていた俺達は、ボスに攻撃を仕掛ける。
今回は俺とミステルのペアの位置の方が、リンメイとラキちゃんのペアよりもボスに近い。
「……おっさん合わせろ!」
「分かった!」
俺とミステルは左右に分かれて横一文字に胴を薙ぎ払う。
どちらの攻撃も有効打になったようで、首飾りの宝玉がまた二つ、水色から赤色に変わった。
「よしっ!」
「……見事だったぞおっさん」
これはかなり順調なんじゃないか?
もう半分も削れてしまったぞ。
次にボスが床面から現れたのは、俺達三組とボスの距離が全て同じくらいの位置だった。
この配置だと、真ん中に位置している俺の組を狙ったアレの可能性が高い。
――ならば……。
「俺ら以外は突撃!」
「おう!」 「いくぜ!」
『ゴールデンロード……』
やっぱりきた!
左右の組はダッシュしてゴールデンロードの範囲ギリギリを左右に躱してボスに向かう。
俺とミステルはなるべく後方に逃げ、線と線の間隔を広げて避ける範囲を稼ぐ。
この状況では流石にトーイの作戦は難しいので回避に専念する。
なんとか俺達は線と線の間で金色のトゲを躱し前方を見ると、どうやら二組はまた有効打を与える事ができたようだ。
これで残り三つ。
ボスは今度は距離を取って来た。
これは恐らくゴールデンボンバーがくる。……ならば誰が狙いだ?
突如、俺の足元に金色の丸が描かれる。
――やばっ、俺だった!
一気に急拡大する円がら逃れるために全力で逃げる。
円の拡大が止まり、夥しい数のトゲが毬栗のように突き出されるのをギリギリの位置で盾を使って防ぎつつ、 後方に飛んで派手にゴロゴロと床を転がった。
どうだ俺の迫真の演技はっ!
しかしボスは、なんと笑いもせずにやれやれといった感じに肩をすくめていやがった。
野郎あんな仕草もするのか……なんかムカつく。
ラキちゃんはニコッと笑って 「ドンマイです!」 とサムズアップしてくれたが、リンメイには笑われながら 「ちょっとわざとらし過ぎ」 とダメ出しを食らってしまう。
……トホホ、ボスではなくラキちゃん達を笑わせてしまったよ。
「逃がすか! おらぁ!」
笑わす事は出来なかったがハンスの攻撃が間に合ったようで、宝玉の色が一つ赤に変わった。
とりあえずこれで残り二つだ。
今度はまた先程のように、俺達三組と丁度距離が均等な位置にボスが現れた。
先程と同じなら、またゴールデンロードのはずだ。
――コンコン……。
『ゴールデンロード……』
「……はっ、二回突いた!? まずい逃げろォ!」
「なっ!? やばっ!」
リンメイの叫び声に全員がハッとして、急制動をかけ回避行動に移る。
稀にだがボスが二回杖を打つ時があり、その時は普段よりも強力な技が来るというのを昨晩の打ち合わせで聞いていた。
今回のゴールデンロードは扇状というよりも放射状に近い攻撃範囲となっており、線も密になっている。
――いかん!
急いで範囲から逃れようとするも、迫りくるゴールデンロードはあまりに広範囲で、線と線の隙間も狭すぎて逃げ場が無い!
これはもう上に飛ぶしかないか!?
「くっ! ……ラキっ、金貨!」
「はいっ! ――それ~っ!」
リンメイの咄嗟の指示で、ラキちゃんが予め握りしめていた金貨をボスの頭上に向かって放り投げる。
『…………アァ!……金貨ァ……』
なんとボスは魔法を中断して頭上を越えていった本物の金貨を追いかけて行ってしまった。
おかげでギリギリまで迫ってきていた金色のトゲは俺達に到達する前に停止して、事なきを得ることができた。
この金貨を投げるというのは、過去にやけっぱちになった冒険者が偶然見つけた裏技的な行為で、確実にボスの行動を中断させる事ができる。
もしもの時のためにラキちゃんに予め金貨を持たせていたのだが、正直言うと、なるべくなら使わずに討伐したかった。
しかし本当に金が大好きなんだなコイツ……。
ボスは金貨を拾うと、パクリと口の中に入れてしまう。
骨だけなのに下に落ちた気配は無く、金貨は何処かへ消えてしまったようだ。
満足そうに顎をカタカタと鳴らして奇妙な動きをしているボスに、ブーツの力で高く跳躍していたリンメイはボスに躍りかかる。
「あーもー! こんにゃろー!」
リンメイは金貨を使ってしまった事がとても残念でならないようで、鬱憤を晴らすかの如く双剣を振るう。
双剣による二連撃が見事に決まると、首飾りの宝玉が全て赤色となったボスは金色の結晶の如く粉々になりながら消えて行った。
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