029 初めてのダンジョン 2
「四階に降りる階段まで来ちまったな」
「どうする?」
「今回四階に降りる階段からボス部屋まで近いね。部屋の前まで見に行ってみる?」
「おじさんも危なげなく戦えてるし、行ってみてもいいんじゃないかな?」
「俺は皆に任せるよ」
「じゃ、行ってみようぜ」
「「「おぅ!」」」
俺達は四階のボス部屋前まで探索してみる事になった。
迷宮エリアは五日毎に再構築されるが、ボス部屋とその前のエリアの座標は固定なので、再構築によって三階からの階段が遠くなったり近くなったりする。
今回は近いそうだ。
四階に降りた俺たちはマップに従い、ボス部屋の方へ進んで行く。
三階とは打って変わって魔物がさっぱり出てこない。……その理由はすぐに分かった。
「なんじゃこりゃー!?」
ボス部屋の前の少し広いエリアには冒険者でごった返していた。まさに芋洗いな状態だ。
「まさかこれ、ボス部屋に挑むための順番待ちなの?」
サリムが困惑した顏で冒険者達を眺めながら呟いた。
なんと列はボス部屋前のエリアからはみ出て、通路の方まで来ている。なんかコミケみたい……。
ダンジョンで稼ごうとやってくる冒険者にとって、一層から四層までの所謂初心者エリアは稼ぎ場ではないからさっさと抜けたいんだろうが、凄いねこれは。
「こりゃ、一番後ろのパーティがボス部屋入れるのは半日先かもしんねーな」
「なんかボス戦する前に疲れてしまいそうだな」
「そうですね。こんな事で携帯食使うの勿体ないから、挑むならお弁当持ってきた方が良いかもしれませんね」
「そうだなぁ。――まぁ何となく分かったし、今日はこれで帰ろうぜ」
俺達は別に今回ボス戦に挑むつもりは無いため、さっさと帰る事になった。
しかし、挑む時はこの列並ぶのか……。
俺達は地上に上がり、まずは納品カウンターで手に入れた素材などを納品する事にした。
それからダンジョン前の広場で、食べ物などの露店周辺に常設されたガーデンテーブルを囲み一息入れる。
「今日は誘ってくれてありがとう。とても勉強になったよ」
「俺達としても助かりました。また行きましょう」
皆ウンウン頷いてくれてる。とても嬉しい。
そして皆お待ちかねの今日の稼ぎの分配だ。
六人で分けて、一人頭小銀貨が六枚、銅貨が三枚、小銅貨が八枚だった。低層でもかなり稼げた事に驚いてしまう。
「凄いな、低層でもこんなに稼げるんだ」
「今日は銀貨拾ったのが大きいね。あと宝箱も三つあったし。普段は小銀貨5枚行けば良い方」
「うーんそれでも……。これじゃ皆ダンジョン行くわけだ」
「まぁ、冒険者狩りの奴らがホントうざいけどな」
確かに今回のダンジョン探索では、魔物よりも冒険者狩りの方が厄介だった。
奴らは様々な隙を狙ってくる。時にはキリム達を呼び止めた時のようにパーティ募集で誘った後になど。
そう考えると、臨時パーティ募集をあちらこちらで頻繁に行っているのを見るが、結構博打だよな。
ミリアさんが講習に来ている子達とは親しくなっておきなさいって言った意味が分かったよ。
「そうだな。皆が講習で対人戦闘の訓練してた理由が分かったよ」
「だろ?」
「あと、宝箱から何が出てくるか分からない、あのドキドキ感が凄かった」
「……フフフ、おっさんもあのヤバさを知ってしまったか」
「あれヤバいよねー」
今回は宝箱から古銭しか出なかったが、それでも何が出てくるか楽しみだった。
宝箱を求めて迷宮エリアを徘徊する冒険者の気持ちが少しだけ分かった気がしたよ。
そんな感じで俺達は露店で買った食べ物を肴にエールを飲みながら、今日の探索での事を思い思いに談笑した。
「折角だしさ、このメンバーで四層のボス、攻略してみない?」
突然、エールを飲んで良い気分になってきた感じのトーイが提案した。
「おおいいぜ。俺もそろそろ六層以降進んでみたいしな」
「……同意。もっと古銭以外のアイテム拝みたい」
「キリム達とおじさんはどうかな? おじさんは五層で薬草採取したいんでしょ?」
「俺達も別に問題ないよ」
「うん問題なし。そろそろ五層の
「俺も参加できるなら行きたいが、いいのか? 俺、今日初めてダンジョン入ったばかりだぞ」
「あれだけ動ければ問題ないですよ。じゃ、四層ボス攻略ということで皆よろしく」
「「「よろしくー!」」」
俺たちは勢いよくエールの入ったジョッキを打ち鳴らした。
それから俺たちは決行の日時を話し合い、今日は解散となった。
「初めてのダンジョンはどうだった?」
今日の夕食後の歓談は、自然と俺のダンジョン初挑戦の報告会という感じになった。
「いやー、皆が行きたがる訳が何となく分かりましたね。解体作業なんて必要無いですから」
「あれホント不思議よねー」
「低層の探索でも結構稼げるのに驚きました。ただ、やっぱりいるんですね、冒険者狩り」
「洗礼を受けちゃったか」
「はい。ソロで行くなって理由もよく分かりました。――あと、死体漁りにも遭遇しましたね」
「あー、あの人達ね……。あの人達、皆に嫌われてるけど殺さないであげてね。ここだけの話、ギルドにはとっても役に立ってる人達だから」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。あの人達、死体に残された
なんでも
また、死体漁りに情報料を払えば
「へぇー、なら俺も今後死体見つけたら
「低層ならやんなくてもいいわよ。あの人達がいるし、ケータさんも死体漁りと思われたくないでしょ?」
「ハハ……、ですね」
「まあ、今後ケータさんが中層以降にまで潜れるようになって、知らないパーティの全滅に遭遇したら持ってきてくれると助かるわね」
「分かりました」
それから、俺は意を決して今日の帰り、四層のボス戦に誘われた事を伝える事にした。
「それで、今日初めてダンジョン行ったばかりなんですが、ハンス達が四層のボス攻略に誘ってくれました」
「あら、良かったじゃない。こういうチャンスはしっかりと活用しなきゃダメよ」
あれ、後押しされてしまった。また難色を示されるのかと思っていたから、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「まだ早いって言われるかと思いましたが、行ってみて良いですかね?」
「良いんじゃない? 先輩冒険者の彼らが誘ってくれたんだから、ケータさんはもう十分実力を認められてるって事よ」
「そうそう。ケイタさんはもう十分にお強いですよ。胸を張って行って来てください」
大家さんとミリアさんのお墨付きが貰えた! なんかすごく嬉しい!
「はい!」
よし、明日は気合入れてボス戦に挑むぞ。
「私もお兄ちゃんとダンジョン行きたいな……」
突然、ラキちゃんがポツリとそんな事を言った。
俺と大家さんとミリアさんは顔を見合わせてしまう。
ラキちゃんの強さを知った今なら、何の危険も無いとは思う。でも……。
「うーん、ラキちゃんは目立っちゃうからねえ。変な連中が寄ってきそうなのよね」
「目立たなければ大丈夫?」
「ラキちゃんが一緒に来てくれるなら俺はとっても嬉しい。それこそ百人力だよ。
でもダンジョンでは襲い来る人との命のやり取りがあるからね。……だから、俺としてはまだラキちゃんは早いかなって思うんだ」
「私は大丈夫! この前だってしっかりやったもん!」
この前とはメカリス湖の騒動だろう。確かにあそこでも命のやり取りはした。でもあの時の敵は魔物と言っても納得できる外見の奴らだったからなあ。
それに対しダンジョンはモロにその辺に歩いているような奴が襲ってくる。
「うーん……」
「どうでしょう? その辺についてはラクス様とサラス様に相談してみては?」
「……そうね、ラクス様達が大丈夫って言うんなら、いいんじゃない?」
「ホント!?」
「そうですねぇ……。うん、ではそうしましょうか」
「やったあ!」
なんかラクス様達に丸投げしてしまった感じだ。ヘタレだなあ俺……。
ラキちゃんはもうダンジョンに行けるのが決まったかの如く喜んでるし。
でも多分、この流れだとラキちゃんは俺と一緒にダンジョンに行く事になるんだろう。
……そうだな、先日ラキちゃんと共に歩むと魔王様に宣言したばかりなんだ。覚悟を決めよう。
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