027 魔動飛空艇
甲板に上がると、そこには男でもため息の出るような美丈夫が、てへぺろしていた……。
眩いばかりの美しい金髪で、二本のこれまた美しい角が生えているため、俺の第一印象はボアザン星からやって来た角の生えた王子様だった。
「あっ、魔王様!」
「おおラキシス、息災だったかね?」
竜人に勝るとも劣らない体躯を持つ魔王様はニコニコ顔でラキちゃんを片腕に座らせるように抱っこして、懐かしそうな顔をする。
「サラス達がこの位の時は大変でな。こんな感じの船で色々な場所に連れて行ってあげたりしたもんだ」
「ぎゃー! そんな事言わなくていいの!」
ハハ……、サラス様めっちゃ焦ってる。
きっと魔王様は心の壊れてしまったラクス様とサラス様を、いろんな事をして癒してあげようと頑張ったんだろうな。
そんな事が二人のやり取りから伺えた。
「申し遅れたな。余が魔王ハイネリオスである。――皆、よろしくな」
ラキちゃんを抱っこして俺達の前にきた魔王様はそう言い、ウィンクして見せた。
なんかとってもお茶目な魔王様だな。
「全速前進!」
サラス様の掛け声と共に魔動飛空艇は動き出す。
軽快に走り出す船に俺達は大喜びだ。俺達は流れる景色を見ながら、暫し短い船旅を楽しむことにした。
ラキちゃんと大家さんは来るときに通って来た道や町などを指さしながら楽しんでいる。
「ケイタ、少しいいかな?」
「なんでしょう?」
魔王様に突然声を掛けられたので、二人で皆から少し離れた場所に移動する事にした。
何だろう? ちょっと怖い。
「まずは礼を言う。女神の願いを叶えラキシスを救った事、誠に感謝する」
「あっ、ありがたいお言葉、恐れ入ります」
突然礼を述べられて、焦ってしまう。
「――其方は故郷である地球に帰りたいか?」
「えっ!?」
「余は別の世界からの迷い人を送り返す任務も行っている。其方が望むなら帰してやろう」
少し悩んだが、女神様と会話した時の事を思い出す。
「……ありがとうございます。ですが、大丈夫です」
「ほう……、未練は無いのか?」
「未練が無いと言えば嘘になりますが、俺は既に一度、あちらで死んだ身です。女神様にこの世界で
「そうか。………………此度、其方はラキシスの力を見たな。――どう思った?」
「……世界を壊しかねない力だと思いました」
「其方はラキシスが道を踏み外さず、正道を歩むよう導く覚悟はあるか?」
「…………あります!」
「言うだけは簡単だな。もし過ちを犯してしまった時はどうする?」
「それは……」
俺はどう答えたら良いのか分からず、言葉に詰まってしまった。
「ふふ、少し意地悪をしてしまったな。女神は其方を選んだのだ。――頼んだぞ、正道の導き手よ」
そう言い魔王様は俺の肩を叩き、皆の方へ戻って行った。
俺は事の重大さに気づかされてしまい、思わず立ち尽くしてしまった。
そうか、魔王様はラキシスが手に余るようならこちらで引き受けようって言いたかったのかもしれないな。
それから俺も皆の方へ戻り、一緒に流れる景色を楽しみながら、魔王様に言われた事を暫くぼんやりと考えていた。
あっという間の船旅が名残惜しい。魔動飛空艇は聖都近くに停泊し、俺たちを降ろしてくれた。
なんと俺達は乗船記念に魔動飛空艇の模型を貰ってしまった。結構精密な作りでカッコイイ。
ラキちゃんは二つ貰ったようだ。一つはミリアさんへのお土産にするらしい。
そういえばお土産買う間も無く急いで帰ってきちゃったもんね。ラキちゃんグッジョブ!
俺達は魔動飛空艇の余韻に浸りながら聖都の正門に向かって歩いていく。
「ラキちゃんのおかげでずっと夢だった空飛ぶ船に乗る事ができました。本当にありがとう!」
「えへへ、どういたしましてっ」
「まさか魔王様までいるとは思わず、ビックリしちゃいましたね」
「本当です。魔王様、全てを包み込むお父様のような印象で素敵な方でしたね」
「うん、魔王様はみんなのおとーさん」
「まさに慈愛の大天使様でしたね」
聖都ではドラゴニア帝国が侵攻してきた話で持ち切りだった。
聖堂騎士団が聖都を出発する時はかなり物々しい雰囲気だったらしい。
ミリアさんが心配しているかもしれないと思い、帰りに冒険者ギルドに寄る事となった。
ミリアさんは……、いるいる。ミリアさんも俺達の姿に気が付いたようで、手招きをしている。
「よかったー!みんな大丈夫だったようね。心配してたんだから!」
「ふふ、ただいまっ。なんとか無事帰ってこれたわ。あなたが心配してるかと思って、ここに寄ったの」
「もー、ドラゴニア帝国がメカリス湖周辺に侵攻したって知らせを聞いて、ずっと気が気じゃなかったんだからね」
「詳しい事はまた帰ったら教えてあげるわ。お仕事邪魔してごめんなさいね」
「分かった。また後でね!」
ラキちゃんはサリーちゃんにお土産として途中の町で買ったドライフルーツの包みをプレゼントしていた。
なんでもサリーちゃんは孤児院暮らしのようで、「皆で食べるね!」 と、とても喜んでくれたそうだ。
無事に大家さんの家に帰り、何だかホッとしてしまう。
「僅か二日の留守でしたが、何だかとっても疲れちゃいましたね」
「あんな事がありましたからね。――とりあえず、俺はお風呂の準備をします」
「はい、お願いします。では私は夕食の準備でもしましょうかね。――ラキちゃん手伝ってくれるかしら?」
「はーい!」
皆お風呂で旅の垢を落とし夕食の準備も整った頃、ミリアさんが帰って来た。
ミリアさんもお風呂でさっぱりした後、皆で夕食を食べながら報告会だ。
「へー、てことは連中は邪竜の再誕に合わせて来たって事なのね」
「そうみたいね」
「なんとも間の悪い。やっぱケータさんの数奇な星巡りに引き寄せられたんじゃない?」
「えぇー何ですかそれ。まあ俺の運が無いのは自覚してますけど……」
「そんな事無いわ。ケイタさんの導きでラキちゃんがこの家に来てくれたから、皆無事に帰ってこれたんです。ケイタさんは運に見放されてなんかいないですよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
それから暫くして、大家さんはしんみりと呟いた。
「……毎年のように私一人で出かけて行ってたら、今頃は邪竜のお腹の中だったでしょうね。
今こうしてここにいるのはラキちゃんのおかげ。感謝してもしきれないわ。――本当にありがとう、私達の可愛い天使様」
「本当ね、皆が無事に帰ってこれて良かったわ。ラキちゃんありがとね!」
「えへへ、どういたしましてっ。――あっ、あのね、これミリアお姉ちゃんにお土産!」
ラキちゃんは照れ隠しとばかりに、今日貰った魔動飛空艇の模型をミリアさんに渡した。
「えっ!? なにこれ凄い!」
「ほら、たまに空を飛んでるでしょ? 魔王様の魔動飛空艇、その模型よ。――私達今日の帰り魔動飛空艇に乗せてもらって、記念にそれを貰って来たの!」
大家さんが可愛らしいドヤ顔でミリアさんに説明してあげる。
「えー! 皆あれに乗ったの!? ずるーい! あたしも行けばよかったー!」
そんな悔しそうにするミリアさんを宥めながら、夜は更けていった。
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