025 ドラゴニア帝国兵
「来ます!」
大家さんの叫び声と共に、上空からワイバーンの吐き出す炎の玉が雨のように降り注ぐ。
「精霊よ!」
大家さんは精霊魔法で水の壁を作り出す。しかし全てを防ぐ事はできず、抜けてきた炎が俺たちを襲う。
「ラキちゃん、みんなの回復をお願いします!」
「はい!」
更には上空から飛竜兵の放つ魔法攻撃も飛んでくる。不可視の風魔法は容赦なしに逃げる人々を切り裂いていく。
くそう、遠距離攻撃の手段を持たない俺にはどうする事もできない。自分の無力さに思わず歯噛みしてしまう。
せめて大家さんを庇うための盾でもあれば……。
最近は少しづつ
大家さんが精霊魔法を駆使してかなりの攻撃を無効化し、他の人達の護衛として来ている冒険者が魔法や弓で何騎か落としてくれたので若干優勢だ。
ラキちゃんが神聖魔法で次々と回復していくので、何とか脱落者を出さずにいるのも大きい。
「生意気な猿どもだ。――あのエルフのババアを殺せ! 奴が要だ!」
皇子と呼ばれた竜人が指示を出すと、三騎の飛竜兵が大家さんに向かって急降下してきた。
――やらせるか!
接近戦なら俺だって戦える。俺は剣に有らん限りの
「来いやぁ!!!」
俺は声を張り上げ駆け出し、飛竜兵が大家さんの作る水の壁を抜ける際の一瞬の視界不良を狙い騎手の顏に飛び蹴りをする。
クリーンヒットした騎手はあらぬ方向に首が曲がっているが、振り落とされないので俺はそのまま騎手を踏み台にして次に向かってくる飛竜兵へ向けて飛び掛かる。
「この猿があ!」
こちらに向けてくる槍を剣でいなし体を回転させながら、後ろ蹴りを放つ。相手はのけぞるも今度は首を折る事が出来なかったので、すかさず剣で首を掻き切った。
次だ! 斜め後ろを飛ぶもう一騎に飛び掛かる。
「ひっ!」
騎手は防御しようと槍を横に構えるも、ワイバーンごと切り落とす気持ちで
槍を断ち騎手ごと切っていく。両断とまではいかないも、致命傷となる傷だ。
そのままワイバーンを蹴り地上に着地する。飛竜三段蹴り! なんてな!
「ケイタさん危ない!」
大家さんの声に反応し下段から剣を振り上げ、刹那の攻撃を受け止める。
――ガイィン!
ぐあぁ! 最大に身体強化していても体が軋むような一撃だ!
その強烈な斬撃を放ったのは皇子と呼ばれた竜人だった。翼をもつ翼竜人と呼ばれる種族で、ワイバーンから降りて自らの翼で俺を仕留めにきたようだ。
竜人は平均的に二メートル以上ある体躯で只人よりも基礎となる力が強い。まともに打ち合ってはいけない相手だ。
「猿の分際でなめた真似をしてくれるな」
「うるせえぞトカゲ!」
「貴様ぁ! 余を
沸点低すぎだろコイツ……。
当たれば即死だが、怒りによって精彩を欠いているのか大振りになっているのでなんとか斬撃を捌く事ができている。
もっと煽ってやろうか?
「どうした! 当たらねえぞトカゲ!」
「この猿がぁ!」
ここだ! 奴の袈裟切りに合わせ剣で軌道を変え懐に潜り込む。
ひたすら練習した通り
一瞬頭の中で雷光が煌めき、拳に紫電の光が纏ったような気がした。
――ドゴン!
「皇子ーっ!」
「ぐうっ……、おのれぇぇ!」
奴は声は出せるが、どうやら起き上がれないようだ。
「貴様! 皇子の玉体によくも!」
「あーばよーっ!」
俺は止めを刺しには行かず、急いで反転して大家さん達の方へ逃げていく事にする。
連中が皇子に気を取られている今しか逃げ場がない。
このまま逃げ切れるかと思ったその時、最大級の警鐘が頭に響いた。
――なんだ!?
慌てて警鐘の示す方角を見ると、湖から巨大な禍々しい玉が浮かび上がってきていた。
その玉は湖面から更に浮かび上がると、上空で制止する。
なんだあれは……。
「大家さん!」
「ケイタさん! 急いで逃げましょう! あれは恐らくギリメカリスの竜核です! じきに邪竜が目覚めてしまいます!」
「なっ!?」
追い付いた俺に、大家さんは禍々しい玉の方を見ながらそう叫んだ。
「私達ではどうにもなりません! 逃げましょう! 早く!」
巨大な玉には次第に
くそう! ドラゴニア帝国の連中はコイツが目当てだったのか!
よりにもよって俺達がいる時に目覚めなくてもいいものを!
――ドドドドドドッ……。
更には、湖の対岸の方から物々しい音が響いてくる。
「漸く来たか! 遅いぞ貴様ら!」
やっと起き上がった皇子が檄を飛ばすその先には、なんと対岸に騎竜兵の一団が現れた。
ええいクソッ! 次から次と状況は悪くなるばかりだ!
皇子含む飛竜兵の一団はギリメカリスの方へ飛んで行き、恭しく礼をする。
「おお神竜ギリメカリス様! 御再誕、誠におめでとう御座ります! 我ら眷属一同、お迎えに上がりました!」
「ホウ、我ノ眷属カ……、出迎エゴ苦労。――ツイテマイレ、向コウニ見エル町デ祝宴ダ……食ベマクルゾ、カカカッ!」
ふざけんな! 奴ら町を襲うつもりか!
俺は町の人達が食われる光景を想像してしまい、絶望感に襲われてしまった。
どうすりゃいいんだ……。
「ソノ前ニ……丁度旨ソウナ猿ドモガオルナ……。ドレ、焼イテ食ッテヤロウゾ」
こちらを向いたギリメカリスは俺達の集団に向かってドラゴンブレスを放った。
――ゴオゥゥ!!!
「精霊よ! お願い守って!」
大家さんが俺の前に立ち、圧縮した特大の水の壁を作り出す。俺も少しでも助けになればと大家さんと俺の前に拙い水の壁を作る。
頼む! 耐えてくれ!
「きゃあああぁ!!!」
「ぐわあぁ!!!」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
大家さんの壁はある程度の威力は抑える事ができたが、俺達はドラゴンブレスに炙られ吹き飛ばされてしまった。
大家さんは身体強化に使う
まずい! 大家さんが危ない!
「ホウ……、焼キ加減ヲ調整シタラ防ガレテシマッタカ。――生意気ナ。デハコレナラドウダ?」
あの野郎もう一発ブレスを放つつもりか!
「大家さん!」
くそう! 大家さんを守らなければ! 火傷による激痛を堪え懸命に大家さんへ駆け寄ろうとするも、体が上手く動かない!
ふと、全身を襲う痛みが霧散していく。――ラキちゃんの神聖魔法か!
「ラキちゃん! 大家さんを頼むっ!」
俺が声を張り上げるまでもなくラキちゃんは大家さんの傍らに跪き、神聖魔法をかけてくれていた。
そこに居ちゃだめだ! 頼む! 大家さんを連れて逃げてくれ!
「逃げろぉー!!!」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんをよくも、……許さない」
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