021 蛇の魔物 2

「てめぇらの仕業か! もう五か所は崩落してんだぞ!」


 どうやら隣のカウンターでは俺が倒したクラックパイソンの討伐依頼を申請している最中だったようだ。

 カテリナさんと一緒にいる少年が、研究用のクラックパイソンを誤って下水に逃がしてしまったらしい。

 こちらの受付のお姉さんとミリアさんも情報の共有をし始めている。


「とりあえず一匹はこっちのケイタって冒険者が駆除した。証拠の死体も持ってきている。――本当にクラックパイソンの雄が一匹で間違いないんだな?」


「はっ、はい間違いありません!」


 サブが念を押すように確認をすると、少年が答えた。サブは 「雌じゃなくてよかったぜ」 と呟き、ホッとしている。


「その依頼は一応申請してケイタが完了した事にしてやってくれ。それくらいの報酬はケイタが受け取る権利があるからな」


 おお、サブ男前!


「後は崩落による補償等の件で都市管理課の方から魔導学院に話が行くように手続きをする」


 そう言い、サブ達は受付に事務的な報告をして足早に行ってしまった。




「この度はクラックパイソンを討伐して頂きありがとうございました」


「「ありがとうございました」」


 改めて魔導学院の教師の方が俺に頭を下げ、後ろに控えた二人の生徒も頭を下げた。


「まぁ成り行きで倒しただけですから。こちらとしても報酬を頂けるので助かります」


 本当に偶然倒しただけだから、頭を下げられると恐縮してしまう。


「今朝お会いして心配でしたから、ケイタさんが無事で本当に良かったです」


「カテリナ先生が魔力マナの使い方を教えてくれたから倒せたんだよ。また講習受けた時はよろしくね」


「はい!」


 彼らも一先ずは安心したようで、程なくして帰って行った。

 おっ、ミリアさんが手招きしている。


「ケータさんおつかれさま。大金星ね」


「いやー、偶然ですよ。実は生き埋めになっちゃったし……」


「いっ! 体の方は大丈夫なの!?」


 俺がサリーちゃんと楽しそうにお話しているラキちゃんの方を指差すと、ミリアさんは納得した。


「ほんとにもう! 気を付けなさいよね!」


「面目次第もありません……。そうだ、今回も結局大ネズミ狩りの討伐は途中で中断となってしまいましたね。こちらに鍵とルートマップ返却でも良いでしょうか?」


「返却はこちらで良いけど、崩落してルート進行が困難になったのなら、そこで終了扱いだから達成という事になると思うわよ。ちょっと待ってて、確認してくるから」


 そう言うと奥に行ってしまったが、すぐに戻って来た。


「はい、ちゃんと依頼は達成という事で処理できるそうです。――と言う事で、大ネズミ狩り十回達成おめでとうございます。

 ダンジョンに入れるように手続きをしますので、冒険者証ギルドカードを貸してください。その間にケータさんは解体作業場の方で大ネズミ狩りの達成報告をお願いします」


 言われた通りギルドカードを提出すると、それを持ってまた奥へ行ってしまった。

 やった! 今日の分もカウントしてもらえるって事で終に十回達成だ! 俺は急いで解体作業場の方へ依頼達成の報告に向かった。


 大ネズミ狩りの報告し終えて戻ってくると、ミリアさんも戻っていた。


「はい、こちらが新しい冒険者証ギルドカードとなります。黒曜級冒険者に昇級おめでとうございます」


「えっ!?」


 ミリアさんはしてやったって顏をしてニコニコしている。これまでの木製の冒険者証ギルドカードを加工し、小さな黒曜石がはめ込まれている。

 突然の昇級に驚きを隠せない。


「実は大ネズミ狩りを十回達成すると、ギルドへの貢献度が十分と判断して黒曜級に昇級するようになってるんですよ。

 大ネズミ狩りをちゃんと十回こなしているため素行も良しという事で審査も無しです。――驚きました?」


「驚きましたよ、もー。人が悪いなあ」


「ふふふ、これからもギルドへの貢献をよろしくお願いしますね」


「わかりました。昇級ありがとうございます」


「それと、これでケータさんはダンジョンに入る事が可能になりました。まずはソロで活動せず、どなたかとパーティを組む事をお勧めします。

 ――本当にこれまで以上に気を付けてくださいね」


 念を押されてしまう。今日もやっちまったばっかりだしなあ……。


「肝に銘じておきます」


「あとは、先ほどのクラックパイソンの討伐依頼はまだ正式に登録できていないので処理の都合上、報酬の支払いも少し待ってくださいね。

 因みに、この依頼は都市への貢献度がかなり高いので、次の鉄級までそう遠くないと思いますよっ」


「わかりました。あまり意識してませんでしたが、昇級するとやっぱり嬉しいですね。次も目指して頑張ります」


「その意気です。頑張ってくださいね」




「ラキちゃんお待たせー。かなり待たせちゃったようでゴメンね。あとサリーちゃんもありがとね」


「おかえりなさーい」


「いえ、私もラキちゃんとお話して楽しかったです」


「それはよかった。良かったらうちのラキシスとお友達になってね」


「もうお友達です!」


 サムズアップして断言してくれるサリーちゃんイケメン過ぎる。


「良かったねラキちゃん」


「うん! じゃ、サリーちゃんまたねー!」


「またねー!」




 ようやく俺たちも冒険者ギルドから帰る事になった。もう空もかなり茜色に染まっている。


「ラキちゃん、今日はありがとうね。神聖魔法使ってくれたんでしょ?」


「うん。……気を付けてねお兄ちゃん。とっても心配しちゃった」


「ごめんね……、気を付けます。ところで、俺の場所が分かったのってコレのおかげ?」


 そう言いブレスレットを見えるように腕を上げる。


「うん。早速役に立ってよかった」


「そっか、本当にありがとね」


「うん!」




 帰ったら大家さんにとても心配されてしまった。

 二人で薬草畑で作業してたら、突然ラキちゃんが俺が危ないと叫び、どこかに空間転移したと教えてくれた。

 飛んで来たんじゃなくてテレポートしてきたのか! ラキちゃん何でもできる子だね。お兄さんビックリだよ。


 大家さんにひたすら謝り、今日あった事を話す。

 そこでラキちゃんが入ってたであろうカプセルの事も思い出し、ラキちゃんにサラス様へ連絡してもらい、カプセルの回収をお願いした。


「と言う事はそのクラックパイソンのおかげでラキちゃんが外に出てこれたって事になりますね」


「うーん、そう考えるとクラックパイソンに感謝しないといけないのか。なんだか複雑ですね」


「ふふ、そうですね」


 結局ラキちゃんが目覚めるためにはクラックパイソンの活動が必須だったわけで。

 ラキちゃんを発見するためには冒険者となって第二下水処理場まで行く必要があったわけで。

 本当に女神様は絶妙なタイミングで俺をここに寄越したって事なんだな。


 それにしても、今日は色々あったな。ラキちゃんのおかげで怪我も無いけど、本当なら今頃は瓦礫に埋もれたまま死んでいたかもしれない。

 そう考えると恐ろしくなる。もっと 【虫の知らせむしのしらせ】 ギフトを上手く使いこなし、危機を回避できるようにならないとな。


 ともあれ、これで俺もついにダンジョンへ行けるようになったわけだ。明日はちょっとダンジョンの周辺を見に行ってみようかな?

 たしかダンジョン産の品を扱う市場もあって、人の往来が凄い繁華街になってるって聞いてるんだよね。

 これまでは、まだ自分には早いと思って近づかなかったからなあ。お金も無かったし。


 よし、明日はラキちゃん誘ってダンジョン周辺の繁華街へお出かけだ。

 そんな事を考えていたら、ミリアさんも帰って来た。

 なんとミリアさんは俺の昇級祝いにワインを一本買ってきてくれた。本当にこういう心遣いに涙が出るほど嬉しい。

 大家さんも俺の昇級をとても喜んでくれて、夕食の一品を追加してくれる事に。


 ……皆で祝ってくれるってとても素敵な事だね。この日の夜はとても楽しいひと時を過ごす事ができた。

 女神様、この世界に送ってくれて本当にありがとう。こんな体験をする事ができるなんて思ってもみなかったです。

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