012 薬草採取 1
そこにいたのは鹿の親子だった。向こうも俺の存在に気が付き逃げていく。
――ふぅ
他にも何かいないか周囲に注意を向けるが、大丈夫そうだったので緊張を解き剣を鞘に戻す。
ここは色々な生き物が水場にしていそうだから、あまり長居しないほうがよさそうだな。そう思った俺は、さっさと立ち去る事にする。
ところで、獣と魔物の違いは相対したら逃げるか向かってくるかのどちらからしい。
獣も大型は向かってくる奴はいるが、魔物は小型だろうが何だろうが問答無用で向かってくる。
そして魔物が魔物と言われる
魔石は様々な魔道具や魔動機を動かすのに使われる。この世界での電池代わりのようだね。
そのため、魔石は結構な値段で買い取ってくれる。
俺はもう少し渓流を上りながら薬草を採取していったが、暫くしたら小さな滝の所まで来た。
どうしよう。もう少し進もうかと少し考えたが薬草採取の初日なんだし無理はしない方が良いかなと思い、ここを折り返し地点とする事にした。
――うん、見晴らしも良いし、ここで少し休憩してから戻ろう。
俺は渓流を眺めながら、昨日の夜に大家さんから頂いたサンドイッチを頬張る。
今日も大家さんの優しさに感謝です。
渓流釣りが好きな人にはたまらない場所なんだろうなーと眺めていたら、滝壺のすぐ近くに小さな花が群生しているのに気が付いた。
――あれ?、もしかしてクロセリナの花?
近づいて見てみると多分そうだ! これも大家さんに教えてもらった薬草の一つ。結構貴重らしい。
俺は携帯シャベルを取り出し、慎重に根ごと採取していく。
勿論ここも数株は残しておく。花が無くなれば気が付きにくくなるため、ここは覚えておこう。
やったやった! 大家さん喜んでくれるかな?
ちょっとウキウキしてしまう。
帰りも見落としていたケルナコを採取しながら戻っていく。
浮足立っていたのだろう。俺は先程鹿の親子がいた
――ヤバッ!!
ゾクリとした感覚がして抜刀しながら斜め後方に倒れこんだら、ホーンラビットが飛んできた。本当に剛速球のボールのようにだ!!
丁度俺の胸の位置だった場所を通過していく。あっぶねー! 俺は慌てて起き上がり、剣を構える。
抜刀した剣が偶然当たったのか、少し傷を負ったようだが、すぐにこちらへ角を向け、再び突進してきた。
うへぇコイツ威力上げるためか回転しながら飛んできてる!
――シッ!
俺は右斜め前に送り足で移動しつつ右逆袈裟に切り上げる。
ヨシ! 首が落ちたか!? と確認する間もなく、別のもう一匹が俺の左側面から飛んできた!
慌てて左手の手刀で叩き落とし、逃げる間を与えず突き刺してとどめを刺す。
「あっぶねー、もう一匹いたのかよ!」
思わず声を出してしまうほど動揺してしまっていた。
ハッとして慌てて周りを警戒するも、これ以上は気配を感じない。
初めて魔物を倒した。最弱と言われるホーンラビットだったが、まさかこれほど鋭い突進をしてくると思わず、今更ながらゾッとしてしまう。
かっ飛んでくるなんて思わねえよ!
何も鍛錬せず薬草採取きてたら、上手く剣の刃筋を立てる事ができずヤバかったと思う。あの時止めてくれたミリアさんと大家さんに感謝しかない。
倒した二匹を見ると、最初にかっ飛んできた方は金色の毛並みをしていた。なんかすごく綺麗。
側面からきたもう一匹はオレンジに近い茶色のような色をしている。コイツの方が向かってくる速度が遅かったから隙を突かれてもなんとかなった気がする。
金色の方は喉のあたりがぱっくりと裂けていたが首を落とせてなかった。こいつあの斬撃避けたのかよ……。
どうしよう、俺まだ獲物の解体の講習受けてないから正直どうやったらいいか分からない。
昔ネットで見た記憶では、内臓取って川にドボンだった気がする。確か冷やすのが目的だったような……。
とりあえず二匹を持って、渓流の
急いで腹を開き内臓を取ってから、紐に縛って川に沈めた。言うだけなら簡単だけど、正直初めてだから色々と酷い状況になってる……汚い。
俺のヘタクソな結果は証拠隠滅だとばかりに、川の水で作業した石の上を洗い流しておいた。
そうそう、魔石は忘れずに回収したよ。
魔石を眺めながら
これが魔石なのか。……綺麗だな。初めて手に入れる魔石に嬉しくなる。
そろそろいいかな? 水から上げてその辺に落ちてた木の棒に二匹を
「こんにちはサリーちゃん。常設依頼の品ってどこへ持っていけばいいのかな?」
「こんにちはケイタさん! えっとですね、あちらの納品カウンターにお願いしますっ!
あっ、今トマス君が手を振ってる所です~」
サリーちゃんが指さした方を見ると、少年が手を振っていた。あれ?、彼はたしか……。
サリーちゃんにお礼を言い、カウンターに向かう。
「こんにちは、――トマス君はここの職員だったんだね」
目の前にいる少年は、剣術の講習にずっと参加している最年少の少年だった。
初心者の俺に親切にしてくれる良い先輩である。
「はい、まだ見習いなんですけどね。鑑定
――おっ! ホーンラビットじゃないですか。ケイタさんやりましたね! 初討伐おめでとうございます!」
トマス君は俺が担いでいるホーンラビットに気が付くと、サムズアップをして俺の初討伐を祝福してくれた。
俺、昨日の講習でホーンラビットの事みんなに聞いてたからね。
俺もサムズアップをして返す。
「ありがとう! みんな余裕って言ってたけど、ちょっと危なかったよ。
早速納品したいんだけどお願いできるかな? ホーンラビット二匹とケルナコなんだけど」
「わかりました。品物はこちらのカウンターにお願いします。直ぐに査定しますので少々お待ちください」
早速俺はテーブルにホーンラビット二匹と魔石、そして採取したケルナコの半分を並べた。
「あっ!、これゴールデンホーンじゃないですか! そりゃ苦戦するわけですよ」
「ゴールデンホーン?」
「はい、こいつはホーンラビットの希少種で、ゴールデンホーンて呼ばれているんですよ。
こいつの
マジかよ、危なかったー。これはやっぱり早めに胸当ても揃えた方がいいな……。
「あっ、俺まだ解体のやり方分からなくて、内臓取って川で冷やしただけなんだけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、解体作業はギルドで専用の工房がありますので、そちらに回します。
――うん、処理が早く川で冷やしたので、肉の質も問題ないですね」
良かった、肉は傷んでなかったか。
「もし今後大型の獲物を持ってこられる場合は、裏手の解体作業の工房へ直接持って行ってください。
ギルドの横に荷車も通れる道がありますから、そちらから回って貰って構いません。当ギルドは荷車の貸し出しもしてますよ」
俺に説明をしながらも、トマス君は手際よく査定していく。
「あっ、そうだ。このゴールデンホーンの角と革はどうします? 結構希少なので皆さん自分で持って帰る人が結構いるんですけど」
「へぇー、みんな何に使ってるの?」
「装飾用なので、まぁ……女性へのプレゼントとかですかね? あはは」
……そうだな、日頃お世話になってる大家さんに渡して、有効活用してもらおうかな?
「なるほど、じゃ俺も持ち帰りたいな」
「わかりました。ではこちらで処理した後で返却しますね。こちらの札を持って後日受け取りに来てください。
処理の手数料は今回の査定額から差し引いておきますね」
そしてトマス君は紙にさらさらと査定内容を記入していった。
「はい、ではこちらの査定用紙を受付のカウンターに提出して依頼の完了をしてください。
――本日はギルドへの納品ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
俺も礼を返して、受付カウンターへ行く。
ミリアさんがいるのでミリアさんのカウンターに向かう。
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