4
目が覚めると、ブースターの激しい音が木霊した。
画面下部に赤いマグマが映る。が、それも一瞬。視界は上部の宇宙に向いた。
リバーシスの後部ブースターから勢いよくエンジンを吹かす。内部にあるガスを冷却した液体燃料が燃焼し、噴射口から炎と二酸化炭素が一気に吹き上がる。
同時に身体がGの圧力を受けるが、上昇していくうちに軽くなった。
船は瞬く間に重力圏を抜けた。
赤い惑星の周囲にあるのは、転移前に見た同型の宇宙ステーションと、それに付随する数十隻の護衛艦。そこから人型マシンが出てきて、外付けブースターを外し始めた。
無重力だった室内に、そっと重みが現れて身体が落ち着きを取り戻す。
「こちらアー圏。調子はどうだ、葬儀屋」
「問題ありません。俺を探す人物はどこです?」
「ステーション内だ。ブースターが取り外し次第、誘導を行う」
「了解」
順次作業が終了し、人型マシンが背部ブースターで護衛艦のほうへ消える。その先のステーションからは、オレンジ色の誘導灯が等間隔に灯っていた。
コルトは自動操縦に設定すると、ステーションの食堂メニューを考え始めた。アー圏の食事はリリ星の素材が多く、新鮮な野菜がメインだ。宇宙船での食事は固形食糧ばかりたべていたから、気晴らしにちょうどいい。
寄り道をしなかったら、シーズ人のつくる水豚のステーキや魚の刺身などシーズ人向けの料理を頼んでいただろう。
「さかなーさかなーさかなかなー♪ おさかなーの尾は食べれないー♪」
今度は通信を切ったことを確認して喉を震わせた。
リバーシスが筒型の巨大な宇宙ステーションに迫ると、中型艦までの搬入口が自動で開いた。中は無重力で、狭い通路に誘導灯が連続して並んでいる。逆噴射して減速するとワイヤーが伸び、船体が固定され床に着いた。地面は移動床になっており、リバーシスは小型艦が並ぶ巨大な格納庫へ収容された。
また体に重みを感じる。遠心力で重力を得ている宇宙ステーションの内部に入った証拠だ。
自動音声による入艦の許可が下りた。
コルトはリバーシスの出入口からスロープを伸ばし、船の出力を切って操縦席を出た。居住スペースを抜け乗船口から降りると、無数の船が並ぶ格納庫を目にする。
「こちらです」
スパイダー型の多脚AIが無機質な声でコルトを待っていた。コルトは無言で追従し、ステーション内の通路を何度も曲がる。客室用の食堂を通ったが、羨ましそうに目で追った。
スパイダー型は、二人の衛兵がいる重厚かつ豪勢な飾りのドアの前で止まった。
「ここです」
「ま?」驚きのあまり、言葉にならない。「嘘じゃなくて?」
「本当です。それでは」
スパイダーはそれだけいうと、来た道を戻っていく。
コルトは深く息をついた。
補給や食事で何度も宇宙ステーションに訪れているが、ここへ来るのは初めてだった。ぱんぴーの自分に何の用だと狼狽える。
「大した理由じゃないといいけど……」
諦めに似た境地で、内線ボタンを押す。「マクスタントです」と名乗る。
空気圧で閉じていたドアが、エアーが抜ける音とともに開く。
十数メートル先には、大きな玉座が不釣り合いな小柄な男性と、そのそばに立つ背丈の低いキャップ帽の人物。
「失礼します」
会釈してゆっくり進むと、両脇にいる衛兵が無言でコルトから視線を外さないでいる。
「あぁ……よかった。来てくれないかとおもったよ」
冗談交じりにいうのは、中央の豪勢な椅子に腰かける、少年のような男だ。尖った耳を揺らし、顎を上に向けている。端正な顔立ちに滑らかな肌。その眼差しは輝いており、五〇を過ぎた年齢を到底感じさせなかった。
「失礼いたします。皇帝陛下」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます