メイト

『人間の形をした何かも置かれてた。人形みたいな』

 浅葱あさぎがそう口にした途端、千治せんじの顔色がはっきりと変わる。

「人形って、人くらいの大きさの人形か!?」

 いつも落ち着いて思慮深い千治のそんな姿を初めて見て、浅葱はギョッとしていた。

「は、はい。最初は死体かと思ったけど違くて……スカート穿いてて…」

 見たままを告げた浅葱に、千治は「むう…」と唸って難しい顔をした。重蔵じゅうぞうはその意味を理解していたようだった。

「人型の…ということは…」

 呟いた重蔵に千治が応える。

「ああ…もしそれが動くようなら、これは大変なことだぞ……世界がひっくり返る…」

「世界が…!?」

『世界がひっくり返る』という千治の言葉に浅葱は驚きを隠せなかった。世界がひっくり返るほどのものとはいったい…?

 茫然と見詰める彼女に千治は椅子に座り直して「実はな…」と語り始めた。

「お前が見たという人型のそれは、<メイト>と呼ばれる自動人形かもしれない。もしそれが本当に<メイト>で、かつ動くようなら、文字通り世界がひっくり返る筈なんだ」

 そこまで言ったところでちらりと重蔵を見た。そこから先も語っていいのかというのを確かめるように。すると重蔵は小さく頷いた。今回の発見で、浅葱はもう一人前の砕氷さいひとなったのだ。それゆえ『本当のことを知る資格がある』という意味だった。

 そんな重蔵の判断を確認して、千治は続けた。

「<メイト>は、まさに失われた技術と知識の塊そのもので、それをそのまま再現することができるんだ。<メイト>一つでこれまで砕氷さいひが発見してきたもの全てよりも価値があると言ってもいい。何しろ、この<メモカ>もその<メイト>なら読み取れる筈だからな。

 その<メモカ>と<メイト>が同じところに置かれていたということは、その<メイト>は<メモカ>を読み取る為のものだったのかもしれない。壁一面に並べられた<メモカ>全てがその<メイト>によって価値が生まれるんだ。

 そうだな。銅貨三枚だったものが、金貨十枚にはなるか」

「金貨十枚!?」

 浅葱が驚くのも無理はなかった。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚の価値である。金貨十枚ともなれば、古くて小さい家なら一軒買えてしまう程のものだった。

 もっとも、それだけのものが一度に大量に見付かったとなれば当然、値崩れを起こして価値はずっと下がるだろう。だが問題は値段ではない。『失われた技術と知識』がそれだけ大量に復活するというのが大変なことなのだった。


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