第16話 精霊使い

セレス、ティナ、ステファンと木こりや乗組員達を交えた一行は、

たくさんの荷車を引いて、ニブ火山の東側にあるラバール川上流の森に到着とうちゃくした。


「毎年、木を切る場所を変えててな。

 今年はこの辺りだ。」


と木こりのリーダーが言い、


「あんたらにやって欲しいのは、

 木を切る手伝いと切った木を荷車で運ぶ手伝い。

 あとヴォイジドやクファッナがおそってこないように見張る役だ。」


おの手渡てわたしながら説明してくれた。


木こり達が木を切り始めたので、

さっそくセレス達も見よう見まねでチャレンジしてみる。


おの先端せんたんが重いつくりなので、木の同じ場所にり返し当てるだけでも

なかなかの重労働だ。


「そっちのやわららかい木は後回しだ。

 最初はこういうかたい木から切ってくれ。

 それから、木がたおれてくる方向に立つんじゃないぞ。

 下敷したじきになれば死ぬこともある。」


木こりのリーダーが声をかけて回る。


ステファンはおのあつかいも得意なのか飲みみが早いのか、

セレスの倍ぐらいのペースで木を切りたおす。


切った木は周りの枝を切り落として荷車にせていく。


風刃ウィンドブレード!」


ティナが枝を切るのに特異技能ギフトを使うと、

木こり達からどよめきが上がった。


「なんだありゃあ!」


「ひいばあちゃんと同じ、風の精霊せいれい使いだ!」


「オレは初めてみた!」




精霊せいれい使い?何のことです?」


とセレスが木こり達にたずねると、


「火のニブ、

 風のクセク、

 水のウンバ、

 土のレンジア。

 これが自然の四大精霊せいれい様で、

 その力を使いこなせる人間を精霊せいれい使いって呼ぶんだ。」


「村に伝わる神話みたいなもんさ。」


「今は水の精霊せいれい使いぐらいしか村にいないがな。」


と教えてくれた。


どうやらこの島には、トレトス教が広まっていないらしい。


「トレトス教に入っているかどうかと特異技能ギフトの有無は、

 実は全く関係ないんだ。」


というミリアの言葉がかぶ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







昼過ぎ。


セレス達はラバールの川のほとりで木こり達と昼食にしていた。


「予定より随分ずいぶん早く終わったな。

 メシを食い終わったら木を運んでもらうからな。」


木こりのリーダーが言う。




と、その時だった。


「クファッナだ!た、助けてくれ!」


木こり達のいる一画から大声が上がった。


見ると、人の幼児ぐらいのサイズをした

緑色の大きなトカゲが五体おり、

その内の二体が一人の木こりの右腕みぎうでと右足にするどい牙でみついている。


近くの村人達がすぐにおので応戦しようとしたが、

リーチが短いせいもあって思うようにいかないようだ。


ダダダン!


セレス、ティナ、ステファンも武器をき、急いでそちらへ向かう。


さっそくまれている男を助けようとするが、

男がもがいているためねらいが定められない。


「お、落ち着いてください!」


セレスがまれている男の左肩ひだりかたつかんで大人しくさせようとするが、

みついているクファッナ達が身をよじってみ千切ろうとしているせいか、

かなり痛いらしい。


「痛え!痛えよ!死ぬ!死ぬ!」


まれている男は、

立ったまま右腕みぎうで右脚みぎあしをブンブンって、もがき続ける。


と、ステファンが男を後ろから羽交はがめにした。


「ナイス!」


セレスがすかさず右腕みぎうでのクファッナに


ズバ!


剣撃けんげきを食らわせ、


ドス!


と右足のクファッナの胴体どうたい串刺くしざしにして、

そのまま地面にけんき立てた。


「ギャギャ!」


右腕みぎうでみついていたクファッナのほうも、ひるんでドサリと地面に落下する。


風刃ウィンドブレード!」


ティナが落下したクファッナと周りで威嚇いかくしていた三体のクファッナを、

まとめて風のやいば攻撃こうげきする。


ズバズバズバズバ!


四体のクファッナ達はたまらず森のおくげ出した。


セレスに串刺くしざしにされたクファッナのほうは、


「ギャギャギャ!」


とまだ暴れている。


すごい生命力だ。


炸裂ブラスト!」


ドパァン!


セレスが特異技能ギフトでトドメをす。


木こり達から再びどよめきが上がった。




「あんたも精霊せいれい使いだったのか!」


木こりのリーダーがセレスのかたをバシバシたたく。


「我々は特異技能ギフトと呼んでいます…。

 そういう意味では、そこのステファンや他の仲間にも精霊せいれい使いがいますよ。」


とセレスが言うと、


「なんだって!?そりゃあたまげた!」


と木こりのリーダーは目を丸くしていた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







おそってきたクファッナ達を退治した一行は、

切った木を積んだ荷車をラバール川の下流に向かって運んでいた。


ラバール川の下流に、木炭を焼くためのかまどを作っているらしい。


荷車を使って運んでいるが、

これを引きながら山道を降りるのは、木を切る時以上の重労働だ。




先ほどたおしたクファッナの死体は、荷車にしばり付けてある。


「どういう意味があるのか?」


とセレスが聞くと、


「あいつら、仲間の血のにおいがするとげていくんだ。」


と木こりのリーダーが教えてくれた。




ラバール川の中流付近には、レイとベリエッタを交えた製鉄チームの姿があった。


セレス達を見つけると、レイとベリエッタが手をりながら近寄ってくる。




レイは興奮気味に、


「聞いてくれよセレス!

 さっきヴォイジドというヘビがおそってきたんだけど、

 あいつら川の中にいる人を、泳いでおそうんだ!

 ヘビが泳げるなんて初めて知ったよ!」


と言ってきた。


「ええ!?本当に!?」


セレスもおそろいてみせる。


「(そうか!考えてみれば、海ヘビというのがいるくらいだし、

  ヘビが泳いだとしても不思議ではないな…!)」


セレスは思った。


「でも、川の水がきれいだったからすぐ気づけたよ。

 毒ヘビらしいからちょっとこわかったけどね。」


とレイは続けた。




ベリエッタは、


「私は製鉄の工程というものに興味をかれたな。」


と川のほうを指差した。


見ると、川を分割するように堤防ていぼうのようなものがいくつか作られていて、

その堤防ていぼうに区切られた川の中で、

製鉄チームの人間がスコップのような道具を使って岩や石をくだいているようだ。


「火山から出て冷え固まった鉄鉱石を、ああやって細かくくだいて砂状にし、

 水に流されずに残る、重い鉄が多くふくまれる部分だけを砂鉄として集めて、

 それを製鉄に使うんだそうだ。」


次に川の下流のほうをベリエッタが指差すと、


「そして流されたほうの砂やどろは、さらに細かくなりながら下流へ流れ、

 そこで堆積たいせきして粘土ねんどになる。

 その粘土ねんどは木炭を焼くかまどの材料になるというわけだ。

 よく考えられていると思わないか?」


と言いながら腕組うでぐみをし、感心したようにうんうんうなずいた。


セレスは、


僕達ぼくたちもこれから下流のほうに行くところなんですが、

 そこに木炭を焼くかまどを作っているそうです。

 無駄むだが無いというか、島全体をうまく活用して製鉄を行っているんですね。」


とうなずく。


ベリエッタは、


「ニブロセルの刀剣とうけんというと、ソリアードにも愛用者は多い。

 その製作工程の一部を知れるというだけでも、非常に興味深いな。」


と何だかうれしそうにつぶやいた。


「(僕達ぼくたちが使っているけんよろいも、

  こういう工程を経て作られたのだろう。

  そう考えると、こういう仕事に従事している人達には感謝しかないな。)」


とセレスは思った。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







ラバール川の下流に到着とうちゃくすると、そこにはかまどがいくつもあった。


「この中に木炭にする木を並べたら木炭の準備は完成さ。

 今日はひとまず切った木の半分、

 やわららかい木のほうをこっちの倉庫で乾燥かんそうさせるから、

 荷車を中に入れて木を置いてくれ。」


木こりのリーダーの指示で荷車を移動させ、

後から切ったやわららかい木を荷車から降ろしていく。


「残りの半分は、西のビーブ川の河口にある造船所まで運ぶ。

 ちょっと距離きょりがあるが、日暮れまでには終わらせるぞ。」


木こりのリーダーの先導でセレス達は再び荷車を引いて歩き出した。







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カヴェド村と西のビーブ川の間の辺りで、

今度はミリア、ホセ、イヴァンを交えた狩人かりうどチーム達と出会った。


「なんだ?随分ずいぶんと早いじゃないか。」


と木こりのリーダーが狩人かりうどのリーダーに声をかけると、


「火の精霊せいれい使いがいてな。

 おかげであっという間に終わったよ。」


と言う。


ミリアのことだろう。


「こっちも三人も精霊せいれい使いがいたぞ。」


と木こりのリーダーが言うと狩人かりうど達も目を丸くしていた。




タッオテというのがどういう生き物なのか興味があったので、

セレス達は狩人かりうどチームの荷車をのぞいてみる。


手がヒレ状で下半身は魚のようになった、

なんだかずんぐりむっくりしたかわいい感じの生き物だ。


皮は遠くから見るとスベスベしているように見えるが、

近くでさわってみると、細い毛がびっしりと生えそろっているのが分かる。


頭部や首の辺りが焼けげているのが多いが、ミリアの攻撃こうげきによるものだろう。


鰭脚類ききゃくるいというやつだな。」


とミリアが横からセレス達に言った。


「海を泳いで魚を食べることに特化した哺乳類ほにゅうるいさ。

 冷たい海でも平気なように、密集した毛と脂肪しぼうで全身をガードしているんだ。

 その代わり、陸上では動きがおそくて簡単にることができる。

 見た目が愛らしいから、攻撃こうげきするのは心が痛んだよ。」


かたをすくめる。


「これ…、食べるの?」


とティナがおそおそる聞くと、


「ああ。ちょっとかたいがうまいぞ。」


狩人かりうどのリーダーが言った。


ティナは、


「私は魚とかでいいわ…。」


とげんなりしながら手と首を横にった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







夕方。


セレス達はビーブ川の河口にある造船所に到着とうちゃくした。


作りかけの小型の船が二隻にせきあり、

船大工であろう村人達がいそがしそうにトントンカンカン作業をしている。




「こっちの倉庫で木を乾燥かんそうさせるから、

 荷車を中に入れて木を置いてくれ。」


木こりのリーダーの指示で荷車を移動させ、木を荷車から降ろしていく。


その作業が終わると、


「おつかれさん!今日の仕事は終わりだ!

 村まで帰るぞ!」


木こりのリーダーが大きな声で言った。







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日も暮れたころ


村にもどると、会議室のある建物が何だかさわがしい。


レイやミリア達の姿が見えるが、

会議室に入ってすぐの辺りで立ち止まっている。


セレス達もひょいと中をのぞいてみた。


フランとアンネがテーブルに座らされ、

村人達が手を合わせて拝んでいる。


テーブルの上には、大量の料理や果物が乗っていた。




「あっ!セレス兄!」


フランが気づいて手をってくる。


拝んでいた村人達が一斉いっせいにこちらを向いた。


「…どうも。」


セレスはバツが悪そうに手を軽く挙げた。




「話は聞いたぞ。

 精霊せいれい使いばかりで旅をしとるそうじゃな。」


とアンネのとなりに座っているティティク村長が言うので、

セレス達は前のほうへ出て行き、


「はい。僕達ぼくたち八名がそうです。」


とセレスが言った。


それを聞いた村人達は、オオ…!とどよめく。




「特にそちらの黒髪くろかみのおじょうさん。

 まさか無くなった手足まで元にもどしてくれるとは…。

 本当に助かった。」


と、ティティクがフランに向けて深々と頭を下げると、

村人達も一斉いっせいに頭を下げる。




「ケガ人達もすっかり回復しましたから人手は足りますし、」

 船はもう差し上げてしまってもよいのでは?」


祈祷きとう師が提案する。




「うむ、そのことなんじゃが…。」


ティティクが耳の後ろあたりをポリポリかきながら、


「船はぜひ使ってもらおうとワシも思っておってな。

 むしろ、それだけでは悪いから…、

 良ければ再刃さいばをこの村でしていかんかね?」


と言った。


「さいば?それは何ですか?」


セレスがたずねる。


「簡単に言うと、お主らが今持っているけんやいばにもう一度火を入れるんじゃ。

 刀剣とうけん作りはワシらの得意とするところじゃからな。

 そのまま使い続けるよりも長持ちするようになるし、

 研ぎ直すから切れ味も復活するぞ。」


と言う。


セレス、レイ、ベリエッタ、ステファンは顔を見合わせ、

それぞれけんを差し出した。


ティティクが立ち上がると、

ステファンから順にけんさやからき、

そのやいばを根本から先に向かってながめていく。




「このけんは…、随分ずいぶんと使いまれておるなあ…。」


セレスのデュレオムを見たティティクが言った。


「父上の形見です。」


セレスが答えると、ティティクは少し表情をくもらせ、


「そいつはすまなんだ…。

 ならば再刃さいばもやめておくか?」


たずねた。


セレスは一瞬いっしゅん迷ったが、


「いえ、やってください。

 父も喜ぶでしょう。」


とうなずいた。


ティティクもうなずき、


「期間は明日一日もらえれば十分じゃ。

 村人総出で仕事させてもらうよ。」


と言い、四人のけんを預かった。




再び着席したティティクは、


「それからもう一つ。

 この精霊せいれい使いさん達に、キュロスに行ってもらおうかと思うんじゃが、

 どうじゃ?」


と言った。


それを聞いた村人達は再びどよめいた。


先ほどとはちがい、何だか不安そうな反応だ。


「キュロスと言うと、南にあるという川ですか?

 島では神聖な場所ということでしたが…?」


とセレスがたずねると、ティティクは、


「そうじゃ。会わせたい人間がおるでな。」


とうなずき、


「何かあれば責任はワシが取るし、異論は無いじゃろう?

 …ならば、さっそく今夜キュロスに行ってもらおうかの。

 食事が終わったら案内するわい。」


と言った。

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