第10話 ならば強く~座学の時間その二
日が暮れてしばらく経った
ようやくセレス達はソリアード国とプリシオン国の間に位置する関所、
ラトオンに
関所に
「
自分の
ミリアが身分を明かし、関所の兵士にそう報告したのだ。
幸い、関所には
ミリアとステファンが関所の何名かの兵士と
現場へと付き
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ニキータが死んだ直後、ニキータの毛皮をかまどの火に投げ入れてミリアは言った。
「いいか?
我々は
無関係ということにして、後のことは関所の者に任せるんだ。
先を急ぐ旅なんだ。お
このミリアの提案に、全員が従うことにしたのだった。
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ラトオンは、有事の際には
そこには、簡易的とはいえ
だが
残ったセレス達は関所の近くで、
半ば野宿のような形で鳥車をテント代わりに夜を明かすことにした。
つまり、座ったまま
「メイドに教えてもらった料理だからきっと
と、ティナが持ってきた野菜で作ってくれた簡単なスープと、
よく考えれば、早朝に家で朝食を食べたきりだった。
スープは、味付けはシンプルだったが、空いた腹にはとてもおいしく感じられた。
「ありがとう。とてもおいしかったよ。」
セレスがティナに礼を言うと、ティナは照れたような笑みを
夕食を取り終わったメンバー達は、話し合いの末、
念のためセレスとレイが交代で起きておくことに決め、
まずレイと他の者が鳥車へ入った。
夜風が心地いい。
だが、セレスの心は暗く重かった。
「(もしティナが来てくれていなければボリスに、
もしレイが来てくれていなければニキータに敗れていたかもしれない…。)」
セレスは両の
「(何をやっているんだセレスティアーノ!)」
両の
そのまま額をゴンとぶつける。
痛みと、ひんやりした
「(
セレスは思った。
「(父と同じ
自分が生まれ変わったような感覚、万能になったような気分を味わった。
『きっと
と。
だが、現実は何も変わっていないのかもしれない。
これでは父と母の
「(ならば強くならなければ。)」
セレスはその言葉を心に
「(きっとそろそろ…。)」
「セレス兄…。」
フランがやって来た。
「…
セレスの言葉にフランはうなずくと、無言でセレスに
セレスも妹の小さな体を
フランは小さな
「…セレス兄。私、
フランが
「…
セレスはフランを
父にも母にも親族はいなかった。
セレスとフランはもはや、
「(
それは、セレスの決意だった。
「…セレス兄は
フランが
「…
それは、セレスの正直な気持ちだった。
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夜が明けた。
セレスとレイが交代した
セレスと
「おはようのチュ~。」
と元気にセレスに向かって飛び
「(一日が始まった感じがする。)」
妹をいつものように左手で受け流しながらセレスは思った。
「念のため、私達の
無関係を主張するためには仕方ないが、
プリシオンにも
そこは他の国には
とミリアが言い、
セレス達はぞろぞろと連れ立って
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
セレスとフランが
かゆ状にアレンジしたものを朝食として
その朝食の席でミリアが、
「今後の進路について全員に意見を聞きたい。
ホセとイヴァンもだ。」
と地図を広げながら言った。
ちなみに、ホセとイヴァンは技能なしだった。
「進路として考えられるルートは二つある。
一つはプリシオンを北東に
もう一つは東に
まず、ミリアがプリシオンの領土を北東へ
「陸路の場合だが、プリシオンは北東のカレタテラ国とは、
険しい
関所のヴァサイは、切り立った山々の間を
敵に待ち
…つまり、
と北東に位置するヴァサイの位置をトントンと指で
次に、ミリアがプリシオンの領土を東へ真横になぞると、
「海路の場合は、待ち
一つは港があるエイレントの町。
もう一つは海上に出てすぐのどこか。
海上だと
…だが逆に言えば、陸から遠く
下船するまで場所は特定されにくいはずだ。」
とエイレントとその先の海上をそれぞれトントンと
「下船するのは、インシュラ国でもラーヤレーナ国でもどこでも構わない。
船を貸し切れば、乗客に
ミリアはそう言うと
「先に言っておくが、どちらのルートでも敵に
と
「父上達はどちらのルートを行ったんでしょう?ご存知ですか?」
セレスが質問する。
「おそらく海路だ。
今の時期は西風が強いし、陸路の
ミリアが答える。
「ならば我々も海路を行きましょう。」
セレスが力強く言った。
「それは速いからか?それともルザとレアの
ミリアがセレスをジロリと見ながら
「両方です。」
セレスもミリアを真っ直ぐ
「(そう…。
父達と同じルートを行けば、きっと父達を殺した
しばらく見つめ合うと、ミリアが
「他に意見は?」
と
「なら、海路を行くルートに決まりだ。
準備が出来たら出発するぞ。」
ミリアも力強く言う。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「鳥車の割り当ては昨日と同じでいいよな?」
とのミリアの一言で、各鳥車のメンバーは昨日と同じだ。
運転はイヴァンとホセに任せるが、
その横にステファンとレイがそれぞれ
という点でも同じだった。
「さて、今日も座学といこうか。
前回は…、確か人族と
ミリアが鳥車に乗り
二人はうなずく。
「じゃあ質問だ。
三百年前にはまだ人族と
その戦いに
ミリアが
「
フランがセレスの顔を見ながら答えた。
「その通りだな。
だが、実情はもう少し複雑さ。」
ミリアが
「人族同士の戦争というものは、数と戦略の勝負だった。
数は多いほうがよく、
戦略で味方の損害は小さく、敵の損害は大きく、
という具合にね。
もちろん
多勢の前には
弓や
なんなら大型の
ミリアが
「ところが
基本的に個々人の強さで階級が決まっている実力主義。
一番強い
ミリアが今度は
「そして人族は夜目が利かず、
他方の
そんな二つの勢力がぶつかるとどうなるか?」
ミリアが両の
「答えは、
と言った。
「陽の光があると、人族が数に物を言わせて一気に
戦略だって人族のほうが、はるかに上だったんだ。
ところが、年中
あるいは夜になってしまうと、
それに一対一に持ち
この
ミリアがぶつけた
「しかし、前線の
しかも夜に
そんな
ミリアが
「そんなある時、今で言うソリアード国とプリシオン国の間。
ちょうど今いるグラスルド領の辺りだろう。
夜なのに、
ミリアが
「それが勇者様?」
フランが目を
「そういうことだ。」
ミリアがうなずいた。
「初代の
その
月明かりしかなくても、その
ミリアが右の人差し指で
「そのトレトスの
ついに
そしてトレトスは、その内の一人と相討ちになった。」
ミリアが今度は左の人差し指をピンと立て、右の人差し指とぶつけた。
「知ってる。
でも、
フランはエッヘンといった感じで
「その通り。」
ミリアが再びうなずくと、右の中指を立て、立てていた人差し指とくっつける。
「
それを見た
…おっと、元々青いか。
フフフ…。」
ミリアが笑い、
つられてセレスとフランも笑い出した。
「
『殺しても復活するなんて、勝てるわけがない。』
と、全員が文字通り
幹部も
ミリアが今度は
「そして、
そこで一人逃げなかった最強の
つまり
見事勝利したというわけだ。」
再びミリアが左手の人差し指を立てて、右手の人差し指と中指をそれにぶつけ、
左手を場外に
「これにより、
トレトスの働きによって人界の社会システムや制度が
人族と
そして現在に至る。
…と、ここまではいいかい?」
ミリアがセレスとフランの顔を
二人はうなずく。
「では、今の話を聞いてどう思った?
何か不明点や疑問点がないかい?
セレスも考えてみてくれ。」
とミリアが言う。
「うーん…?」
セレスとフランは二人
「そうですね…。
勇者はどうやって立ち向かって勝利したんでしょうか?」
とセレスが口を開いた。
「ん。それも一つの疑問点だな。」
ミリアがアゴに手を当てながら、うなずいた。
「当時、
住処にしていたらしい。
つまり月の光はおろか、陽の光だってろくに届かないはずなんだ。」
ミリアが続け、
「だが、そんなところに勇者は聖女と二人だけで
『勝利した!』
と
これは記録が残っているから確かだ。」
と言った。
「セレス兄みたいに、火を使ったんじゃない?」
今度はフランが口を開く。
「そうだな。その可能性は高い。
だが、勇者は前座である幹部と引き分けていたんだぞ?
それより確実に強いはずの
十分に実力を発揮できなければ負ける可能性のほうが高そうだ。
たいまつや小さい
何かしら対処をしていたはずなんだ。」
ミリアがアゴに手を当てたまま首をひねる。
「それに、疑問点は他にもあるんだ。
さっきから
とミリアが言った。
「そういえば…。」
セレスとフランも首をひねった。
「(確かに。
おとぎ話も歴史書もトレトスとニーヴェの名前はあっても、
それどころか
「だからもしかしたら、
そもそも
ミリアが言うと、
「えっ!?」
セレスとフランが同時に
「考えられる可能性は四つだ。
一つ、
二つ、
三つ、
四つ、
ミリアが四本の指を立てると、順に折って数え、
「後者二つの場合、本物の
と最後に折った二本の指を再び立てた。
「それはちょっと有り得ないんじゃあ…。」
フランが言うが、セレスは、
「いや確かに…。」
とアゴに手を当てた。
「
セレスがフランを見る。
フランもアゴに手を当てると、
「あっ…。」
と言って固まる。
「ボリスの肉体は、全身が灰になって
骨しか残らなかっただろう?」
とセレスが言った。
ミリアも、
「そう。私はルザの
だが、記録には
『首』
と確かにあった。
『
じゃないんだ。」
と、うなずいた。
「つまり、
単に物理的に
ミリアの言葉に、セレスとフランは何も言えなかった。
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