第55話ホームレスの野望とそれを阻むもの&今までのあらすじ

 そして、両公国併合の準備は順調に進んでいた。俺は、執務をしながらそちらについても準備を整えていく。


 両公国併合後、周辺領邦のほとんどもこちらに恭順を示すはずだ。これで大ヴォルフスブルクは完成する。大ヴォルフスブルクは国力だけなら、マッシリアを追い抜きグレア帝国にすら匹敵する。


 これで大陸の勢力はまるで違うものになるだろう。こちらが独占している航空魔導士の技術力も考えれば、覇権国家と言えるほどのものだろう。


 強力な覇権国家を建国し、勢力均衡から大陸内の平和を実現する。

 覇権国家誕生前には紛争が発生するのが歴史の定跡だ。だからこそ、作戦課長として次の戦いに備えなくてはいけない。


 ボルミア公国が原始的ながら航空魔導士を誕生させていた。まだ、自分の魔力に頼ったもので、魔道具を使ったこちらとは技術力で雲泥の差がある。この技術力の差は埋めることができないくらいの差があると考えていいだろう。


 他国が航空魔導士を偵察や小規模な航空攻撃位にしか使えない。だが、俺たちは強力な爆撃能力と継戦能力、航続距離を誇っている。例えるならば、他国が第一次世界大戦前程度の航空戦力で、こちらが部分的に第二次世界大戦クラスの航空機能力を持っていると考えればいい。さらに、魔道具の改良は進んでいる。


 この前の紛争での問題点を改良してより良いものを作るんだ。そうすれば、さらに技術力は伸びる。


 俺的にはこのままドクトリンを改良しエアランドバトルのようなものまで導入していきたいと思う。エアランドバトルとは、冷戦期にアメリカが考えた戦略だ。数的に不利であるアメリカ軍がいかに数的有利にあるソ連軍を陸上兵力と航空兵力の協力の下で打ち破るのかを体系化したものだ。


 列強国と戦うには、陸上戦力においては数的に不利なヴォルフスブルクにもそれが応用可能だと考えている。


 それらの理論をまとめるために、いつものように軍務省で仕事をこなしていると、クリスタが慌てた様子で部屋に入って来た。


「大変だ、クニカズ……すぐに女王陛下の元に行ってくれ。グレア帝国から使者がやってきたようだ。大ヴォルフスブルクについて、至急協議をしたいと……」


「ついに来たか……」


「ついに? まさか、お前は予測していたのか? あの人がここに来ることを?」


「まあな」


 ついにゲーム中盤の大イベントが発生した。

 ヴォルフスブルク会議。


 今後の国際情勢をガラリと変えてしまうほどの影響力を持つイベントだ。ヴォルフスブルクにとってはマイナスの効果になることが多いが……


 ※


(今までのあらすじ)

山田邦和はニートのため兄貴と喧嘩し、実家を追放されてしまう。

そして、ホームレスとなった彼はダンボールの妖精に導かれて、ゲーム世界に転生した。

妖精の加護を受けて、最強の魔導士となったクニカズは最弱国ヴォルフスブルクに仕官して、生き残りを図る。


大国・ローザンブルクの謀略に対してクニカズは空飛ぶ魔導士隊で対抗し、大番狂わせを起こす。クニカズの活躍によって、英雄・ニコライを敗死させ、大国・ローザンブルクとの講和を達成したクニカズは女王直属の部下として辣腕を振るう。


クニカズは、盟友であるクリスタと共に、革命的な軍事理論を完成させて、ヴォルフスブルクの近代化に尽力した。


1年後、周辺領邦のボルミア・シュバルツ両公国が、大国化していくヴォルフスブルクに焦り宣戦布告をしてきたが、クニカズ率いる航空魔導士隊が防衛線を無力化したことで敵国主力軍は壊滅した。


ボルミア・シュバルツ両公国はヴォルフスブルクに併合され、ついに国力が列強国に匹敵する新・ヴォルフスブルクが誕生しようとしていたが……


それを許さない大国は次の一手を打ち出してきた。

ゲーム世界の中盤で、"ヴォルフスブルク会談"と呼ばれる世紀のイベントは目前に迫るのだった。


(登場人物紹介)


クニカズ

階級:少佐→中佐→大佐

役職:ハ―ブルク要塞作戦参謀→軍事参議官室長兼第1航空魔導士隊隊長→軍務省作戦課長兼第1航空魔導士隊隊長兼中央軍主席参謀(航空)


アルフレッド

階級:准将→少将→中将

役職:女王親衛隊隊長→ハ―ブルク要塞司令→軍務省次官→ボルミア―シュバルツ方面軍司令(臨時)→軍務省次官兼航空魔導士総監


クリスタ

階級:少佐→中佐

役職:マンル地方軍後方参謀→軍事参議官室室長補佐兼第1班班長→軍務省作戦課長補佐(後方部隊担当)


リーニャ

階級:少佐→中佐

役職:軍務省法務課係長(国際法担当)→ハ―ブルク要塞法務参謀(臨時)→ワル―シャ講和会議参加武官→軍務省法務課係長(国際法担当)→軍務省作戦課長補佐(戦力担当)


・カーネル=ローザンブルク(ローザンブルク帝国第2皇子)

知略:71

戦闘:78

魔力:73

政治:82

スキル:人格者・建設スピード上昇


ローザンブルクの第2皇子。

非情にバランスが良い能力で、次期皇帝の有力候補。

前線・政治どちらでも活躍できる能力値であるが、器用貧乏。


珍しいスキル人格者持ちで、彼が率いる部隊は士気が上がりやすく裏切り者が発生しなくなる。

皇帝になれば、部下の忠誠度が高くなる。


・ロバート=ローザンブルク(ローザンブルク帝国皇帝)

知略:82

戦闘:59

魔力:65

政治:88

スキル:腹黒政治家・権謀術数

ローザンブルク皇帝で、先代が作り上げた大帝国を守る老人。

弟たちを謀殺することで、帝位について梟雄。

前線で兵を率いることは苦手だが、裏工作は怪物的にうまい。

ただし、シナリオ1の時点で病気がちで、余命は幾ばくも無い。


ライツ軍務大臣(大将)


知略:67

戦闘:35

魔力:51

政治:71

スキル:大器


人格者として有名だが、能力値はピンとこない。

大器というスキルで、自軍全体の士気と忠誠、防御力を底上げするので、大臣職に就かせてあとは引きこもるだけでゲーム上は忘れ去られることが多い。


士官学校の席次は68番、大学の席次は71番。

成績からもわかるように、エリートとは言い難く、常に傍流のポストを歩んできた。

本来であれば、ギリギリ少将に上がって退役すると思われていたが、人格者で敵が少なく部下の使い方がうまかったため、必要な時には結果を残して軍のトップの座を射止める。


昼行灯ひるあんどんなどと呼ばれている。大酒飲みでウィスキーを好む。

部下の面倒見が良くて自由にやらせるタイプなので、信頼はされている。

人間的な魅力はあるがゲーム的にはあまり評価されない将軍。


・グルーダ将軍(ボルミア公国)

知略:54

戦闘:70

魔力:61

政治:50

スキル:統率


ボルミア公国の猛将。ゲームではパッとしない数字だが、ボルミア公国内では最も戦闘向きの能力値。

ローザンブルク帝国の同盟があるため、ヴォルフスブルクには強気で交渉に臨んでいたが、ローザンブルク撤退後は恐怖心に駆られて、最悪の決断をしてしまう。


(用語解説)


・要塞の無用化

 戦車の登場や航空機の発達で、簡単に動くことはできない要塞は孤立化しやすくなり戦略的な価値が大きく低下していった。作中でも、航空魔導士の影響で固定化されやすい要塞は徐々に形骸化している。


・CIWS

 現代の軍艦に設置されている機銃。近接防御火器システムと言われる。コンピュータ制御で動き、毎分数千発の弾幕を作り、ミサイルを撃ち落とす。


・陰謀

 意外と陰謀によって歴史が動くことも多い。日本史では「満洲事変」などがとくに有名。世界史的にはドイツのビスマルクがフランスと開戦するために電報を偽装した「エムス電報事件」や、第一次世界大戦中にドイツがロシアに対して社会主義者のレーニンを送らせ「ロシア革命」を誘発させるなどの事例がある。


・ルーデル閣下

 第二次世界大戦において人外ともいえるほどの戦果を挙げた爆撃機パイロット。


・日露戦争中の「旅順要塞攻防戦」

 要塞攻防戦の中でも最も近代的な戦いの一つ。機関銃などが発達し、防衛側が有利となり、ロシアの要塞を攻める日本軍に甚大な被害をもたらせた。


・飽和攻撃

 敵が処理できないほどの数の攻撃を仕掛けて、防御を飽和させる攻撃。米空母を撃破するために冷戦期に社会主義陣営で発達し、現代でも中国の基本的な戦略になっている。


・航空支配(エアドミナンス)

 圧倒的な性能を誇るF-22を開発する際に、持ち出された概念。圧倒的な性能を持つ戦闘機で、空を支配すること。F-22戦闘機の性能は圧倒的で、訓練では実戦で撃ち落とされたことがないF-15と戦い、1機の損害も出さずに144機を撃破した。航空機の世界では技術力が最も重要であり、戦場において最も技術力の差がでる分野でもある。


・クニカズの前にクニカズなく、クニカズの後にクニカズなし

 元ネタは、陸軍の秀才・永田鉄山を称した「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」


・軍務省の役職の大まかな階級


大臣(元帥or大将)

次官(中将)

局長(少将)

課長(大佐)

課長補佐・室長(中佐)

係長・班長(少佐)


※旧軍の職階や国家公務員の階級を参考に著者が勝手に作成したものです。


・マティーニを。ジンではなく、ウォッカで。オリーブではなくレモンを添えて

 有名なジェームズボンドの好きなカクテルの注文の仕方。


・鎌倉時代末期に発生した赤坂城の戦い


 幕府打倒のために挙兵した伝説的な英雄・楠木正成くすのきまさしげが、鎌倉幕府軍と山城である赤坂城で激突した。500程度の兵力で山城に籠城した楠木軍を幕府軍は1万人で包囲したが、地形を有効活用した楠木軍に翻弄されて幕府軍は1000人以上の被害を被ってなおも力技では陥落させることができなかった。この功績で、楠木正成は日本屈指の名将という評価を得た。


・ドッグファイト。


 戦闘機同士が空中で行う格闘戦のこと。お互いの後ろに陣取るために動く行動が犬の喧嘩にみえることから。

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