第33話ホームレス伝説になる(番外編・後世の歴史家視点②)

 クニカズ将軍の功績について、親友であり共に帝国の双璧とうたわれたアルフレッド将軍はこう語る。


 ※


 帝国歴元年のアルフレッド将軍のインタビューより抜粋


(ヴォルフスブルクの中興について、最も役割を果たした人はだれかという質問に対して)


「まちがいなく、ヴォルフスブルクの再建はクニカズの手腕によるところが大きいよ」


『しかし、クニカズ将軍はあくまで閣下の参謀役に過ぎないと言えるのではありませんか』


 インタビュアーがそう聞くと将軍は苦笑いを受かべていた。


「とても意地悪な言い方だね、それは。たしかに、クニカズとは上司と部下という関係の時もあった。キミが言いたいのは、ハ―ブルク戦争のことだろう?」


『はい。あの時、閣下は要塞の司令官として……クニカズ将軍は要塞の一参謀として閣下を補佐していたと記憶しています』


「うん、関係性ならばそうだよ。クニカズは、あの時は確か軍事大学を卒業したばかりの少佐だったはずだね。要塞の参謀としては末端だった」


『であれば、ハ―ブルク戦争におけるクニカズ将軍の役割は、歴史家が考えるよりも限定的だったと考えた方が……』


 親友を否定してしまったインタビュアーに将軍は穏やかながら少しだけ怒気をこめた笑顔で言い放った。


「おそらく、あなたはクニカズと会ったことがないからそう言えるんだよ。私はあくまで軍人だ。だが、クニカズはそうじゃない。彼は、戦場において優秀な指揮官であり、最強の魔術師であり、そして偉大なる戦略家であり、常に戦争を有利に終わらせようと考えていた政治家でもあり、発明家でもあった。この感覚は、戦場で彼と一緒にいないと伝わらないものだよ」


『……それほどまでとは』


「ハ―ブルク戦争のときだってそうだ。私は常にクニカズの意見を聞き、その案を実行に移すだけでよかった。軍事革命を起こした空中浮遊魔力による空からの強襲、一騎打ちによるニコライ=ローザンブルク中将の撃破、補給基地を空爆したことで発生したローゼンブルク陸軍の崩壊。ほとんどが彼の功績だよ。私は彼によって英雄に祭り上げられたにすぎないのかもしれない」


『それはさすがに……』


「いや、そう思うよ。彼と相対するだけで、どんな軍人でも自信を失う。クニカズの前にクニカズなく、クニカズの後にクニカズなし。あの言葉は本当にうまくクニカズの才能を現している」


 そう言って将軍は自嘲気味に笑いながら、手元にあったウィスキーを口に含んだ。

 それはまるで、親友との若かりし頃を思い出しているような表情だった。

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