第14話ホームレスの罠
「クニカズ大尉! 敵軍の進軍がストップしました! 作戦成功です」
リーニャ大尉が喜んで報告してくれる。
「よし。今のうちに迎撃の準備をしてくれ」
「すごい大胆なさ、作戦ですね、クニカズ大尉っ! まさか、大量の軍旗と少数の兵力だけで、大軍が突然目の前に出現したかのように偽装するなんて」
「ありがとう、アリーナ大尉。俺の世界では昔からある古典的な心理戦だよ。ほとんど労力をかけずに、時間を作り出せればいいんだ」
「まったく、戦場のペテン師だな、クニカズは」
クリスタは笑っている。
旗を使った偽装工作で有名なのは、上杉謙信と武田信玄がぶつかった第4次川中島の戦いだ。
武田軍の別動隊を使った包囲作戦に対して、上杉軍は旗などをもといた場所に残しその場にいるようにして武田軍主力に奇襲をかけたらしい。
まぁ、それは後世の創作説も根強いんだけど。成功すれば問題はない。失敗しても、兵士たちはすぐに逃げられるしあまり意味のない旗を失うだけだ。
そこで敵陣営の声が聞こえてきた。
※
『ポール大佐、どうしますか。無視するか、それとも攻めあがるか……』
『ううむ』
『早くしなければ、敵に包囲される可能性もあります』
『ええい、あれはきっと異世界の馬の骨の罠だ。あいつらは、僕たちをおびき寄せるために、何か仕込んでいるに違いない。ここは全軍、第一種警戒態勢で待機だ。奴らと我慢大会で、しびれを切らして攻めてくるまで待つんだ』
※
完全にはまっていた。俺たちの陣営では、みんなが笑い合った。
うまくいきすぎてるな。頭でっかちの指揮官とは聞いていたが、誰もフォローに入らないのか。
ポール大佐が戦略の最高権威ということも影響しているのかもしれないが……
やはり、指揮官の個人的な能力だけに頼るのは危険だよな。
リーニャ大尉が俺の耳元で小声でささやく。
「クニカズ大尉。これで数日は、ポール大佐の軍はあそこにくぎ付けにされます。今のうちに陣地を構築するとして……本当にこんな簡易な陣地で騎兵を食い止めることができるんですか?」
「いや、陣地だけでは無理だろうな」
「えっ!?」
「この陣地はあくまで対抗手段の補助に過ぎないんだよ。俺の本命は、別のところにある。戦場では、相手の意表を突くことと常に有利な状況を作ることが大事なんだ。だから、騎兵の攻撃力を上回るものをぶつけてやる」
俺はとある兵科を意味する駒をもって彼女に渡した。
魔導士を意味するビショップと砲兵を意味するルークだ。
「今日、俺はここに革命を起こす」
※
結局、偽装工作で、ポール大佐は2日間ほど時間を食いつぶした。
俺たちが高台に補給している様子は一切見られなかったことからやっと気がついたようだ。
ただし、大佐軍が高台に突入した時は、すでに誰もいなくて旗しか残っていない状況だったが……
『くそ、やられた。すぐに進軍を再開だ。このような卑怯な工作をする敵など恐れるに足らない。一気に攻め潰す!』
大佐は悔しそうに叫んでいた。よしよし、冷静さを失いつつあるな。こっちの土俵に上がってくれれば最高だ。
「敵軍の侵攻スピードが早まります! 予定のCルートに向かっている模様!」
リーニャ大尉は冷静に状況を分析する。
Cルートまで確定すれば、あとは一直線だ。
アムル平原。
そこで俺たちはぶつかり合うことになる。
俺たちのチームメンバーは頷いて、アムル平原に全戦力と物資を集めた。
すでに、あうんの呼吸みたいなものができ始めている。
いいチームになったぜ。これで俺は作戦指揮に集中できる。
※
そして、両軍はアムル平原に布陣した。
ポール大佐は突撃能力が高い魚鱗の陣形だな。名前の通り、魚のうろこのような陣形で全体を見ると三角形のように布陣し、敵の最前線を食い破ることを目的とした陣形だ。騎兵の攻撃力を生かすつもりだな。
それに対して、俺たちは鶴翼陣形で布陣した。これは鳥が翼を広げた姿に似ていて、包囲をおこないやすい。ただし、各所の防御力がそこまで高くなく、食い破られると連鎖的に戦線が崩壊しやすい。
つまり、この戦いは食い破るかそれを防げるかの勝負だ。
俺たちは、鶴翼陣形の守備を補強するために馬防柵と空堀を作った。これは長篠の戦いを参考にしている。今回の作戦は少しでも時間を作ることができればいいからな。
両軍は布陣して、にらみ合いを続けている。もうすぐ開戦だ。
―――
人物紹介
アリーナ大尉
知略:56
戦闘:12
魔力:49
政治:72
スキル:建設スピード上昇
リーニャ大尉の士官学校からの友人。貴族階級(男爵家)出身の女性士官。
リーニャ大尉が気が強い分、彼女は気弱で優しい。2人1組でバランスが取れているとも言われている。軋轢を作りやすいリーニャをうまく補佐している。
ゲームではシナリオ2以降に登場する。
前線向きとは言い難い能力値だが、貴族階級出身のため政治能力がそこそこ高く、スキルの建設スピード上昇もあって内政官としてはそこそこ優秀。砦建設や城壁の改修など建設部門で活躍する。俗にいう、本拠地でのお留守番要員。
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