ダンボール無双~実家を追放されたホームレスの俺が、後輩属性のダンボールの妖精に導かれて転生しました。前世知識を使って鬼畜ゲーム世界で英雄やってるけど質問ある?~

D@ComicWalker漫画賞受賞

第1話ホームレスとダンボールと異世界転生

 俺は山田邦和。31歳の独身ニートだ。俺は今生涯で一番の危機を迎えていた。


「いい加減にしろ、このニートが!」

 兄貴が激怒している。それもそうだろうな。ニートを続けて6年。家事も仕事も一切せずに、ずっと引きこもっていた。趣味の歴史シミュレーションゲームばかりやって、ゴロゴロしている現状についに家族がキレたんだ。


「やめろ、パソコンだけは……」

 俺の大事なデータが入っていた箱は、アニキによって粉々にされていく。モノが散乱していた部屋がさらに壊れていった。


「おやじが病気で大変な事になってるのに、お前はいつまで遊んでいるんだ!!」

 こうして、俺はすべてを失った。


 ※


「冬に家を追い出さなくてもいいじゃねぇか、くそアニキ」

 俺はそう言いながらも、行く当てもない道を歩いている。兄貴は、手切れ金とかいって10万だけ差し出したが、こんな金じゃどうしようもできねぇよ。前金も敷金も保証人もいないから部屋を借りることもできない。ネカフェ難民も考えたが……


 10万じゃすぐに底をつくのはわかっていた。


「そうだ、掲示板に書いてあったよな」


 たしか、「ホームレスだったけど、質問ある?」っていうスレタイだったはずだ。一時期流行った、質問ある系のまとめサイトで読んだんだよな。

 そこでは、スレ主がホームレス時代のサバイバル術をおもしろおかしく書いていた。


 こうなったらその知識だけが頼りだ。俺は、必需品を買うために近くのスーパーに入った。


 ※


 スーパーから出て俺は河川敷に移動する。たしか、橋の下は割と安全らしい。大雨の時に注意だったはずだが。

「よし、これだけあればとりあえずなんとなるだろ!」


 スーパーを何件かはしごして、食料品と無料でもらえるダンボールをたくさんかき集めた。これで最低限、寒さはしのげるはず。

 

 ※


「そんなわけなかったよ」

 冬はダンボールでも寒すぎる。普通に貫通する。これで野宿なんかしていたら一瞬で死ぬ。無理無理。

 冬将軍に負けたナポレオン軍の敗残兵になってしまう。

 飢えと寒さってこんなに辛いのかよ。まるで、シベリアの大地みたいだ。


 だめだ、寒すぎて眠れない。そもそもここは風をしのげるものがない。くそ、ビニールシートもやっぱり必要だったか……

 こうなったら、ダンボールを燃やして暖を取るしか……


 いやだめだ。ここはバーベキュー禁止だったはず。こんなところで火でも起こそうものなら雑草に燃え移って枯草火災にでもなりかねない。

 さすがに通報されて警察のご用にでもなったら……


 兄貴に殺される。


「どうすればいいんだよ、これからァ!!」


 本当だったら、俺は今ごろ、『マジックオブアイアン5』で遊んでいたはずなんだ。珍しいファンタジー世界を舞台にした異世界歴史シミュレーションゲームで……

 洋ゲーだから自分でいろいろカスタマイズして、一生遊べたはずなのに。


 なんで橋の下で凍えなくちゃいけないんだ。ちくしょう、ちくしょう……


「人生をやりなおしてぇなぁ」

 俺はしみじみとつぶやいた。できることなら、青春時代に戻ってさ……

 カワイイ後輩に懐かれるとか最高だよな。それでさ、なんか才能があって、みんなが俺を必要としてくれる。

 挫折ばかりの人生だったけど、本当はそんな風に生きたかった。


『その願い、私が叶えてあげましょう!!』


 女の子の声が聞こえた。でも、周囲を見渡してもどこにも人はいない。


『ちがいますよ、ここですよ。あなたの手の中にいます』


「えっ!?」

 まるで脳内に直接語りかけているかのように思えた。自分の手を見ると、持っていたダンボールが光り輝いていた。

 なんだよ、これ。


『いまから、あなたを大好きなゲームの世界にご招待します。山田邦和さん! そして、大活躍してくださいね』

 女の子の声は大きくなって、ダンボールの光は俺を包んだ。


 そして、目が覚めた俺が次に見たのは……


 ※


「ここは?」

 土の上で目が覚める。

 すごく青い空だ。風も気持ちがいい。そして、土のにおいがした。


 なんだか、様子がおかしい。俺が顔をあげると、そこには1台の馬車が走っていた。うん、馬車??

 馬車の中には、まるで絵本から出てきたかのような甲冑かっちゅうを着た剣士と紫のローブを着た魔法使いみたいな女性が乗っている。コンクリートに囲まれていたはずの世界は、土だらけに変わってしまった。


 なんだよ、ここ。まるで、異世界じゃ……


 錯乱状態の俺は、間違えて足を水たまりにつっこんでしまった。慌てて足を出そうとして、俺は動きが止まる。水に映った俺の顔が変だったから……


「これって……」

 道路にできた水たまりに自分の顔が映る。明らかにおじさんの顔じゃない。ひげは薄いし、せている。中学生くらいの時の自分の顔がそこにあった。そして、なぜか髪の毛は金髪だった。一回も染めたことないのに。


「俺、若返っているのか!? まさか、本当に……」

 水たまりの俺は完全におじさんではなかった。さっきの橋の下での不思議な体験を思い出す。


 ※


「どうすればいいんだよ、これからァ!!」


「人生をやりなおしてぇなぁ」


『その願い、私が叶えてあげましょう!!』


『いまから、あなたを大好きなゲームの世界にご招待します。山田邦和さん! そして、大活躍してくださいね』


 ※


 まさか、これあれか? よくアニメやライトノベルとかで見る……

 

 異世界転生ってコト!?


 いや、完全にそれだ。だって、俺は若返っているし、通行人の身なりは明らかに日本人じゃない。さっきまで近くにあったコンクリートジャングルは完全に消滅しているし……

 そして、さっきの不思議なダンボールだ。寒さで死にかけていたから、幻聴だと思ったけど……


 いや、もしかしたら俺はあの時、凍死していてここは死後の世界の可能性だってある。

 くそ、情報が欲しい。間違いないここは異世界だ。そう確信させるだけの証拠がそろっていた。


 胃が痛い。どうする、いきなり誰も知らない異世界に飛ばされてどうやって生きていけばいいんだ。


 さっきよりも状況が悪化しているぞ!? だって、完全に身よりはなくなったし。兄貴に土下座して許してもらうことすらできないんだ。日本のホームレスならまだ、セーフティネットを使って再スタートできるかもしれないけど……


 異世界には、社会保険とかあるわけがない。文字通りのホームレスだ。そもそも、俺はあの日本で凍死するような男だぞ!? 


「そこの少年、大丈夫かい?」

 俺は絶望して、地面に突っ伏すと、後ろから男の人の声が聞こえた。


 ※


「どうしたんだい、少年? なにか苦しいのかい?」

 顔を見上げると、そこには法衣に包まれた優しそうな神父様がいた。ひげを生やした50代くらいのやせている黒髪の男の人。


「あのここはどこですか。なんか目が覚めたら、突然ここで……すげぇ、胃が痛いし」

「ここはヴォルフスブルク王国のベンル近くだよ」

「えっ、ヴォルフスブルク!?」

 その名前に聞き覚えがあった。俺が大好きなマジックオブアイアン5の国の名前だ。

 マジックオブアイアン5とは、仮想の異世界の大陸で自らが王となり世界と戦っていくシミュレーションゲームだ。内政・外交・戦争を堪能できる無骨な洋ゲー。難易度はかなり高くコンピュータ相手でも小国なら簡単に滅亡してしまう。国内外の有志が、modという改造データを作ることが許可されていて、シナリオや内部データを自由に改造できる拡張性が高いゲームで俺もドはまりしていた。


 そして、ヴォルフスブルク王国は……

 最弱のマゾ国家として、(ある意味)恐れられている。

 シナリオはいくつかあるんだが、特に年代が最も古いシナリオ1のヴォルフスブルク王国は絶望的としか言いようがない。


 君主の女王様は優秀だけど、兵力は少ないし、農業に使う土地は貧弱。おまけに周囲は大国に囲まれて、口実ができれば即開戦して併合される。シナリオ1のヴォルフスブルク王国で3年間生き残るだけでも、ゲームでは超上級者。仮に、大陸統一ができたら神といわれるほどの難易度。


 ちなみに、シナリオ2以降のヴォルフスブルク王国は最強国家に変貌しているんだけどね。


「神父様、日本っていう国は知っていますか?」

「にっぽん? すまない、わからないな」

「そうですか。俺、ちょっと記憶が混濁しているみたいで。山田邦和という名前と日本にいたことくらいしか覚えていなくて」

 ここで俺はうそをついた。下手なことを話して、敵国のスパイとか言われたらやばいからな。


「なんだと! クニカズ、それは災難だったね。もしかしたら。悪魔系の魔物の呪いや何かの魔術の影響かもしれないね。よかったら、ぼくが調べてあげよう。教会になら呪い払いのマジックアイテムがある」

 俺は、その言葉を聞いて飛び上がるように喜んだ。身寄りができるかもしれない。さすがに、この広い世界に一人だけ取り残されても困る。この優しそうな神父様なら頼りになるだろうし。


「でも、ご迷惑ではありませんか?」

「子供が何を遠慮しているんだい? そんな状況なら、今日帰る家もないだろう?」

「はい、そうなんです」

「仕事の手伝いをしてくれれば、ご飯くらいは出してあげるよ」

 やっぱり、神だ。この神父様は、本当に徳が高い。

「甘えさせてください。本当にありがとうございます」


 こうして、俺の異世界生活は始まった。


 ※


「どうだい、回復魔法は?」

 神父様の詠唱で俺の体は、温かいオーラに包まれた。ストレスで痛かった胃の不快感はほとんどなくなり、力がみなぎってくる。


「すごい、これが魔力かぁ」

 俺は感動していたが、神父様はがっかりしていた。


「すまないね、クニカズ。あんな大きなことを言ったのに、結局、君の記憶障害は直せなかったよ。これではベンル大主教の名前負けだね」


「えっ、神父様って大主教様なんですか!!」

 大主教様といえば、いくつもの教会を束ねる大物のはず。管区の責任者だ。


「そうだよ、でも、まさかここまで強い呪いとは……」

 大主教様、ごめんなさい。衣食住が欲しくてうそをついてました。懺悔したいです。


「そうだ、魔力を測ってみよう。特徴的な魔力ならば、君がだれかわかるかもしれない」

 ちょ、待てよ。

「あの大主教様、俺って魔力に自信がないんですけど」

「えっ」

「生まれてから一度も魔力を使ったことがないんですよ。使い方も何故か忘れてしまってて……」

「そんなばかな……この世界では、ひとは大なり小なり魔力を持って生まれてくる。大丈夫だ。魔力の使い方なんて、教わらなくてもわかるよ。このアイテムを強く握ればいい」

 そういって、俺をやさしく諭す。いや、そんなこと言われても……俺は中身は単なる31歳のしがないホームレス。


 まさか、いろいろとこじらせて30歳まで●●なら魔法使いになれるっていうあれか??

 そんなわけ、あるかぁ。


 俺は黒い箱を力強く握った。箱が青色に光り、周囲を照らしていく。

 なんだよ、これ。爆発とかしないよな。


「これは……まさか……」

 大主教様が驚く。光は部屋全体に広がり、しまいには教会全体に達した。


「大主教様、これ大丈夫ですよね。爆発とかしませんよね?」

「まさか、生きている間に、伝説と会えるとはな……」

「伝説、何を言っているんですかぁ、大主教様!! 助けてください」

「ああ、すまなかった。つい、感動していたんだよ」

 そう言って、俺の手元からマジックアイテムを離すと光は収束する。なんだったんだよ、あれは……


「クニカズよ。この世界には、伝説があるのじゃ」

「伝説?」

「そうだ、伝説じゃ。救国の英雄が現れる予言でもある。


ヴォルフスブルクが窮地に陥った時、異界より神の使いが顕現する。その者は、巨大な青い魔力を持って、青き救国の英雄となるだろうという伝説じゃな」

 よくある話といえばよくある話だ。ロールプレイングゲームや異世界ラノベとかでも見たことがある。


「まさか、俺が……」

「そうじゃ。おそらく、異界から移動する時のショックで何らかの記憶障害になってしまったのだろう。まさか、本当に青き英雄が顕現するとは……」

 ごめんなさい、記憶障害って嘘です。居場所が欲しくて、嘘をつきました。


「青き魔力は、速さと知性を象徴する。お主はきっと異界の知識も持っているのだろう。今日は早く寝て、明日たくさんのことを私に教えてくれ。今日が世界の分水嶺になる。クニカズの転移以前とクニカズの転移以降で歴史はまるで変わるのじゃ」

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