16

「シア……」

「あの、お嬢様、セルジュ様は……」


 主への不敬を承知で、ネリーは話に割って入ろうとした。そんなネリーを、セルジュが静かに制した。


 そして、深く頭を下げた。


「シア、すまなかった」

「……いえ」


 それだけ言うのが精一杯だった。だがセルジュの頭を上げさせるには足りないようだった。


「お前の耳に入れていいものか迷っていた。そうこうしているうちに時が過ぎて……結果的に、より傷つけることになってしまった。本当に、すまない」

「……お兄様も、私を慮ってのことだったのでしょう。一応、それくらいはわかります」

「お前を慮っているということを口実に、先延ばしにして、お前を軽んじていたんだ。そのことを、何よりも申し訳なく思う」

「……わかりました。私も、強く当たってしまって、ごめんなさい」


 レティシアは素直に謝罪を受けることにした。自分もまた頭を下げると、セルジュが動いた気配がした。


 どうしたのかと頭を上げるよりも前に、レティシアの体は、セルジュの腕に包まれていた。


「本当に、すまなかった」

「お兄様、ですから……」

「危ないことでは、ないね?」

「え?」


 顔を上げると、セルジュの穏やかな笑みが視界いっぱいに映った。


「昼間やっていることだ。怪我をするようなことや、二度と私たちと会えなくなるような……そんな危険なことではないんだね?」

「は、はい」

「私の立場上聞いておかねばならないが……リュシアン殿下に危害を加えるようなことでも、ないね?」


 セルジュは言い淀みながら尋ねた。やはり彼の名を口にするのは憚られると思っているらしい。


 この空気を払拭するのは自分しかいないと、レティシアは思った。


「まさか。これ以上あの方のせいで立場が悪くなるなんてご免ですもの」


 きっぱりと言い放ったその言葉にセルジュはクスッと笑い、今度はポンポンとレティシアの頭を優しく撫でた。


「ならば、いい。毎日毎日部屋に籠もっているわけはないと思っていた。いつも通り、朝食と夕食は、ちゃんと一緒にとるんだよ」

「はい、わかりました」


 セルジュの微笑みを、レティシアはポカンとしながら聞いていた。


(これは……お咎めなし、ということ?)


 疑問符まみれのレティシアの顔を見て、セルジュが頷いた。


「もともと君が咎め立てされるようなことでもなかったんだ。当然だろう。ただ……一つ私のお願いもきいてくれないか?」

「何ですか?」

「以前と同じように、教会に礼拝に行って欲しい」

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